本編脚本2/4
■閑静な団地/団地三号棟裏手
ダウジングマシンのようなものを携えつつ、団地の間を徘徊する杉田。そこらを探しつつ『It’s all right』を口ずさんでいる。
杉田「フーフーフーフフーフン♪いっつおーらぃ♪ ……ん?」
杉田、遠くの草むらに視線を飛ばして目を細める。
草むらやマンホールの蓋の上に、色とりどりの各種コアメダルが無造作に散らばっている。
杉田、そろそろと近づいていってそのうちの一枚を手に取る。
杉田「こいつか……」
しばらく手の中のコアメダルを見つめていた杉田、何を血迷ったか突然仁王立ちになってカメラを正面から見据えると、唐突に仮面ライダーバースの変身シーンを真似し始める。
杉田「チャリーン!『……変身!』―――――なーんつってな!」
一人で勝手に盛り上がっている杉田。
他のコアメダルも拾い始める。
そのとき背後の建物の影から、笑みの怪しい謎の男が姿を見せる。杉田、気付かない。
闇雄「………」
闇雄、杉田の背後に落ちているコアメダルの山に静かに手のひらをかざすと、軽く力を込める。赤い電撃が小さく放たれて、メダルに感電する。突然、杉田の背後に落ちているコアメダルのうち、緑色のクワガタ・メダルだけが小刻みに震えて回転しだす。杉田、気付かない。
■閑静な団地/小さな公園
座ってパソコンの画面を覗いている日暮。『Wonder Chance』を口ずさんでいる。
日暮「きおくーの中のー、君を思い出すたびー♪」
のんきな日暮。
しかし、ふと真顔になって、
日暮「ちぇっ。杉田さん、なんでいつまでたっても俺を認めてくれないんだよ。俺だって、オリジナルさえ許してもらえればすぐにだって………」
そのとき突然、遠くから気配を感じてハッと顔を上げる。
日暮「杉田さん………?」
日暮の見ている遥か先で、杉田がまるで操られたようにフラフラと歩いてくる。杉田が顔を上げると、その両目が怪しく緑色に光る。
日暮、異変に気付く。
日暮「杉田さん!?」
途端に、杉田が奇声を上げて襲い掛かってくる。日暮、咄嗟にその場を離れて攻撃を回避する。焦る日暮。攻撃をかわされた杉田、背中を向けた状態から徐に日暮の方を見る。目の様子が尋常でない。声も異質になっている。
杉田「コノハンジュクノブンザイデ、オレノコウゲキヲヨケルトハ……………イマイマシイヤツメ!」
日暮「いったい何考えてるんですか、杉田さん!?」
杉田、問答無用で飛び掛ってくる。その攻撃をかわし、杉田と日暮の二人による徒手空拳の格闘がしばらくの間続く。やがて掌底の一撃で日暮を遠くに弾いた杉田、胸元に手をやり宣言する。
杉田「……サモン・『スカルマグナム』!」
杉田の手の中に電子データのようなものが沸き起こり、『スカル』の銃スカルマグナムが発生する。杉田、容赦なく日暮に向けて発砲。白いエネルギー弾が何発も日暮に目掛けて飛んでいく。日暮、慌てて回避。しかし杉田の攻撃はやまない。逃げ続ける日暮。杉田、それを見て馬鹿にしたように、
杉田「ドウシタ………ソノテイドカ、ムノウナハンジュクガ!」
日暮「くそ………まさか、杉田さんは俺を試してるのか? なら―――サモン・『ディエンドライバー』!」
日暮、躊躇いながらも胸元に手を当て、宣言する。たちまち電子データが集合し『ディエンド』の銃ディエンドライバーが発生。日暮、慌てつつも笑顔になって、
日暮「や………やった、出来たぞ! 見てくださいよ杉田さん、言われたとおりちゃんと出来たじゃ―――」
嬉しそうに言う日暮に向かって杉田、容赦なく銃撃。日暮、突然のことに後ろ向きに引っくり返る。
杉田「ダマレ、モホウモマトモニデキンオチコボレガ。オマエノカチハ、コノオレノ、アラタナチカラノジッケンダイニナルコトダケダ!」
日暮「―――何考えてるんですか、杉田さん!」
日暮、ディエンドライバーを構えて杉田に向かって銃撃。
