初恋
君はぼくにこういった。
「私への想いをできる限り具体的に壮大にかつ、美しく教えてちょうだい。」
もちろんいいよと僕は言った。そして少し考えてから僕は言った。
「僕はふとした時にとてつもなく泣きたい気持ちになる時があったんだ。
それは本当に本当に苦しくて辛いものなんだ。
今もそれは完全には消えてはいない。
正直辛くて今にも泣きそうだ。
だけど、それにはどこか本当にかすかに安心感のようなものも混じっているんだ。
それが君の温もりだと気付いたのはほんの少し前さ。
そして僕はこの悲しみから逃れようといろんなことを試した。
キリマンジャロのてっぺんに登って大声で叫んで全てを吐き出そうとしたこともあるし、一日中絶え間なく笑ったこともある。
逆に一日中泣きじゃくった時もある。
それでもこの苦しみは取れなかった。
この苦しみは僕の中の奥の奥のさらに奥の南京錠がついている扉の中に何か原因がある気がしたんだ。
でもその南京錠は僕にも開けることができない。
そしておそらく南京錠の存在すら気づいていない人も多いはずだ。
でも僕はそれに気づいてしまった。
だからどうしても開けて中身を確認したかった。
そうすればこの苦しみから逃れることができるかもしれない。
だけど、その開け方のヒントさえもなく僕はただ呆然と南京錠が錆びて自然に開くのを待つしかないんだ。
それにはとても長い時間がかかるだろう。
僕が生きている間にはそれは開かないかもしれない。
そしてその時僕はひたすら待つことを決心したんだ。
その決心はとても辛いものでもあったけど、苦しみがあまりにひどいものだからまたざるおえなかったんだ。
そしてある日その苦しみは僕を殺すが如く激しい波に乗せてさらに大きいものを連れてきた。
正直僕はその時に死んだんじゃないかと思っている。
だけどその時、心は死んだがどうにか身体は耐えることができたんだ。
そして僕はその、さらに大きいもの、それが初恋だということは相当後に気づいた。
僕は初めて初恋をした。
僕はその初恋をもっと簡単なものだと甘く考えていたんだ。
しかしそれは全くの見当違いだった。
僕にとっての初恋は僕を殺してしまうようなものだった。
だから僕はその初恋から逃げることにしたんだ。
必死に全速力で逃げた。もう走れないというくらいに逃げた。
だけどその初恋は一度たりとも僕を離れなかった。
体は逃げているが頭はその初恋を逃したくないと思っていたんだ。
だから僕はその初恋を受け入れようと努力した。
しかし、その初恋は僕をさらに殺そうとひどく苦くて辛いものを僕にもたらすだけだった。
そして僕は心身ともにボロボロになって遂に死んだ。」
彼女は少し深呼吸をすると澄んだ目で僕を見ていた。真剣に僕の心を読みそして僕の話を読み、愛情を詠もうとしているようだった。
「死んだ後はいっときは僕はずっと誰からも放置されていた。
お墓に誰も入れてはくれなかったし、誰も花も添えてはくれなかった。
僕のもとに立ち止まるものもいなかった。
そして遂には雨が降り出したんだ。
僕の死体はどんどん濡れて水たまりの中に埋まっていた。
あの時は本当に辛かった。
しかし、放置されて結構な月日が経った時に突然心臓マッサージをされて飛び上がるみたいにものすごい衝撃が僕の元にぶつかった。
その正体はいつかの僕を殺した初恋だった。
そしてその初恋は僕を生き返らせてくれた。
初恋は無責任に殺しておきながら次は無責任に僕を生き返らせたんだ。
だから僕は頭にきてその初恋をどうにか消そうとしたんだ。
思いっきり怒鳴りつけて言いたいだけ言ってやった。
もうこれ以上にないというくらい全てを吐き出すくらいに。
そしたら初恋はそれを全て受け入れたんだ。
そして思いっきりの笑顔を僕に向けた。
だから僕は初恋を恨むことができなくなったんだ。
そしてその笑顔を向けられた瞬間に南京錠の鍵が僕の中の中の中の方で開いた音がした。
確かに鈍い音を立てながらゆっくりと鍵が開いたんだ。
だけど僕はその扉を開けるのが怖かった。
そこを開けた時にまた再び僕を殺すようなものが入っているんじゃないか、そして苦しい思いをさせるんじゃないか、不安だった。
そうして悩んでいると初恋が何の躊躇もなしに僕の中に手を入れて無理やりその扉を開けたんだ。
僕はびっくりして腰を抜かした。
だけどその時に扉から一つ何かが出てくるのがわかった。
僕はそれが何だったのか考えたがよくわからなかった。
考えて考えて考えた結果、初恋に聞くことにしたんだ。初恋は何の迷いもなくこう言った。」
「それは私への恋心ですよ」
と彼女はいった。
そして口角をかすかにあげると静かに僕の腕の中に入ってきた。