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完全無能力者の異世界転送  作者: ウェステール
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勇者リコリス

ウェルニア連合国の勇者リコリス・エイトールは、各国が保有する勇者の中でも一際異彩を放つ存在だ。


外見は、十代前半の小柄な少女。

だが、実際の年齢は――――




――――五歳にも満たない。




連合内の魔女の国で、禁忌とされる魔法で作り出された人造勇者。

それがリコリスだった。

エイトールは姓ではない。

「実験体888(エイトオール)号」の意だ。


従属化の魔法で縛られた彼女は、同様の存在達と共に過酷な訓練を受けされられた。

命懸けの訓練の中で、適性なしと判断された者は非情にふるい落とされる。

その末路を聞きたいと思う者は、リコリス達の中には居なかった。

一年間の、血で綴られた日々。

生き残ったリコリス含む十人の実験体に与えられたのは――――




――――互いに殺し合って最後の一人を決める、バトルロイヤルだった。




地獄の訓練を励まし合い、助け合って生きて来た仲間達が鬼の形相で命を削り合う中、リコリスはただただ逃げ、隠れ、潜み、耐え凌いだ。

泣きながら。

他の実験体全てを倒し、ボロボロに消耗した状態でリコリスに倒されたのは、彼女の親友だった。




リコリスの戦い方は、たった一つ。

『全力を集中しての体当たり』のみだ。

魔力のみならず、精神力や生命力も限界ギリギリまで引きずり出し、突撃する。

当然、攻撃後は動けない。

一応、動けなくなった彼女を回収する役の監視者は居るが、戦力としてはアテにはならない。

外せば、後はない。

だが、当たれば魔王ですら一撃で死に至る、まさに『必殺技』だ。

故に、リコリスは相手を慎重に調べる。

対象の行動パターンを把握し、独りないし一発で護衛も諸共に殺せる状況になるまで、ひたすら待つ。


忍耐強く好機を待つ。


リコリスが他の実験体達を凌駕していた唯一の能力がソレだった。




南の魔王を倒し、真の勇者として凱旋したリコリスを、しかし国の上層部は褒め称えたりはしなかった。

賞賛や報償の代わりに与えられたのは、最近頭角を現してきた『魔王エンド』討伐という新たな任務だった。


浩一の身辺を調査し始めたリコリスは、それが進捗するにつれて絶望した。

北の魔王を従属させ、アルカーノ王国の勇者ロイシュを撃破。

東の魔王を手懐けた際には、魔王をも凌ぐ存在と云われる魔神さえ倒したという。

共回りも皆魔王クラスの超級モンスターばかりで、しかも常に複数人が侍っている。


南の魔王を倒した事で、勇者とは名ばかりのリコリスの役目は終わっていた。

これは不用品を処分するための、最初から不可能なミッションなのではないか?

疑いながらも、リコリスは好機を待った。

生きるために。

彼女は親友を手に掛けた瞬間から、今まで犠牲になってきた実験体達の無念の分まで生きてやろうと誓っていたから。


何年でも待つ。

その覚悟でストーキングを続けてきたリコリスだったが、意外にもチャンスはすぐに到来した。

帝都にやって来た魔王エンドは、護衛を一人にまで減らして城下町を散策し始めたのだ。

ここを逃したら、今度はいつ好機が訪れるか分からない。


(これで……仕留める!)


リコリスは覚悟を決めた。

その瞬間、迷いも、不安も、警戒も、余計な思考は全部消えた。

何もかも削ぎ落として、殺意で全てを染める。


リコリスはしゃがみ込むと、クラウチングスタートの姿勢を取った。

誰に指導されたわけでもない、彼女自身の試行錯誤の結果導き出された姿勢だ。


「GO!」


発進したリコリスは一瞬で音速を超え、浩一に向かって跳んだ(走った)

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