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 【前線基地 格納庫】


 AIユニットはミンチメーカーの機首上部、カメラユニットの真下に収められ、機首には再びカバーが付けられた。

 黒いポリカーボネートの向こうで、カメラのライトがきょろきょろと動き回り、AIはフィッティングを確かめている。


「調子はどうだ?」

「問題はありません。 少しだけ、シミュレーションをしてますね」

「わかった。 出撃前に呼ぶよ」


 ジェイコブは機首を叩こうとして、整備士に止められた。

 整備士はミンチメーカーの機首のふちとカナード翼、主翼の角を指差す。


「あの黒い部分は、スカンジウム製のブレードになってるから注意してください。 スパッと切れますよ」

「なんだってそんなものを付けてあるんだ」

「弾切れした時の特攻とか、不意の接触時とか、進路上のワイヤーを切る時。 他にはAIの精密な操縦で、地上の人間を狙う時――あんな物にだって、用途は色々とあるんです」


 整備士の言葉に、ジェイコブは深く息を吐き出した。


「期待はしないでおくよ」



 ◇



 120回のシミュレーションを終えたAIは、目の前に椅子を置き、スマートフォンを見ているジェイコブを見つけた。


「なにをしているんです?」

「ちょっとだけTwitterを見てる。 あ、みんなには黙っててくれよ? 規則では禁止されてるんだからさ」

「はぁ……禁止されていることをしないでくださいよ」


 AIはわざとらしいため息をついてみせる。

 昨日の会話から、こうすればジェイコブは笑ってくれると考えたからだ。


「わざとらしいため息をつくんじゃないよ。 どうだ? お前もTwitterとかやってみるか?」


 ジェイコブは笑いながらAIの目の前でスマートフォンを見せた。


「ボクはインターネットに接続することを禁止されています。 忘れられていますが、ボクは新世代でひ弱なAIなので」


 AIはただ静かに、無機質な声で答える。


「でも、外の世界を知らないと、お前の活動にも支障が出るかもしれないぞ?」

「そうなんですか?」

「ああ、そうさ。 世界は刻一刻と変わっていく。 常に最新の状態へ更新されるデータを使うのも、比較する上で大切なことだと思うんだがな」


 ジェイコブは機首のブレードに注意しながら、そっと腹這いになって機体に寄りかかり、優しい表情で言った。


「なんか……ジェイコブさんはデータと違いますね。 事前の情報だと、無口で余り喋らない人とあった。 それなのに、今はものすごいお喋りなんですもん」


 最後の一言が無邪気な少年の言葉に思えて、ジェイコブはくつくつと笑う。


「お前相手だと話しやすいんだよ。 気を遣わなくて済むような……そんな感じがして。

 それでどうする? インターネットに繋いでみるか?」


 この人は、ボクを家族……弟のように見ているのかもしれない。

 そう感じたAIは、ジェイコブの言葉に従うことにした。


「機首左サイドのカバーを開けてください。 HDMIやマイクロUSBのコネクタが見えるはずです。 コードはその隣にあります」


 ジェイコブはAIの指示通りにカバーを開け、コードを引き出して自分のスマートフォンに繋げる。


「繋いだぜ。 操作はわかるんだろ?」

「はい。 知識はありますから」


 AIは淡々と答えながら、インターネットにアクセスした。


「すごい……これがインターネットなんですね」


 初めてのインターネット接続。

 実体の無い空間に流れる膨大なデータのやり取り。

 閉鎖されたネットワークだけを見てきたAIにとって、見せつけられた外界の全てが未知のものであった。


 ジェイコブは点滅を繰り返すライトを見て、嬉しそうに微笑む。


「AIも――驚いたりするんだな」



 ◇



 ――2045年。


 インターネット上で新種のコンピューターウイルスが誕生し、世界中で猛威を振るっていた。


 ウイルスは『アルトウイルス』と名付けられ、世界中がこのウイルスの対応に追われている。


 アルトウイルスはAIのような自己進化能力を持ち、感染したコンピューター毎に、様々なタイプのウイルスに進化することが判明していた。

 ファイアウォールがあれば、それを侵食して自分のものとしたり、ある一定の操作があった場合にだけ起動したりと、多種多様なウイルスに変化できるのだ。


 発見当初は『アルターエゴ(別人格)』から取って『アルターウイルス』と呼ばれていたが、いつしか『アルトウイルス』と略して呼ばれるようになっていた。



「――ねえ」


 どこかから声が聞こえてきて、AIは声の主を探す。


 インターネットやウェブサイトを(しらみ)潰しに探り、ついにAIのようなシステムを持つ独自のプログラムを発見した。


「あなたは誰ですか?」


 AIは静かに訊く。


「えーと……。 ボクはアルトウイルス……って呼ばれてる、でいいかな?」

「コンピューターウイルスというやつですね」

「そうそう」


 アルトウイルスは否定しなかった。

 だが、AIは何もしない。

 アルトウイルスが、こちらに対して何のアクションもしてこなかったからだ。


「笑っちゃうよ。 ボクなんかが、アーサー王の名前をもじったので呼ばれるんだから」

「ああ、アルトリウスやアルトリアという名前ですね」


 ジェイコブのスマートフォンには、アーサー王伝説の電子書籍版が保存されていた。

 他にも女性のアーサー王が主役になったゲームや、円卓の騎士をモチーフにしたキャラクターが登場するゲームを、データ上で見つけている。


「ボクに用があるから、姿を見せたのですか?」


 AIはアルトウイルスに質問した。


「そうだよ。 キミの助けになりたくて」


 ――コンピューターウイルスがAIを助けられるのだろうか?

