領主/ギルド長との面談
ギルドの応接室で浩一と面会したグスタフは、軽い困惑を覚えていた。
聞いた話では、浩一に同行するのは魔女ロザリンドとゴブリンが一匹だったはずだが、その陣容が変わっていたからだ。
まず目を引くのが、褐色の大女。
装備はありふれた革鎧だが、それを下から押し上げる筋肉の量はその圧倒的なパワーを嫌が応にも想像させる。
もう一人は、見事な作りのフルプレートの騎士。
兜を被らないのは、頭に攻撃を受ける事などないという自信の表れか。
首に巻いたマフラーをしきりに気にしている様子が印象的だった。
最後は冒険者というには場違い過ぎる、白いドレスの美女。
美しいといえば先の二人も趣の異なる美女なのだが、こちらはそれらをも凌いでいる。
人を小馬鹿にするかの様な視線と微笑に、新たな性癖を呼び起こされそうな気がしてグスタフはかぶりを振った。
「いや、大層な美女に囲まれて羨ましい限りですな」
「はぁ。ありがとうございます」
とりあえず仲間を褒めてみる。
が、浩一を含め相手の反応は鈍かった。
大女と騎士は自分の事とは気付いていないのか、意図的に無視しているのか。
白い女は笑みを深くしたが、お世辞を喜んだというよりは嘲笑しているという感だ。
「で、ギルド長に街の領主などというお偉いさんが、俺みたいな新米に何の御用で?」
「ミスラルの遺跡を踏破した方を新米だなんてとんでもない!まずはこちらをお納め下さい」
訝しげな浩一にグスタフが渡したのは、『2級冒険者』の身分を表すプレート。
ドッグタグに似たそれは魔法金属で作られていた。
「え!?いきなり?そんなに簡単に等級を上げて問題ないんですか?」
「問題も何も、あの遺跡を踏破するなどという偉業を果たされたのなら、1級だって不自然ではありませんよ」
困惑する浩一に、過剰なまでの敬意を示すグスタフ。
実際、一つダンジョンを攻略したくらいで、ここまで飛び級する冒険者は前代未聞だ。
だが、グスタフの言葉に嘘はなかった。
ミスラルの遺跡は特級冒険者たる勇者であっても踏破は難しいのではないかと云われた超級難度のダンジョンだ。
実績としては充分といえた。
「まぁ、貰えるというなら貰っておきますけど……用件はこれだけですか?」
不審げな顔の浩一の一言に、グスタフは言葉を詰まらせた。
昇級を餌に城に向かわせようとしているようで、気が咎めるのだ。
口ごもるグスタフに代わって、デルガドが話し始める。
「実は……ゼルガの森に現れた城については御存知でしょうか?」
「えぇ、まぁ……」
「その城の調査を依頼したいのです」
浩一の顔が引きつった。
城の危険性を知っている顔だ、とグスタフは読んだ。
間髪入れず、デルガドのフォローに入る。
「勿論、ギルドとして最大級の支援はさせて貰います!報酬に関しても……」
グスタフの早口を遮ったのは、白い女だった。
「森に出現したあの城、伝説では国家をも滅ぼす強大な真祖吸血鬼が主人だと聞いておるが?」
「は、そ、それは……」
「そんな危険な場所に妾達だけで向かえ、と?」
「他の冒険者にも協力を要請して……」
「有象無象では話になるまい?かつて滅ぼされた騎士王国は、『剣聖』とまで呼ばれた騎士を含む数百人の部隊を送って全滅させたぞ」
白い女の後ろで、喉の調子が悪いのか女騎士が咳払いをする。
シャルロットの怒涛のツッコミにしどろもどろになるグスタフの様子に、堪えきれなくなったギディアが吹き出した。
それを契機に、ロザリンドとナナミも笑い出す。
「もうちょっと我慢しなさいな、堪え性のない」
「お前だって笑ってんじゃねぇか」
「ナナミ頑張ったよ?ギディアが笑い出しっぺだからね」
何が起きているのか理解出来ないグスタフとデルガドは、ギディア達が落ち着くまで黙って見ているよりなかった。
「いえね、実を言うと俺達、もうあの城に行って来たんですよ」
「……は?」
浩一の告白に、グスタフもデルガドも呆気にとられる以外に出来ることはなかった。