青い光弾が何発か放たれて杉田に命中するが、身体の表面で光が弾けるだけで、杉田自身はこれっぽっちも後退すらしない。杉田、にやーっと嫌な笑みを浮かべて日暮を見つめる。
日暮、驚愕の表情で手元の武器を見下ろして、
日暮「そんな………こんなに弱いハズが―――」
杉田「ダカライッタロウ? モホウハセイカクニヤレトナ!」
杉田、再びスカルマグナムで銃撃。日暮、途端にダッシュしてディエンドライバーで反撃の銃声を響かせまくる。走って移動しながらの銃撃戦。無数のエネルギー弾がお互いの脇を通り過ぎていく。
二人して殆んど同時に立ち止まると、杉田が指を鳴らすと同時にその掌に緑色のエネルギー球が発生して浮遊し始める。杉田が腕を軽くスナップさせると、エネルギー球が飛び出し、怯んでいる日暮の目の前で爆発して日暮を吹き飛ばす。
周囲に広がる爆煙。しばらく光景が見えなくなる。
薄れていく煙の奥から、苦しげにしゃがみ込む日暮の姿が見えてくる。日暮、肩で息をしながら悔しそうに、
日暮「杉田さん………どうしてこんな!」
杉田「フッフッフッフ………メダルのチカラハサイコウダ。ナンデモデキル。アトハ、タシカナカタチヲモッタキオクサエテニイレレバ、ハントシマエノヨウニモウボウソウスルコトナド―――」
日暮「いくらちひろが可愛いからって、こんなの間違ってます!」
杉田「ナンノハナシヲシテルンダオマエハ!?」
日暮のボケに置いてかれる杉田。日暮は構わず、
日暮「ファン同士が争うなんてそんな、そんな………!」
杉田「ナニヲワケノワカランコトヲ………マァイイ、ドノミチ、キサマハハンニンマエ、ムシケラダ。オレニカテルワケガナイ!」
■公園の脇/建物の影
団地の建物の影からこそっと顔を出すサングラスと帽子の男・室長。室長、じっと公園の中央で対峙する日暮と杉田の様子を見つめている。室長、困ったようにワザとらしく首と手を振り、
室長「やれやれ………世話の焼ける奴らだ」
そういうと室長、何故か突然空に向かって指パッチン。『ビ~ト・オン!』という音声とともに足元で電子データが固まり、ひとつのラジカセのようなものが出現する。室長、腰に手を当てて困った風なポーズ。
■閑静な団地/小さな公園
日暮「杉田さん……この世界を守るのが我々の使命だと、俺に教えてくれたのはあなた自身じゃないですか!」
杉田「スギタ……? ソンナナマエハワスレタナァ?」
日暮「杉田さん………」
杉田「オマエノヨウナハンニンマエノヤクタタズトハナスコトナド、モウナニモナイ。オトナシク、シネェ!」
杉田、サッとスカルマグナムの銃口を日暮に向ける。身構える日暮。
しかし突然、どこからか『ALL 4 YOU』のメロディーが聞こえてくる。
日暮も杉田も訝しげな表情で周囲を見回す。
杉田「………何だこの曲は?」
日暮「これってまさか………?」
途端にどこからか聞こえてくるモブキャラたちの話し声。
「おい、これかのんちゃんの曲じゃね!?」
「うっそ、どっから聞こえてんの!」
「あっちの公園の方っぽいよ!」
杉田&日暮「「…………」」
画面外から響くモブキャラたちの声。
両者、最初のポーズのまま静止している。無表情のままお互いに見つめあい、日暮の背後の方を見る。
杉田と日暮、再び顔を見合す。杉田、露骨にチッと舌打ちをしてから、無言で自分の後ろの方を指差す。日暮、無言でうなずき同意する。両者、一時的に構えを解いてノロノロとその場を後にしていく。
謎の一時休戦。
■公園の脇/建物の影
室長、その様子を影から見つめて満足げに頷いている。
室長「がんばれ若者。よろしく勇気!」
■住宅街の真っ只中/公園
《そして、現在》
吹っ飛ばされて地面を転がる日暮。苦しそうな顔。
杉田、悪役顔でゆっくりと歩を進めてくる。
日暮、立ち上がろうとするがダメージが大きくて中々起き上がれない。
日暮「ぐぅうっ………」
杉田「ヨワイ、ヨワスギル………コンナコトデ、コノセカイヲマモロウナドトクダランユメミテイタノカオマエハ?」
