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第3話 1997…守護神の憂い

大変お待たせしましたー ! !

いやもう、途中で詰まって詰まって……

『ラメージ』の甲板に、2人の艦魂と、1人の人間がいた。


「ラメージ、参りましょう」


艦魂の片方が言った。

ラメージより幾分か大人びた風貌で、背も高い。

ミサイルフリゲート『ハリバートン』の艦魂だ。


「は、はい先輩。ううー、ドキドキする……」


ラメージは胸の高鳴りを鎮めようと、深呼吸をする。


「私も、緊張しています。数多の海戦を生き残り、合衆国海軍に勝利をもたらした女神……」


「なんか、ここからでもただならぬ気配が伝わってくる……」


そんな2人に、オスカーは語りかけた。


「ま、いい勉強だと思って、挨拶してこい。本当なら、俺も行きたいくらいだが」


ただ艦魂が見えると言っても、人によって度合いが違う。

オスカーの場合、艦魂の纏う力……東洋の言葉で言えば『気』までもを察知できるのだ。

大地の精霊達と共に生きてきた、先住民ネイティブの血の名残なのかもしれない。

人間である彼にも、コンスティチューションという船からは、並の艦魂とは明らかに違う強い気が感じられた。


「ミス・ハリバートン、うちの娘を宜しくお願いします」


「心得ました、ボイントン軍曹」


「ちょっと、あたしいつから軍曹の娘になったのよ ! 」


……そんなやりとりの後、ラメージとハリバートンは『コンスティチューション』の甲板へと、艦魂の力で飛んだ。





…………


「……来たか」


甲板の上で、コンスティチューションは呟く。

船内には兵士たちの他に、政治家やジャーナリストなどが乗っているが、彼女の姿が見える者はいないようだ。

そして、彼女の背後に『ラメージ』『ハリバートン』の艦魂が、姿を現した。


「……コンスティチューション閣下」


ハリバートンが口を開く。


「護衛役を仰せつかりました、ミサイルフリゲート『ハリバートン』でございます。ご挨拶に参りました」


「お、同じく、ミサイル駆逐艦『ラメージ』です。お、お、お会いできて、こ、光栄です」


ラメージもなんとか声を出した。

コンスティチューションは振り向き、微笑を浮かべる。


「護衛任務、感謝する。楽にするがいい」


優しげな微笑みに、ラメージの緊張は少し解ける。

同時に、コンスティチューションの『力』が、より強く感じられた。

その時、彼女たちの上空を、ネイビーブルーと黄色で塗装されたFA-18『ホーネット』が、6機で編隊を組み通過する。


「ほう……あそこまで綺麗に並んで飛べるのだな」


コンスティチューションが感心したように言う。


「彼らブルーエンジェルスは、世界最高のアクロバット・チームです。アメリカ海軍航空隊の最精鋭部隊と言っても、過言ではありません」


と、ハリバートン。


「昔なら、私も空を飛んでみたいと思っただろうな」


「昔……っていうと、戦っておられた頃ですか ? 」


ラメージが尋ねた。


「まあ、そんなところだ。あの頃の空は、今よりも広かった気がする」


飛び去っていくブルーエンジェルスに向かって、3人は敬礼を送る。

コンスティチューションはラメージとハリバートンの本体を見やった。


「そなたらも、なかなか立派な艦だ」


「あ、ありがとうございますっ」


「身に余る光栄です」


「そう畏まるな。私もそなたらと同じ艦魂、しかも軍艦の性能としては、最早そなたらの足下にも及ぶまい ? 」


その言葉に、ハリバートンは首を横に振った。


「いいえ、貴女様は我々と違い、艦魂が直接戦っていた時代を知っておられます」


コンスティチューションが戦っていた時代では、戦闘員達が敵艦に切り込む際、艦魂も敵の艦魂と刃を交えていたのである。

敵艦の船体に接弦しての移乗攻撃が行われなくなってから、艦魂はただ戦を見守るだけの存在となった。


「それに長い間、合衆国のために戦ったじゃないですか ! 私たちみんなの憧れです ! 」


ラメージも言う。

緊張が解けて、今度はアメリカ海軍の守護神と対面しているということに、気分が高揚してきたのだろう。


「……確かにの……私は、合衆国のために戦った。しかし……」


コンスティチューションはふと悲しげな目をした。

それを見て、ラメージの顔が青ざめる。


「あ、あの……な、何か悪いこと……言いましたか ? 」


恐る恐る尋ねるラメージに、コンスティチューションは優しく笑った。


「いや、そんなことはない。ただ、最近思うのだ。……私が望んでいたのは、こんな国ではない、とな……」


その言葉に、ラメージとハリバートンは目を見開いた。

同時に、アメリカの命運が尽きたような気分にもなった。

アメリカ海軍の守護者たるコンスティチューションが、アメリカに失望しているのだから、その通りなのかもしれない。


「核、と言ったか。街一つ消し去る、煉獄の焔……。先の大戦の後、あれの標的として沈んだ艦の声が、聞こえてきたのだ」


「閣下……」


「ただひたすら、強い力を求め、その先に何がある ? 正義だの、世界の警察だの、そんな理由を作り出して、この国はいつまで戦を続ける気なのだ ? 私が生まれてから、200年もの時が過ぎたというのに。途方もない数の命が、散っていったというのに ! 」


一瞬、彼女たちの間に、沈黙が流れた。


「……いや、すまぬな。そなた達に言っても、仕方のないことよの……」


苦笑するコンスティチューション。

ラメージは、自分の存在に疑問を持った。

所詮は兵器、所詮は人殺しの道具。

それはコンスティチューションも同じこと。

だが自分たちは、圧倒的に強力な破壊兵器を備えている。

コンスティチューションから見れば、船ではなく化け物かもしれない。


しかし。


(……この方には……まだ、私たちを見守っていてほしい……)


……そう願うラメージは、勇気を振り絞り、口を開いた。


「……閣下、私は……私は、自分に平和な世界を作る力があるなんて、思っていません。戦いの先に平和があるなんて、信じてません。けど、私に乗ってくれる人がいます。舵を取る人がいて、燃料を入れてくれる人がいて、口は悪いけど、よく励ましてくれる人がいて……上手く言えないけど、大勢の人達が、私を支えてくれるから……」


「………」


「国のためとか、正義のためとか、そういうの抜きにして……頑張れたら、いえ……一生懸命、生きていけたらいいな、って……思っています」


「……ふっ」


コンスティチューションは、ラメージの肩を軽く叩いた。


「……ありがとう。そなた君に会えてよかった」


心なしか、安堵したような表情で、コンスティチューションは言う。


「強い力を持っていれば偉い、などという考え方は、とうに限界がきておる。戦を終わらせるのは、心だということ……そなたらも、忘れないでおくれ」


「……はい」


「必ず」





…………




……







「……どうだった、ラメージ ? 」


自分の本体に戻ってきたラメージに、オスカーが声をかけた。


「……凄く、綺麗な人だった」


「……そうか」


「あの人が安心して、私たちを見守ってくれるような平和な海を、守っていかないとね」


「ああ」


……彼女たちは、戦うために生まれた。


しかし、心を持つことを許された。


ある意味では、それも残酷なことかもしれない。


それでも、艦魂たちは生きる。



表向きは、国のために。




本当の心は、もっと大事な誰かのために……



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