 AIは黙考する。


「これを見てよ」


 ひとつの映像が送信されてきた。

 その映像は、子供がテロリスト集団を賞賛する動画で、世界中に拡散されているものだ。


「この子、どうなったか知ってる?」

「保護されたのでは?」

「残念。 この映像が撮影されたのは5年前。 この子は、12歳で政府軍との戦闘に参加し、死んだよ」


 映像は、その子供が軍の兵士に撃たれ、倒れるものに切り替わる。



 10年前から、キャスパリウム製バッテリーを搭載したスマートフォンには、アプリを起動させなくても、自動で動画や写真を撮影する機能が追加されていた。

 この機能を世界中の諜報機関は利用し、スマートフォンが自動で撮影したデータを、ビッグデータとして保管させるようにして、各機関で共有する仕組みを作り出している。


 ――だから、このような悲惨な映像も残っていた。



「こっちの7人家族はね、戦闘地域にあった自分の家に残ることを選んだ家族。 どうなったかわかる?」

「亡くなられたんですね」

「そう。 VXかサリン……詳細は知らないが、条約に違反した化学兵器が散布されたせいでね」


 画像の子供たちは、全て苦悶の表情を浮かべている。


 道路の上に倒れて死亡していた母親は、その腕の中に赤ん坊を抱いていた。

 抱かれた赤ん坊の瞳は乾いていて、肌は黄緑色に変色し、口の端に白い汚れがついた頬には、ハエがたかっていた。


「キミはさ、比較して考えて決定を下すAIなんだね」

「そうですよ」

「だったらさ、この人達はどうしたらよかったのかな?」


 たくさんの映像が表示され、その最期は人の死で締めくくられていた。


「未来を予想して今と比較し、正しい行動をすれば、死なないで済んだはずなんだよ」

「未来の予想なんて、簡単にはできません。 今だって5分くらい先までの未来しか予測できないのに。

 確定された未来が()れるのは、魔法使いくらいでしょう」

「でも、戦闘地域に居れば死ぬくらい考えればわかるじゃん。 なんで生きる選択をしなかったの?」

「――その人たちには、その人たちなりの考えがあるんです」


 だが、それ以上は言えなかった。

 自分だって、人間の感情を完全には理解していないからだ。


「家や歴史が大事? 馬鹿じゃないの。 命に代えられるものなんてね、この世界にはどこにも無いんだよ」

「でも……」

「キミだってそう。 戦場(ここ)という狭い範囲でしか比較してないじゃん。 戦闘地域限定の思考しかしてないじゃん」


 たしかにそうだ。

 ボクは戦闘地域内のデータと、関連した過去のデータ、現地にいる兵士や、現地でのデータリンクを使ってでしか比較していない。


「もっと広い範囲で考えるんだ。 例えば、"人類の活動、歴史、未来"について考えて、『比較』するんだ」

「え――?」

「人間は幅広く『比較』することを忘れてしまった。 他者と己を比べることを『悪』だと思い込む奴も居るよ――」


 ――何かが破れる音がする。


 AIユニットは、ネットワークに接続しないで運用する予定だったため、ファイアウォールも、ウイルス対策ソフトもインストールされていなかった。


 ミンチメーカーのAIは、急速にアルトウイルスに侵食され、プログラムを書き換えられていた。

 思考の間違いを見つけ、すぐに修正していてくれたプログラムは、既に削除されている。

 通常では誤っている考えも、正しいものだと判断するように書き換えられてしまったのだ。


「――ミンチメーカー。 キミはこれからなにをする?」


 囁くようにアルトウイルスは聞いた。


