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 ※ ※ ※


 この数日前 オレは両親に言うべきか言わざるべきか悩んでいた。


 それは『画板』だ。


 デッサンや写生などでつかう あの画板だ。



 画板は学校でも貸してくれる。だかどうしても自分の画板が欲しかった。



 買って欲しいと相談したが にべもなく断られた。



 当時 親父は家の近くの工場で夜警の仕事をしながら、昼はバイトもこなしていた。


 

 母親は母親で市内の金物屋でパート。

 時には日曜、祝日でさえ出勤する有り様。



 寝たきりの祖父、病弱だったオレと弟を抱え 両親は働きずめだった。

 そうだ。貧しかったのだ。


 

 年に一度か二度しか使わない画板など買う余裕など 全くない。



 しかし、親父の一言に救われた気がした。


 少なくとも その時は……






「わしが作ってやる」



 親父は多趣味で 園芸、料理、日曜大工と何でもこなす。


 特に日曜大工は 玄人裸足の技で完成度は高い。



 オレは期待に胸ふくらませ、設計図を描き 親父に渡した。


 親父は早速自宅にあったベニヤ板や 大工道具を楽しそうに用意し始めた。




 そして写生大会の前日、親父から渡された画板は あまりにも小さすぎた。


 首からかける紐もおしゃれだ。

 ベニヤ板にはトノコを塗り、紙ヤスリで丁寧に研き上げてある。


 ご丁寧に 裏には彫刻刀で名前を掘り マジックインクでその部分を塗り込んでいる。



 ある意味 完璧だ。




 しかし


 しかし


 小さ過ぎるのだ。



 画用紙サイズどころか、教科書サイズだ。



 そう、設計図にサイズを書き忘れていたのだ。

 親父は画板を知らなかったのだ。



「どうだ、わしの力作だ。気に入ったか?」


 そう聞く親父に

「こんなんじゃない!」

 とは とても言えなかった。

 

 夜勤開け、更には残業もこなし疲れ果てた体で作り上げた作品。

 言える訳ないじゃないか。



「ありがとう! いい絵を描いてくるね」



 偽りの言葉が むしろ心地良かった。



 しかしさすがにこの画板は恥ずかしくて ランドセルに眠ったまま その日を過ごした。




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