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完全無能力者の異世界転送  作者: ウェステール
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対策会議

ゼルガの森全域を唐突に覆った黒雲の話は、森の外周近郊をパトロールしていた冒険者を通してセルトロスの街に伝わった。

次いで『森に突然現れた城』の報を受け、街の上層部は総毛立った。



数百年前、周辺諸国随一の兵力を誇っていた騎士の国『アトランド王国』を一年足らずで滅ぼしたという、真祖吸血鬼の居城『転移城』ーーーー



あくまでも伝説上の存在と思われていたモノの実在を知って、街の領主デルガド・スタイラスは少し寂しくなりつつある頭を抱えた。

ゼルガの森からの侵攻に備える為、セルトロスにはアルカーノ王国内でも屈指の兵力が駐留している。

だが、相手は一国をも滅ぼすレベルの化け物だ。

セルトロスの街単独で対処するのは無謀に思われた。


「王都に報告して『勇者』の派遣を求めたらどうだ?」


進言するのは、セルトロスの冒険者ギルドの長にしてデルガドの幼馴染み、グスタフ・ロンダールだ。

その目には心配の色が濃い。

無二の親友がここ数日の心労で体重を落としているのを知っているからだ。


もっとも、他人からすると「それでも十分過ぎるくらいには立派な恰幅」なのだが。


「もう報告も要請もしたさ」


返答は「勇者は王国の切り札であり防衛の要である為、おいそれとは動かせない。周辺の街と連携して奮戦せよ」だった。


「馬鹿な!今動かさないで、いつ動かすっていうんだ!」


グスタフがテーブルを叩く。

引退したとはいえ元冒険者で、しかも今でも鍛錬は欠かしていない戦士職の一撃に、テーブルが悲鳴を上げた。


「必ずしもこちらに仕掛けてくるとは限らないと考えているのか、もしくは……」

「もしくは?」

「王都に来るまでに消耗させたいとか、この街を滅ぼして満足するかも、と考えているのかもな」

「!?」


デルガドの疲れた笑みが、グスタフのこめかみに青筋を浮かべた。

王都に亀のごとく引き篭もる為政者達への怒りのあまり、目眩すら覚える。


実際、人類の超越者たる勇者は国の最終兵器だ。

だが、その勇者が『西の魔王』を倒したのは30年も前の話だ。

今の勇者がその頃の実力を発揮出来るとは思えない。

切り札をきっても倒せなかったとなれば、王国の士気は地に落ちるだろう。

しかし、「より磐石な勝利の為に死ね」と言われて喜んで死地に赴くほど、グスタフは王家に親愛の情を持ってはいなかった。


「勇者といえば……『我が街の英雄』にコンタクトは取れたのか?ほら、あのミスラルの遺跡を踏破したとかいう……」


デルガドの問いにグスタフは顔をしかめた。

『鷲の目』からミスラルの遺跡が踏破されたと報告が上がって以来、ギルドは血眼になって“モンスターを連れた中年の新米冒険者”を探していたが、ダンジョン攻略前に『そよぐ木の葉亭』に宿泊した以外の消息は分からないままだった。


「彼に同行していた魔女ロザリンドは、ゼルガの森に住んでいると聞く。もし彼も森に住んでいるなら、既に城の主人と会っている可能性が高いだろう。そして、城がまだ森にあるという事は……」


最後まで語ると悪い予想が現実になりそうで、グスタフは口をつぐむ。


直後にギルドの受付嬢が会議の場に駆け込んできたのは、グスタフのジンクスとは全くの無関係ではあったが、彼の記憶に鮮烈に刻み込まれる事となった。


「こ、コーイチ・エンドー様が、ギルドにおいでになりました!」

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