日暮「(杉田さんはどうしたんだ……まるで別人じゃないか!)」
杉田「カアーッ!!」
日暮「くうっ!」
日暮、エンジンブレードの切っ先を杉田に向けてトリガーを引く。エレクトリックが発動し、青白い電撃が発射されて杉田がバリバリと感電する。
杉田「ヌウッ!」
杉田、一瞬動きが止まる。が、すぐに余裕の表情に戻る。
杉田「ヨワイナァ、ヤハリ。ダガ、ソノヒンジャクナソウゾウリョクデハムリモナイカ……」
日暮「くそっ、どうして駄目なんだ!」
杉田「オマエニハワカッテイルハズダ。オマエニハ、サイノウガナイ。ショセン、ザコハエイエンニザコナノダトナァ?」
日暮「才能………?」
日暮、ここで初めて目に光が宿る。
日暮「まさかと思ったが、お前………杉田さんじゃないな!?」
杉田「フン、ナニヲクダランコトヲ。ハンニンマエノゲンジツトウヒカ。オレハ、キサマモヨクシル杉田ダ―――」
日暮「しらばっくれるな!」
日暮、初めて怒りを露わにする。杉田を、今までにないほど強く睨みつけて、
日暮「お前は知らないだろう。杉田さんは、確かに厳しかったさ。何度も叱られた。けど………そこには優しさがあった。努力の価値を誰よりも知っている人だった。才能で人を雑魚呼ばわりするような人では決して無かった! お前なんかが、杉田さんであるハズがない!」
杉田「………チッ、ツマランヤツダ。クダランキズナヲシンジクサッテイルトハ。アンナモノハ、ヨクボウノアシモトニモオヨバンノニ」
日暮「お前は誰だ………杉田さんをどこにやった? 杉田さんを返せ!」
杉田「フン………カエシテホシケリャ、ウバッテミロ!」
日暮「上等だ………杉田さんはこの俺が必ず助ける! ………デュアルサモン・『エンジンブレード』!」
日暮が目の前に構えた武器が電子データのようなもので覆われていき、また再び現れる。
杉田、訝しげに、
杉田「オマエ、イッタイナニヲシタ?」
日暮、答えない。黙って目の前に武器を構えなおす。
杉田「フン、マァイイ。ショセンザコガナニヲシタトコロデ……」
日暮「だあああぁっ!」
日暮、突然叫んで杉田目掛けて突っ込んでいく。迎え撃とうとする杉田だが、瞬時にかわされて懐を切り裂かれる。
杉田「ヌウゥッ!?」
苦しそうにして胸を押える杉田。隠し持っていたコアメダルがこぼれ落ちて、バラバラと周囲に散らばる。杉田、憎らしそうな表情で、
杉田「キッサマァ………!」
日暮「………“二重召喚”って奴さ。想像力が足りなかった所為で宝具が弱いなら、もう一度、想像しなおせば良い! 少なくとも杉田さんを助けられるぐらいの強さにはなる!」
杉田「オノレ、コシャクナマネヲ~!」
日暮「ちなみに、今のは俺のオリジナル技だ。成功したのは、今のが初めてだけどな………さぁ、杉田さんを返してもらうぞ!」
日暮、エンジンブレードの『ジェット』を発動し杉田に向かって発射する。
杉田「フン!」
杉田、『ジェット』のエネルギー弾を裏拳で殴りつけ、あさっての方向に弾き飛ばす。飛んでいったエネルギー弾が近くの団地に着弾して爆発が起こる。杉田と日暮、互いに身構える。
突然、団地の炎の中から彼らの脇に何かが落ちてきて、それが小さなパッケージだと分かる。
二人「「!?」」
パッケージは『20世紀少年 第一章』のDVD。
杉田、しばらく呆然としていたが、おもむろに日暮のほうを向いてニヤリとする。
杉田「ククク……イイモノヲミツケタ。………ヘンシン!」
日暮「!?」
杉田の背後にゆっくり回りこんでいくカメラ。杉田のうなじ部分を見ると、緑色のクワガタ・メダルが張り付いている。
再び、緑色に発光する杉田の両目。
日暮、敵の正体に気がつき驚愕。
日暮「お前…………アイツか!!」
杉田の体が、突然糸が切れたように地に倒れ伏す。その背後にゆっくりと浮かび上がる緑色のクワガタ・メダル。
日暮「………!」
目を見張る日暮の目の前で、クワガタ・メダルがDVDの落ちている方に飛んでいく。