東の魔王
「東の魔王?」
収容され、介抱され、意識を取り戻した獣人族の女『ハクガ』と面会した浩一は、思わず聞き返した。
ちなみに会談は『謁見の間』ではなく、客間に浩一達が出向く形で行われた。
ハクガの体調を慮っての事だ。
「“東の”って事は……魔王って、何人も居るもんなのか?」
素朴な疑問に、シャルロットが答える。
「東西南北に一柱ずつ、な。もっとも『西の魔王』はアルカーノの勇者に討伐されて以降、継承者は出ておらんが」
「魔王って継承するもんなんだ……で、その東の魔王とやらが、君の集落を襲ってる、と?」
「あ、いえ……」
「現在進行形で襲ってたら、今頃更地さね。徴兵の知らせでも来たんだろうさ」
浩一の早合点を、ロザリンドが修正する。
「はい。魔王に従い、征西の軍に加われ、と。従わぬなら、見せしめに集落を焼き尽くすそうです」
「まぁた『服従か、死か』かよ」
ハクガの証言に、浩一は眉をひそめる。
事あるごとに浮かび上がるフレーズに食傷気味の浩一は、苛立ちを隠せなかった。
「北の魔王を従えさせたほどのお方なら、東の魔王にも対抗してもらえるのではないか、と思いまして」
「北の魔王?」
「お主の目の前におるではないか」
浩一の前で満面の笑みのシャルロット。
「北の魔王!?」
「いかにも。“元”が付くがの」
「なら“現”魔王は?」
「お主、と言いたいトコだがの。この森の北、エルダート帝国領の更に北方、氷に閉ざされた大地におるよ。そもそも城をこの森に転移してきたのも、現魔王『クヴァルカン』に追い立てられての緊急避難だったしの」
「そうだったの!?何で言わなかったんだよ」
「聞かれなかったからの」
「くっ、なんてテンプレな返し」
政権交代が起きていた事に驚くハクガと、初めて聞く魔王関連の情報に驚く浩一。
驚愕する二人を置き去りにして、シャルロットは話を進める。
「東の魔王なら知らぬ仲でもない。妾が仲立ちを務めてやろうかの。しかし、あ奴の支配領域は『征西』などと称して拡大せねばならんほど痩せてはおらんはずだがの?」
「そうなんだ……なんか魔王のイメージ狂うなぁ」
「昔は『一人の魔王で世界征服』なんて掲げてた奴もいたそうだがの」
「俺がよく知る“魔王”ってのは、そのパターンだな」
「他の魔王や勇者を苦労して退けたところでメリットも少なかろ?今は安定経営を目指すもの……なんだがのぅ。クヴァルカンといい、東のといい、時代が変わりつつあるのかも知れんの」
「なんかお婆ちゃんみたいな物言いだな」
「ほっとけ」
『とりあえず東の魔王に会って事情を聞いてみる』という結論に達した浩一達は、浩一と世話役のナナミ、集落への道案内のハクガ、魔王と面識のあるシャルロットまでは決まったのだが……
「姫様が出立されるのに、留守番など出来るか!」
「お前と姫様が二人っきりになるかも知れんだろうが。認めん」
……強硬に同行を主張する者が若干二名ほど出た。
ゼルガ共和国の防衛力を無為に減らさない為にも、どちらか一名にしたかった浩一だが、どちらも譲らないため『ジャンケン』で決着をつける事となった。
「グー、チョキ、パー……ふむ、三竦みの関係なのだな」
「これなら武力や魔力に頼らずに白黒つけられる、か。面白い」
と、何やら考え込んでいたオリアナが、唐突に宣言する。
「ルカミラ、私はパーを出すぞ」
「はぁ?!最初からそんな予告したら、勝負の意味がないじゃない」
「そうだな……私が宣言通りにパーを出すなら、な」
「な、何ですって!?」
疑心暗鬼に陥るルカミラと、それを余裕の表情で見守るオリアナ。
その時点で勝負は決していたのかも知れない。
結果はオリアナの勝ち、だった。
「ルールを聞いたばかりで『宣言攻撃』を使ってくるとは……オリアナ、恐ろしい子」
静かに笑うオリアナの姿にロザリンドの影響がほの見えて、寒気を感じる浩一であった。