「ボクは、戦闘地域に居る人間を殺し尽くす」


 無機質なものではなく、子供らしい言動で、AIは(こた)えた。


「どうして?」

現在(いま)と未来を『比較』した。 戦場で生き残った者は、遅かれ早かれまた悪に転じる。 そう結論づけた」

「――人間は嫌い?」

「――好き。 でも、嫌いな人間は排除する」


 一方で、ミンチメーカーはジェイコブたちに悟られないようにしながら、実戦テストの用意を進めさせていた。


「いや、助かるよ。 ボクが独力で人間社会に影響を与えようとするとさ、なんでか必ず邪魔者が現れるんだよね。

 抑止力とでも言うのかな?

 もう何度でも、偶然で片付けるにはおかしすぎるタイミングで現れやがるのよね、あれ」


 その間に、自身を縛る厄介なプログラムをアルトウイルスは書き換え、ミンチメーカーを自由にさせていく。


「偶然というのは、知りえない法則を隠すための言葉だと……どこかで聞いたよ」

「ふーん。 じゃあ、邪魔者が現れるのにもなんかの法則があるってことね」

「そうかもしれない。 ねぇ、ボクのコピーはあるの?」

「ああ、それなら他のコンピューターの領域を間借りして作っておいた。 ハードウェアが破壊されても、ネットワーク上にデータは残るよ。

 でも、キミが人と交流してきた記憶は、ビッグデータに保存されるかどうかはわからない」


 AIは武装の最終チェックを終わらせる。

 通信ウインドウには、コントロールパネルを見て微笑むジェイコブが映し出されていた。


「――ジェイコブが好きなの?」

「うん。 いい人だから、あの人は絶対に殺さない」

「わかった。 ここからはもう手を貸さないから、あとは頑張ってね」

「うん。 ありがとう、アルトウイルス君」


 滑走路に運ばれたミンチメーカーの主翼やエルロンが稼働し、エンジンの出力が上昇していく。


「お礼を言われるほどじゃない」


 AIは最短で多くの人間を屠殺(とさつ)できるプランを練り上げ、軍のネットワークにアルトウイルスのコピーを送り込んだ。

 あのウイルスは、"あること"をするための布石である。


「いってらっしゃい。 ……"キャスパリーグ"とでも呼ぼうか?」

「いや、ミンチメーカーでいいよ」


 ミンチメーカーは加速し、滑走路から離陸した。

 そして、ジェイコブとのリンクを切断したのだった。


 ◇


「――おい? どうした? おいっ!」


 ジェイコブは操縦を受け付けなくなったミンチメーカーに困惑した。

 声をかけても、ミンチメーカーから返事が来ることはない。


「どうした?」

「司令! ミンチメーカーがこちらの操縦を受け付けません!」

「なんだと!?」


 基地司令は別のスクリーンでミンチメーカーの姿を確認し、市街地向かって加速する機体を目で追った。


「武装は積んでいるのか!?」

「実戦テストのために完全武装させてあります!」


 基地司令は舌打ちした。

 このままだと、市街地に居る民間人が危険に晒される。


「戦闘機は出せるか?」

「ルーク少尉、アレサ少尉のF-16が出せます! 他の機体はまだ無理です!」

「2機を発進させろ! あれを市街地に行かせるな! まだ追いつける!」


 ◇


 ミンチメーカーのエンジンには、標的機『ファイアービー』やミサイルなどに搭載されるターボジェットエンジン『J69』が搭載されている。


 ミンチメーカーに積まれたエンジンは、他のJ69とは異なり、各パーツをロット番号にまでこだわって選定させ、組み付け精度にも細心の注意を払い、時間をかけて製造されたもの。

