003
「旦那様、今日も一緒だね!」
「特別ぽく言っても、同じクラスじゃ当たり前だぞ」
「つれないな僕たちと君の仲じゃないか!」
「そうですわ! 1日を想い人と共に過ごす大事な時……何を言わせる気よ!」
お前が勝手に言ってんじゃん。
花咲も黒石も相も変わらず。
この調子いつもの学校での光景だ。
そりゃ皆可愛いから眼福かもしれんが、こいつらは結婚だの出産だの言いだして、夫婦生活を連想させてくるからな……否応なしに、こいつらの家庭力のなさを想像させてくる。
特に弁当は禁止ワードだ。
あの黒の卵焼きという名の消し炭はちょっとしたトラウマだ。
「旦那様実はね……」
花咲の言葉に背筋がぞくぞく。
伏線回収早いなおい。
「弁当ならパスな!」
「ええーそんな!」
「夜空君それは流石に酷いよ!」
「そうですわ! 酷いです!」
「黒色の卵焼きを食って、意識を失いかけるのはもう勘弁なんですけど!?」
「旦那様大丈夫、大丈夫、愛さえあれば!」
「そうだよ! 愛は偉大だからね!」
「そうですわ! ぱくっていっちゃいなさい!」
「そうだよ! はいあ~ん!」
いつの間にか花咲が弁当箱を開けていて、件の黒の卵焼き――てか消し炭を箸でつまみ。
俺の口元に。
俺は真一文字に口をガード。
そんな物食えるかってんっだ!
「むう、旦那様意地は張っちゃって! 今度は大丈夫だよ! ガムシロップとコーヒー粉末とクリープ多めにしたから!」
「なんで卵焼きがコーヒー味なんだよ! 斬新すぎるわ! 見かけただの消し炭じゃねーか!」
「それは隠し味だよ! はいあ~ん!」
「余計、怖くなってきたんですけど!」
「よし! 僕も協力するよ! ひまわりちゃん!」
「私もですわ!」
そういって黒石と赤星が手をわきわきと動かし、俺に迫る。
「止めろお前ら!」
「「「駄目!」」」
見事にハモった。
くうこの流れこいつらこうなると絶対あきらめねーんだよな。
二人に羽交い絞めされそうだ。
「旦那様大丈夫だから一口ね!」
「一口ぐらいならいいだろね! 僕の夫はそれぐらい軽いはずさ!」
「いいな……ひまわりちゃん私もよぞら君に……はっ別に羨ましくないんだから!」
「全くマジで一口だけだぞ……」
くっ……いつも思うが、俺はすでに尻にひかれているのではなかろうか。
断じて違うと言い張りたい。
「はいあ~ん!」
「へいへい!?」
黒色の卵焼きの慣れの果てをを一口。
何ツーかこれ。
「コーヒー味……じゃない酸っぱくて苦っが!」
口に入れた瞬間コーヒー臭がしたが、すぐに嫌なタイプの酸味と苦みが顔を出す。
ガムシロップの甘みは一瞬で終了。
一体何をしたらこうなる!?
「旦那様どう?」
花咲は上目遣いで聞いてくる。
不覚にも可愛いと思ってしまうのは内緒だ。
それにこういうモノは、はっきり言ってやる方がいい。
「普通に不味い!」
「やった! 今度は意識が飛びかけなかったんだね!」
「せめて、食えるレベルに進歩してから、喜んでくれませんかね!?」
「何言ってるのさ! これは大きな一歩だよ! 次は僕の料理も味見してね!」
「やだよ! 食える物にしてくれ! てか、いい加減消し炭以外の料理をご馳走してくれませんかね!」
「ほほう、僕の体で女体盛りを希望とは!」
「お前の耳はどうなってんだ!」
「そりゃ僕は君に美味しく食べてもらって、子供を産むのは夢だからね!」
「子供……私もよぞら君との子供欲しい! ちっ違うわよ! 勘違いしないでよ!」
「ずるい私も旦那様の子供欲しい!」
「だから言ってるだろ! 家事が壊滅的な専業主婦はいらん!」
「それでも逃がさないよ! 旦那様!」
「そうだよ! 僕のお腹は君の子供ためにいつだってあけているんだよ!」
「そうですわ! 私たちは運命で結ばれ……ってないからね! ほんとにほんとだからね!」
「だったらせめて、専業主婦だけは諦めてくれませんかね!?」
「「「だーめ!」」」
くっこいつらだから俺はこいつらをヒロインと認識しないんだよな。
夫婦生活を送るうえで家にお荷物が3人ってありえん。
そもそもこの国では一夫多妻制は法的に駄目だ。
それでも俺にこれから先、へばりつくように俺と一緒にいる、こいつらの姿がありありと想像できる。
「勘弁してくれ……お前ら何もできないくせに専業主婦ってふざけてんのか!」
「旦那様! そこはこの溢れる愛でカバーだよ!」
「そうだよ! 愛さえあれば僕たちは安泰さ!」
「そうですわ! 愛さえあれば幸せなのよ!」
「お前らだけがな! 全てやる羽目になる俺の身になれ!」
「もう旦那様ったら恥ずかしがっちょって!」
「そうだよ! 初めての野外プレイに挑戦する恋人達みたいなものさ! やってみれはきっと気持ちいいよ!」
「全く夜空君は恥かしがり屋なんだから! 私のパートナーとして胸をはりなしゃい」
赤星がセリフの途中で噛んだ。
赤星の顔はみるみるうちに真っ赤に。
「暁ちゃん落ち着いて旦那様が困っちゃうから」
「そうだよ! セリフを噛んだくらいで、夜空君は僕たちをい嫌いにならないさ! ねっ夜空君!」
「まぁそうだけど」
そういうと赤星の顔に笑顔の花が咲いた。
「べっ別に嬉しくなんてないんだからね! ほんとにほんとよ!
性格が特殊でダメダメな奴らだが見かけは美少女なのが始末に悪い。
気を抜くとこいつらの気持ちを受け入れそうになってしまうが、ここは鉄の意思で完全には受け入れない。
こいつらの気持ちを受け止める割合は、幼馴染兼友達のレベルでだ。
俺は幸せな夫婦生活を望んでいるのだ。
「ねえ、旦那様ハネムーンはどこにいきたい?」
「僕的には君と一緒ならどこでもいいけど希望を教えてよ!」
「私的にはハワイに、行きたいわけじゃないんだから!」
「またそれか、俺はお前らとそういう関係になる気はない!」
「「「えーーー」」」
「えーじゃない! 俺は家庭的な女性が好きであって! 家事が壊滅的なお前らはその対象じゃない!」
「ほほう、逆を言えば家事さえできれば、僕たちにもチャンスがあるんだね!」
「そうだが、無理だと思うんだが10年かかって全く成長してねーんだから!」
「大丈夫だよ! いざというとこは皆で修行にでるから!」
「そうかい」
正直って期待していない。
自信満々で散々食べされた消し炭が脳内にちらつく。
あのエクセントリックな味は昔から変わらない。
10年かかってもな。
時折ベクトルが変わるが不味い事には一切変わりはない。
「あー旦那様疑ってる! これは皆できめたのに!」
「そうだよ! これは決定事項さ! 僕たちが君を落とすためにね!」
「そういうことよ! よぞら君の胃袋、鷲掴みなんですことよ!」
「ほらお前ら席につけ」
ガラガラと担任が扉を引き教室に入ってきた。