016
「やはり皆さんには荷が重すぎたようですね」
「女髪さん……」
「勝手ながら上がらせてもらいました。お三方終わってから大事な話があります。着替えてください」
「……旦那様」
花咲が心配そうに視線を飛ばしてくる。
「いいから着替えろお前ら、そんな恰好じゃ掃除するだけでも大変だから」
「流君が言うなら……」
「りゅー君がそういうなら……」
「分かったよ旦那様……」
そういって3人は脱衣所へ。
何も言わない所を見ると、自分の制服は洗濯していないらしい。
怪我の功名ほどの事では確実にないがな。
「さてまず台所ですね」
そういって女髪さんは台所へ。
それに続く俺純粋に女髪さんがどうするか興味があったのだ。
女髪さんは黒焦げのキャベツの焦げた皮をむき、キャベツの底に切れ目を入れて芯を取り出す。
そしてスプーンで穴を広げ。
次に挽肉に塩コショウで味付けてしてその穴の中に、蛇口をひねり温水を鍋にれいれてコンソメを溶かし、キャベツを入れて鍋の隙間に玉ねぎ数個。
そのまま弱火。
キャベツ1玉使ったロールキャベツ的な物か旨そうだな。
黒石が焦げ付かせたフライパンは水と何やら洗剤のようなものを入れ置いた。
「さて次はリビングですね」
そのままリビングへ。
だがこれはさすがに一人では無理だと思い声をかけるが。
「女髪さん手伝うよ」
「大丈夫ですこの程度なら」
そういいきるが、リビングの家具と棚は全て倒れ棚の中身が、リビングに散乱している。
大丈夫なのだろか?
「さて始めますか」
そのまま流れるような動きで棚を立て直す、当然残っていた棚の中身がバタバタ落ちると思ったが、落ちようとする棚の中身を目にも止まらない早業で捌き落下を防止する。
かろうじて腕の動きが見えるが実に人間離れした動きだ。
そのまま残った棚を立て直し、家具を立て直す。
床に散らかった小物は箱に入れ次々に棚の中へしかもただ入れただけでなく。
見栄えも気にしている。
むしろ元の部屋より家具や小物の配置のセンスがいい。
「終わりました最後は洗濯ものですね」
凄いな実に神がかった動きだ。
おれだったら1時間はかかる物を僅か数分で……。
「旦那様着替えてきたよ! どうなってるのこれ?」
「た……確かに見る影もないよ……」
「すごーい! どうなってのりゅー君?」
「皆さん遅かったですね。リビングの掃除が終わった所です」
「これをまさか女髪さん一人で?」
花咲が疑問符をつけて聞いてくる。
「まっさか流君も手伝ったんだよね?」
「花咲黒石これは女髪さん一人でやった事だ」
「ほんとなのりゅー君?」
「ああマジだ。実に神がかった動きでな」
「ふふ、そういう事です、次はお洗濯ですね」
次は泡地獄もとい洗濯か、あれを女髪さんはどうするのだろうか?
女髪さんはそのまま洗濯場へ。
「流さんバケツ借りますね」
俺の家の風呂と洗濯機のは隣同士。
おれは風呂の残り湯を洗濯に利用している。
そのため風呂場には大きなバケツがあるのだ。
そのバケツをどうする気のなのだろうか?
