転移城騒動の顚末
「で、貴方は城の主であるそちらのシャルロット嬢を倒して、ご自身の提案を通された、と?」
「えぇ、まぁ……」
曖昧に笑う浩一を目の前にして、グスタフには信じられなかった。
どこからどう見ても、ただの一般人だ。
これまで様々な才能や能力を持つ者達を見てきたが、そういった者には気配というか、オーラというか、歴戦の冒険者の第六感を刺激する“何か”があった。
だが、目の前の男にはその“何か”を微塵も感じなかった。
正直な話、多少衰えた自分であっても素手で簡単にひねれそうだ。
そんな凡人が、伝説になるほどの化け物を倒す?
有り得ない。
だが……
「うむ。間違いない。完敗であったわ」
カラカラと気持ち良さげに笑うシャルロット。
こちらは様々な所作に言い様のない威圧感というか、“こちらの恐怖を呼び起こす何か”を感じる。
敵意を向けられていないから相対出来ているものの、少しでも敵対的な行動を起こされたら、平伏するか遁走するかしかなさそうだ。
そんな化け物が素直に敗北を認め、付き従っているのだから、やはり真実なのだろう。
「城のアンデッド達で血や生気を必要とする者達の為に、森に生きる者達が少しずつ提供すれば、何とかなるかなぁ……って」
『献血/献気』と言うそのシステムによって、現在ゼルガの森ではアンデッドに安定的な血液や生気の供給を成功させていた。
また、アンデッド側は疲労や睡眠とは無縁の特性を利用して城の周辺を開拓、森の者達に居住スペースや食糧の供給を開始。
両者は理想的な共存関係を構築していた。
「し、信じられん……」
デルガドが思わず呟いた一言に、浩一が反応する。
「ですよね。俺も貴方達の立場だったら信じられませんよ。バンパイヤに魅了されて操られてるんじゃないかーとか」
「「!?」」
「もしそうなら、今頃お主達は妾に襲われて死した後に眷属になっておるか、魅了されてシモベになっておるだろうよ」
浩一の話の可能性に思いを馳せ、背筋を凍らせた二人を不穏極まる台詞でフォローするシャルロット。
恐らくは冗談で言ったのであろうと判断して愛想笑いを試みる二人であったが、ちゃんと笑えている自信は皆無だった。
「でも街の実力者と直接会えたのは、いいタイミングだった。実は俺達がここに来たのは、移住者を募集するためなんです」
「移住者ですと?」
「これだけの大きな街なら、スラムでくすぶってる農家の次男/三男とかがいるんじゃないかと思いまして」
確かに、アルカーノ王国の農地は一括継承が普通だ。
通常、親の農地は長男が継ぎ、「長男に何かあった時の予備」である次男/三男以降は居候になるか、放り出される。
放逐されて街に来た次男/三男は商人や職人を志すが、挫折してスラムに流れ、犯罪に手を染める者も多い。
「アタシらには農業の知識や技術が無いからね。そういったモノを指導出来る人材が欲しいのさね」
ロザリンドの説明にデルガドは頷き、黙考する。
この街の人間なら、他の街の者ほどには異形種に対する忌避感は無いだろう。
スラムで明日をも知れぬ毎日を送るくらいなら、と思う者も居るかも知れない。
街としてもスラムの犯罪者予備軍を引き取ってもらえるなら、それは悪い取引ではなかった。
「分かりました。街に触れを出しましょう」
「ありがとうございます。それでギルド長、何か短期でこなせそうな依頼はありませんかね?森に対するイメージを上げたいんですけど」
「そうなるとモンスター退治が主流になると思うが、いいのかね?その……同じ種族を殺したりとかは」
「……人間がそれを懸念するのか?」
グスタフの言葉は純粋な親切心からくるものだったが、ルカミラの辛辣なツッコミには赤面して恥じ入る他なかった。