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完全無能力者の異世界転送  作者: ウェステール
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孤高のトロル

“火竜の塒”との異名を持つグラトニア山の麓に広がる『ゼルガの森』――――

人類の生活圏からは遠く、内部には瘴気が流れ、植生も通常の森とは一線を画すゼルガの森は、様々な魔獣や亜人達の坩堝だ。

その中でも最大級の勢力の一つが『トロル』である。


平均4メートルを誇る巨体は筋力に優れ、“天然の鎧”とも言える硬い表皮に覆われた身体には再生能力すら備わっている。

ちょっとした傷なら数秒、手足が欠損してもパーツを紛失さえしなければ数日で元通りに癒着するほどだ。


彼等の価値観の全ては、暴力だ。

より強い者が、弱い者達を従える。

それは恋愛に対しても同様で、トロルのメスは求婚してくるオスと本気で戦う。

己を腕力で屈服させ得る者以外には、決して身体を許さないのだ。




ギディアはメスのトロルだ。

火神『エルファ』の加護を受けた突然変異種である彼女は身長5メートル超、肌の色は一般的なトロルの石色(グレー)ではなく赤銅色、髪の毛は燃える炎を思わせる真紅だ。

他のトロル達より一回り大きいながらも敏捷性は損なわれないのは、並外れた筋肉量の為せる技だ。

つまり――――べらぼうに強い。

トロル達の間では「醜い」とされる容貌でありながら結婚を迫るオスが引きも切らなかったのは、ひとえに彼女が強かったからだ。

彼女は、来る日も来る日も求婚者たちとの闘争を続け、その結果――――



――――伴侶に恵まれなかった。



部族のオスを全て捻じ伏せ、噂を聞きつけた他部族のオス達をも退け、とうとう挑戦者がいなくなったのだ。


部族の長ですら触れ得ぬ孤高の存在として恐れられ、疎まれ、避けられるようになったが、ギディアには特に不満はなかった。

自身のこの強さを次世代に残せないのは多少勿体なくはあったが、自分と釣り合わないオスに抱かれるのはプライドが許さない。

いつしか彼女の人生の目的は「ひたすらに鍛えてどこまで強くなれるか」を追い求めるものとなっていた。


そんなある日。

倒木に腰掛け、狩りで仕留めた鷲獅子(グリフォン)を食らうギディアに声をかけて来たのは、一匹のゴブリンだった。

通常、彼女はゴブリンを襲わない。

弱過ぎてつまらないからだ。

特に空腹な場合はその限りではないが、時に強者の居場所を教えてくれるゴブリン達を、彼女は同族以上に厚遇していた。

人心地ついてゲップを漏らしたタイミングで近付き、引きつった笑みを浮かべているのは、どうやら「その限りでない場合」を目撃したことがあるゴブリンらしい。


「どうした?また用心棒か?」


退屈そうにギディアが聞く。

ゴブリン達が自らを脅かす外敵に襲われた際には、多くの貢ぎ物を代償に彼女が相手をする。

もっとも、ゴブリン達にとっては「種の存亡を賭けるような敵」であっても、彼女にしてみたら「取るに足らない雑魚」なのだが。


「見付けましたよ、ギディアの姐さん。とびっきりの強者を」

「ふぅん。どうせまた『拳一つで沈む“強者”』なんだろ?」

「いやいや。今度こそ間違いありやせん!下手すりゃグラトニア山の火竜にだって勝てるかも知れませんぜ、ありゃあ」

「は!グラトニアの火竜……ね」


どう考えても話を盛っているとしか思えないゴブリンの報告に、ギディアの目が座りだす。

グラトニア山の古代竜(エンシェントドラゴン)といえば、言い伝えを聞くだけでギディアですら寒気を覚えるほどの化物だ。

眠りについて二百年ほど経つが、それを幸と評すべきか不幸と評すべきか、彼女の中でもハッキリしない。

そんな「半ば憧れの存在」を引き合いに出して誇張するゴブリンは、少なからず不快だった。

ギディアから吹き付ける鬼気に身の危険を感じ取ったゴブリンは、早口でまくし立てる。


「と、とにかく一度会ってみて下さいよ。ていうかもう連れて来てるんでさぁ。旦那!旦那ぁ!出て来て下さいよぉ~!」


半泣きで後退るゴブリンと入れ替わるように奇樹の陰から現れた者を目にして、ギディアは眉をしかめた。


「あぁ?なんだテメェは?」


イメージCV

ギディア:田中真弓

ゴブリンA:高木渉

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