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第1話 1997年…舞い込む知らせ

どうも !

誰も書かないような艦魂を……ってなことで、いっそのこと帆船にしてしまおうと思いました。

伊四○○の最後で、鏑木の孫に絹海の手紙を渡した艦魂の話です。

……1997年……




アメリカ海軍ミサイル駆逐艦『ラメージ』。


その船内の一角に、1つの扉があった。

普通の人間には見えないその扉の向こう側には、合衆国海軍の戦乙女達が集っていた。


「いやー、全く」


「近頃うちの艦長がさー」


「お茶菓子切れたから、持ってくるわね」


テーブルを囲み、チョコレートやクッキーなどを食べながら雑談する彼女たち。

これが軍艦に宿る魂の姿と言われても、信じる者はいるだろうか。

いや、そもそも見ることができる者すら、限られているのだが。


その時、扉がバタンと開いた。


「邪魔するぜ」


入ってきたのは、日焼けした若い人間。

ラメージの乗組員のようで、下士官の服装をしている。

髪の毛や肌の色などは、モンゴロイドに近い。


「ちょっとオスカー軍曹、ノックぐらいしてって言ってるでしょ ! 」


艦魂の1人が抗議する。

金色に輝く長髪といい、その体つきといい、非常に魅力的な容姿だ。

しかし、どことなく子供のような雰囲気のこの少女が、ラメージの艦魂だ。


「本当なら、私たちの大事な会合に人間が来ることすら、禁止なんだからね ! 」


「あのなラメージ、大事な会合って、ただのお茶会じゃねーかよ」


オスカーと呼ばれた下士官は、呆れたように指摘した。


「とにかくな、お前に任務が出たことを伝えに来たんだ。ありがたく拝聴しろ」


「………任務 ! ? 」


ラメージの目が見開かれた。


「ラメージに任務ですって ? 」


「何なの ? 何処に出撃するの ? 」


他の艦魂たちもざわめく。


「ど、どうしよう、任務なんて……ねえ、誰と戦うの ? 何処で戦うの ? 」


ラメージは震えながら、オスカーにすがりつく。

やはりまだ子供なのだなぁ、とオスカーは思った。


「安心しろ、戦うわけじゃないし、至極安全な任務だ」


「そ、そっか。じゃあ、何をやるの ? 」


他の艦魂も、オスカーの方をじっと見て、言葉を待っている。


「お前、『コンスティチューション』って船、知ってるか ? 」


その言葉に、ラメージは顔を紅潮させた。


「知ってるわよ ! 私たちにとっては神様と同義だもん ! 」


馬鹿にされたと思っての怒りだ。


「ああ、言い方が悪かった。で、その『コンスティチューション』が、生誕200年を記念してだな、116年ぶりの航海に出ることになった」


「へえ ! 凄い ! 」


「それと、何の関係があるのですか ? 」


「もったいぶらないで教えてよ」


尋ねられ、オスカーは大事な部分を口に出した。


「ラメージよ、お前がその護衛をするんだ」


それを聞いて、ラメージの顔が強張った。

他の艦魂たちも固まる。


「護衛というか、付き添うだけだ。お前と、ミサイルフリゲートの『ハリバートン』が……」


「ななななな、何で ! ? 何で私なの ! ? 無理だよ無理無理 ! 」


ラメージは最早、完全にパニック状態だった。

それほどまでに、『コンスティチューション』という船は、彼女たちにとって大きな存在なのである。


「まあ落ち着けよ。ただ一緒に航海するだけだから」


「それだけでも大変なことだよ ! 海軍の守護神だもん ! どうしようどうしよう、ねえどうすればいいの ! ? 」


ラメージにしがみつかれたオスカーは、その肩を軽く叩いた。


「でーんと構えてればいいんだよ。お前はPar Excellenceな艦だ。かならずやり遂げられる」


Par Excellence……飛び抜けたもの、という意味だ。

それは即ち、駆逐艦『ラメージ』の標語である。


「ほ、本当に ? 本当にそう思う ? 」


「ああ。俺もできるだけバックアップするからよ」


「そうよラメージ、頑張りなって」


