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完全無能力者の異世界転送  作者: ウェステール
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王都にて

アルカーノ王国王都『アルクヘルム』は城壁こそセルトロスに劣るものの、内部の規模や発展度合は段違いだった。

裏路地も含めて道のほとんどは石畳で舗装され、建物の階数も高い。

長い年月で醸成された気品のようなものが感じられる首都の様子に、浩一は王宮までの道程を徒歩で行く事を提案した。

ギディアとナナミは完全に観光気分丸出しで辺りを見回す。


しかし、浩一には重厚な街並みよりも目を引くものがあった。


「グズグズするな!このノロマが!」


オークが首輪に繋がれ、鞭打たれながら荷を運ぶ。


「ケモノ風情が表通りを歩いてんじゃねーよ!」


獣耳の少年が衛兵にリンチされる。


着飾った貴族と思しき男の後ろに続く、暗く沈んだ面持ちのエルフ女性。


「ありゃ奴隷だね」


ロザリンドの一言に、思わずエルフを二度見する浩一。


「あのエルフ、ピアスを付けてるだろう?エルフってのは耳を神聖視してるんだ。『耳を傷付けると精霊や祖霊の声が聞こえなくなる』ってね。エルフの奴隷にはそんな慣習を無視してピアスを付けさせるのが、この国のトレンドなんだよ」


愕然とする浩一に、ロザリンドがさらなる解説を加える。


「エルフや美形の獣人を“肉奴隷”として抱えるのは、貴族のステータスなのさ。人間を奴隷にするのは、法が禁じてるからね」

「ひょっとして、セルトロスってかなり特異な感じなのか?」

「特異中の特異さね。でも人間主体の国家の異形種(モンスター)に対するスタンスは、どこも似たり寄ったりだよ」

「ふぅん……」


返事はするものの、納得しかねる顔で通りを眺める浩一だった。


と、辺りを見回すギディアに、両手いっぱいに荷物を抱えたゴブリンの子供が衝突した。

荷物で前方がよく見えていなかったらしい。

当然のように一方的に競り負け、路上に荷物を撒き散らして転ぶゴブリン。

手を差し伸べようとして躊躇する浩一の脇から子ゴブリンに駆け寄ったのは、仕立ての良い服装の商人風の男だった。


「お怪我はありませんか?……ったく、何をグズグズしてるんだ!早く荷物を拾わんか!」


浩一とギディアには揉み手で愛想を振りまき、返す刀で子ゴブリンに蹴りを加える変わり身の早さに、さすがの浩一達も呆気に取られる。

商人の蹴りで荷物を拾えず、拾えないので蹴りを受けるという無限ループを目の当たりにして、見かねた浩一は商人に話し掛けた。


「あの、もうそのくらいで……」

「あぁ、お構いなく。こういう馬鹿は徹底的に躾けないとダメなんです」


なおも折檻を続ける商人に、違ったアプローチでの仲裁を試みる浩一。


「その子は貴方の奴隷なんでしょう?自分の持ち物なら大切に扱わないと」

「良いんですよ。壊れたら新しいのを仕入れるだけですから。いや、ちょっとくらい早目に壊してやらないと、下手に増えると厄介ですからな。この害獣共は」


浩一が激昂するより早く、傍らのロザリンドが商人の眉間に人差し指を突き付けた。

途端に商人の目から光が消える。


「アンタは充分に怒って満足した」

「私は……満足……しました」

「だからその子は寛大な心で許してやる」

「はい……許し……ます」

「よし。じゃあ行きな」


ロザリンドが商人の眼前で手を叩くと、目が覚めたかのように目に光が戻った。


「ほら、さっさとしろ!……では、ごきげんよう」


ロザリンドが術中に嵌めている間に荷物を拾い終えた子ゴブリンの頭を小突きつつ、商人が立ち去る。


「お見事」

「瞬間催眠なんて久しぶりに使ったよ。ちょっとレベルのある相手には効かない小手先の技だけど、一般人にはイケるもんだね」


浩一の賞賛に、照れるロザリンド。

三人の異形種(モンスター)達には見慣れた光景なのか、すぐに『観光モード』に戻って歩き出したが、釈然としない様子の浩一は、傷だらけで荷物を運ぶゴブリンの後ろ姿を路地裏に消えるまで追い続けるのだった。


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