エルダート帝国
エルダート帝国はゼルガの森の北方に位置する軍事大国だ。
東西に長い国土は、緩衝地帯を挟んでいるもののゼルガの森と東の魔王の領土、更には『北壁』と呼ばれる山脈を挟んで北の魔王の領土にも近く、魔物の侵攻を受ける頻度が高かった。
軍事力に偏重するのも致し方ない立地と言える。
また、土地がそれほど豊かではないため、南西部で接するアルカーノ王国の穀倉地帯を巡って、王国とは度々小競り合いを繰り返してきた。
土地の貧しさというハンディキャップを補うため、特に魔法技術の開発に力を入れており、近衛限定とはいえ一部隊の全員に魔法の武具を支給するという偉業を成し遂げている。
歴代皇帝は、その選出法からか好戦的な人物が多く、「一国による世界統治」を掲げて他国や魔物の領域に攻め入る事も少なくなかった。
「北の動きがキナ臭くてな」
事情を話すホークは、こう切り出した。
「この城が森に転移したと聞くまでは、北の魔王はもう自然消滅したと思ってた。転移したと聞いてからは北の魔王は本来の領土を棄てたと考えてた。こっちから仕掛ける事はなかったからな」
「確かに、ここ暫くは帝国からの攻撃は無かったの。平和で良いひと時であったわ」
「そういやシャルロットは、帝国に攻め入ったりはしなかったのか?」
「アンデッドに『肥沃な大地』は必要ないからの。血や生気もあの辺りに生息するモンスターで足りる。攻める理由もないのに攻めるのは、百年前に飽きたでな」
「その前は面白半分で攻め込んでたのかよ。騎士王国とやらは、とんだとばっちりだな」
「それが魔王の仕事と思っておった時期もあった、という事じゃな」
「……続き、話していいか?」
脱線して話し始めた浩一とシャルロットを制して、ホークが続ける。
「もぬけの殻とばかり考えてた北の魔王の領域で、悪魔を見かける者が出だしたんだ」
「なるほど、クヴァルカンの奴は悪魔と契約して、あれほどの力を手に入れよったか」
「で、だ。帝国としては、北への対応に注力したい。王国はアンタらが勇者とその弟子を叩いてくれたお陰で考慮に入れる必要がなくなった。後はアンタらゼルガ共和国と東の魔王に話をつけておきたかった……んだが……なんで東の魔王がここに居るんだ?」
ホークと、遠征に参加しなかったメンバーの視線が、ちゃっかり会食に参加しているイシリスに集中した。
「私は〜、もう東の魔王じゃないわよ〜♪浩一さんに譲ったから〜♪」
今度は浩一に視線が集まる。
「まぁ、その、なんだ。形だけは、な」
「元北の魔王と元東の魔王を配下につけた人間……俺も大概な常識外れだと思ってたが、アンタは俺以上に規格外なようだな」
ホークは椅子の背に身体を預けて嘆息する。
直後に神妙な顔で
「……やっぱ、属国とかじゃないと呑んでくれねぇかな?」
と聞いて来た時には、浩一も思わず吹き出してしまった。
「別に属国なんて要らねえよ。同盟の話を受けるかどうかは、各種族の代表を集めて協議するから、ちょっと待ってくれ」
と言いつつも、受ける方向に尽力する気満々な浩一だった。
シャルロットやロザリンドも無言で頷く。
威圧も腹芸も駆け引きもない皇帝らしからぬ皇帝に、皆一定以上の好感を感じているようだった。