新たに水を入れても過剰な洗剤のせいで焼け石に水状態。
だから俺はこうなると少しづつ水を汲んで、水を足して再度汲むという事をしているが。
どうやら女髪さんは違うらしい。
女髪さんは洗剤塗れの洗濯物をバケツに入れて風呂の残り湯に入れた。
次に洗濯機のスイッチをいれて水を抜き風呂場へ。
先ほど入れた洗濯物を、風呂の残り湯ですすぎ始めた。
なるほどこれなら水が多いから洗剤は落ちやすいだろう。
暫く洗濯物を濯ぐと、洗濯機に再び水を入れる。
先ほど回しながら抜いたので結構な量の洗剤が流れたのかもしれない。
そしてバケツにすすいだ洗濯物を洗濯機に入れてスイッチを入れた。
「これであとは待つだけです。先に夕飯の準備を済ませてしまいますか」
そして再び台所へ。
さっきから3人は無言だ。
これだけのスペックの違いを見せられれば仕方ないだろう。
「少し早いのでレンジでチンしますね」
そういって女髪さんは、鍋の中のキャベツを皿に取りレンジの中へ。
待つこと数分。
「できました! 丸ごとキャベツの肉詰めです!」
そういって切り分け俺たちの前に。
皿とにらめっこする3人。
「じゃあ私から」
花咲が先んじで口に運ぶ。
「じゃあ僕も」
「わたしも!」
それに続く黒石赤星つられて俺も一口。
「「「「美味しい!」」」」
見事にハモった。
「さて皆さん聞きましょう貴方達はどうやって流さんを幸せにするつもりですか?」
「それはもちろん旦那様の奥さんとして、料理に掃除にお洗濯だよ!」
「一つでもできる事があるのですか? 皆さん家事はお得意とはとても思えませんが」
「それは旦那様への愛で――」
「愛で部屋は片付くのですか?」
「それは――」
「僕たちは体を使って流君を気持ちよくさせることができるよ!」
「そんなのは夫婦でなくてもできます。夜伽以外で妻としての務めで果たせるものがあるのですか?」
「それは――」
「わたしはりゅー君とひまわりちゃんシズクちゃんといられれば幸せだよ!」
「夫婦と友達は違います。夫婦とはお互いの幸せのために働くモノです。夫が収入面で妻を支え、妻が家庭を守る。現代では役割が逆の夫婦も存在しますが、皆さんは専業主婦志望とのことですがどうやって妻の仕事をやられるおつもりなのですか? お料理はできない、お掃除は出来ない、お洗濯もできない、出来るの夜伽だけ。仮にそれでいいと流さんが納得したとしましょう。ですが子供が生まれたらどうするのですか? 料理も洗濯も掃除もできない皆さんに加え、子供の面倒まで加わるのですよ? 流さん一人ですべてができるわけがありません」
「でも私たちは旦那様が大好きで――」
「大好きなら流さんの幸せのために、その身を引くとうのも選択できます」
「そんな……僕たちに流君を諦めろっていうの?」
「そうはいっていません。ただあなた方が現状のままではとても流さんを幸せにできるとは思えないと言っているのです」
「むう、よくわからないけど、私たちは――」
「そういって何年も流さんに迷惑をかけているんですよね? 赤星さんだってそれを理解しているはずですよね」
「それはえっと――」
「では流さんに聞いてみましょうこのお三方と幸せな家庭は築けそうですか?」
「それは――」
思わず3人から目を離し、言葉を放つ。
「今のままのお前らとじゃ、夫婦としての幸せは見えないすまないが俺を諦めてくれ……」
そう言葉を吐くと後悔の念が沸きこる。
いつだって俺をしたってくれたこいつら――。
いつだって俺といると笑顔のこいつら――。
いつだって俺を愛してくれたこいつら――。
でもでも俺は幸せな家庭が欲しいそれだけは譲れない。
俺はこいつら全員が好きだ愛している。
だが、それでもこいつらの欠点は受け入れられない。
全ては幸せな家庭のために――
「りゅー君のばか!」
赤星が部屋を飛び出していった。
それを追う二人。
「旦那様ごめんねふがいない私達で……」
「流君わかった僕たちは今のままじゃダメなんだね……行ってくる待っててね」
「追わないのですか?」
走り出した二人を見て女髪さんがそう言った。
「最低だな俺は……でもこれだけは……どうやってアイツらの顔を見ればいいかわからないよ流石に……」
「これでフラグは立ちましたね!」
フラグ? 女髪さんが妙な事をいう。
「フラグって?」
「こっちの話です気にしないでください。そろそろお洗濯が終わったころですね! 行ってきます!」
そう言って女髪さんは洗濯場へ。
それから女髪さんは全ての家事を終わらせると帰っていた。
明日どんな顔でアイツらの顔を見ればいいのかわからない……