「貴女ならできるわよ」


艦魂たちも、ラメージを励ます。


「よ、よーし……私、頑張るね ! 」


「おう、その意気だ」


オスカー=ボイントン軍曹は、艦魂が見える貴重な人間で、海軍ではラメージの兄貴分のような存在だ。

常にこうしてラメージを励まし、勇気を与えるという、非常に重要な役割を果たしている。

もっともそれを知る者は、艦魂たちしかいないのだが。





……


……ボストン港……



かつてアメリカ海軍の伝統だった、黒い船体。


立ち並ぶ3本の帆柱に、44門の砲。


200年経っても、色あせない威厳。


1797年に進水したフリゲート『USSコンスティチューション』。

フランス、イギリス等との戦争で華々しい戦果を挙げ、敵艦の熾烈な砲撃を耐え抜いたことから『古い鉄の船腹オールド・アイアンサイズ』の異名を持つ。

やがて海戦の主力が帆船から蒸気船に変わった後も、現在も現役で海軍に所属している、アメリカ海軍のシンボルである。

1992年から1995年で分解修理を終え、この船は116年ぶりに、自力で航海に出ることとなった。


船内の『ある部屋』の中。

質素な装飾の施された木製の机を挟み、1人の水兵と艦魂が、チェスをしていた。

水兵はまだ若い男で、がっしりとした体つきだ。

対する艦魂の方は、古風なデザインの軍服を着こなした女性。

ウェーブのかかった茶色い長髪に、深い緑色の目。

体つきも豊かで、10人中10人が振り返るであろう美女だ。

しかし、それだけではない。

何か普通の艦魂とは違う、不思議な神々しさと威厳を持っていた。

彼女こそが、この船……コンスティチューションの艦魂だった。

椅子の手すりに頬杖をつきながら、彼女はおもむろに、黒のナイトを進める。


「……チェックメイト」


コンスティチューションは微笑を浮かべた。


「……参りました」


「そなたも、なかなかやるな」


「閣下には敵いません」


水兵は苦笑した。


「貴女様ほどになると、あらゆる手を知り尽くしておられるでしょう」


「まあ船は老いても、私の智と勇は健在じゃの。大抵の手は読める」


そう言って、コンスティチューションはふと切なげな顔をした。


「……だがな……この国の行く末は読めぬ……」


「行く末……」


「私が戦っていた頃には、見えたのだ。合衆国の輝かしい未来がの。しかし今は、星条旗も輝きの失せた星にしか見えぬ」


「また、戦場へ戻りたいと ? 」


水兵のその言葉に、コンスティチューションは驚いたように目を見開いた。

数秒後、愉快そうに笑う。


「ハハハハ……ハハ………そうか、そのようにも聞こえるな」


「は、失礼いたしました」


「仮に万が一、再び帆船の時代が来たとしても、あの頃の海戦は戻らぬよ」


コンスティチューションはグラスに注がれた酒を、すーっと喉に流し込んだ。


「私が憂えているのは、別の部分……。明日、私をエスコートする艦は何と言ったかの ? 」


「駆逐艦『ラメージ』と、ミサイルフリゲート『ハリバートン』です」


「ふむ……その者たちの心を、確かめてみるか」


……翡翠の如き緑の瞳は、何が映しているのか。

それを知る者はいなかった。



ラメージ

米海軍駆逐艦『ラメージ』の艦魂。

一見生意気だが、実は弱気。

彼女が見える乗組員のオスカーや、その他の艦魂たちからも可愛がられ、愛されている。

よくパニックになるが、一度やると決めたら引き下がらず、迷わないという芯のしっかりとした一面もある。




さて、第1話はまだ、ラメージとコンスティチューションの顔見せみたいな話になりました。

次回、コンスティチューションの過去の戦いを書きます。


蒸気船が発達し、帆船が時代遅れとなった時代に解体されかけるも、国民の声によりそれを免れたという、「愛された船」コンスティチューション……。

単に古いというだけでなく、戦果も凄まじいです。

風を受けて海上を走っていた彼女は、今の近代兵器をどう思っているかな、などと考えて書きます。

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