魔将四天王
「セ・バス!」
「はっ!」
怒気を孕んだ呼びつけに、男装の少女が瞬間移動かと見紛う速さで傍らに控えた。
そちらには見向きもせず、魔王は命を下す。
「将軍達を全員、今すぐ、早急に、ここに呼べ。20分だ。遅れた者は私を愚弄したものと見做す。行け!」
「はっ!」
震え上がる執事は、文字通り目にも留まらぬスピードで、玉座の間を退出して行った。
俯くイシリス。
ナナミですら声を上げられない雰囲気が、重苦しい。
だが、その顔が上げられると、先刻の「気の良いおばさん」が戻って来ていた。
物質化しそうなほど濃厚だった鬼気も、同時に雲散霧消する。
「ゴメンね〜。今すぐ部下に確認するから〜、ちょっ〜っと待っててね〜」
手ずから浩一達に菓子や茶を振る舞う様と、魔王然とした態度のギャップに、さすがの浩一も眩暈を禁じ得なかった。
20分を待たず、将軍達はイシリスの前に集結した。
全員が時間内に揃った事に、執事はイシリスの背後で胸を撫で下ろす。
東の魔王の配下の将軍は四人いた。
一人は武骨な魔法金属の甲胄を着込み、三又槍を持ったリザードマン。
一人はローブを羽織った若い女性。
だがその裾から伸びるのは足ではなく八本の蛸の触手。スキュラという奴だ。
一人は鱗状鎧を着ているのが冗談かと思える半魚人。獲物は両腰に長剣を佩いている。
残る一人は……一人と呼ぶべきか?ソレは辛うじて人型っぽく見える粘性体の塊だった。
「顎の魔将ザカイラム、御身の前に」
渋いバリトンの声で、リザードマンが頭を下げる。
「渦の魔将ベルクラルド、御身の前に」
スキュラは気怠げな声で応じ、妖艶な仕草で一礼する。
「鱗の魔将バルバトロス、御身の前に」
半魚人の声は見た目に反した甲高い声だ。
エラからシューシューと呼気が漏れるのが気に障る。
「毒の魔将トローマ、御身の前に」
スライムは身体を変形させて声帯を作っているのか、発声がぎこちない。
四人の将軍達の最敬礼を受けて、魔王イシリスは鷹揚に頷いた。