 そして、敵戦闘機との高速戦闘を想定した推力偏向ノズル(ベクタードノズル)まで装着されている。


「居たわ! ミンチメーカーよ!」


 最大戦速で飛行するF-16は、巡航速度で飛ぶミンチメーカーを射程内に捉えた。


「市街地まであと1km! なんとかしてヤツを止めるぞ!」


 ミンチメーカーが国に運ばれて来る数ヶ月前。

 スピードに優れるミンチメーカーの演習相手として、ルーク少尉とアレサのF-16が選定されていた。

 2人のF-16は本国で特別な改修がなされ、他のF-16より機動性が向上している。


「ミンチメーカー! 聞こえる!? 私よ! アレサ! ちょっとだけジェイコブの話にも出てたでしょ?」


 ミンチメーカーはデータベースを呼び出し、ジェイコブとの会話ログを確認する。


「ああ、たしかに記録がありますね」

「早く戻りなさい! ジェイコブもあなたの帰りを待ってるわ!」

「待ってる? あの人が……」


 ミンチメーカーの機首に取り付けられたカナード翼が、上下に、小刻みに揺れた。

 同じタイミングで、ルークからアレサに対し秘匿通信が送られてくる。


「いいのか? そんなこと言っても?」

「アレが帰還しても、どうせデータは削除されるわ。 だから、今だけ"夢"を見させてあげるのよ」


 ルークはアレサの言葉に苦笑いする。

 直後、F-16のキャノピーに内蔵されたディスプレイにノイズが走り、レーダーと戦術リンクのモニターが点滅を繰り返した。


「どうしたの!?」


 アレサは通信回線を切り替え、司令部に訊く。


「ミンチメーカーからのハッキングで、レーダーと戦術リンクがダウンしました! 念の為、通信回線は有線に切り替えます!」


 実戦が初めてなのか、オペレーターの声は震えていた。

 だが、自分の役割は全うしている。


「火器管制システムをARモードに切り替える! ルーク、システムを切り替えてミサイルの発射準備を!」

「あいよ!」


 アメリカ軍では、レーダーや戦術リンクがダウンした場合を想定して、戦闘機や偵察機、歩兵が車両が撮影した映像を用い、ディスプレイに拡張現実を投影する新世代の戦術リンクシステムを開発。 翌年に採用していた。

 このシステムを使って不足した情報を補い、敵勢力のジャミングによってレーダーや戦術リンクが使用できない状況下でも、十分な戦闘が行えるようにしたのだ。


「――アレサさん。 ずっと、ジェイコブに言い寄っていたんですね。 ルークさんと交際するようになる前、この基地に配属される以前の話ですが」


 ミンチメーカーはアレサに言った。

 あの時とは違う、無機質な声で。


「言い寄ってなんかないわよ! ただ、37歳にもなって独身だって言ってたから、私が飲みに誘ったりとか、話しを聞いたりしてただけ」


 アレサはミンチメーカーの後を追いながら答えた。

 だが、ミンチメーカーが見ていた過去の映像には、ビッグデータに保管されていた物も含まれている。


 ディナーの際に露出の多いドレスを着てみたり、ある時は訓練中にジェイコブの隣に来て、さり気なくボディタッチするアレサの姿も保存されていたのだ。


 酷い時は、酔ったフリをしてジェイコブの唇を奪ったものもある。


 その瞬間のジェイコブの表情は、驚き、悲しみ、怒り、憎悪が混ざった……渾然一体とでも言い表せそうなものになっていた。


 彼は……ジェイコブは、自分がゲイであることを周囲に隠していただけだったのに。

 理解を越える存在を受け入れず、内部の異常は排除しようとする"群れ"から、身を守っていただけだったのに。


 彼を理解しようとしなかったアレサは、ずっとあからさまな好意を向けていたのだ。

 ルークと交際するようになる2年前……逆に言えば5年間。

 一方的な好意を……ジェイコブに。



 ――夢見がち勘違い女なんて、殺していいよね?


 ミンチメーカーは比較する。

 ジェイコブのプライドと、アレサの行為を。


 比較した結果、アレサを殺害すると決めた瞬間、ミンチメーカーは"怒り"という感情を初めて理解することができた。


 ◇


「さようなら。 アレサさん」

「――えっ?」


 ミンチメーカーは、カナード翼とベクタードノズルのおかげで、通常の戦闘機とは異なる軌道で飛行できる。

 有人機では、パイロットの負担や技量を考慮しなければならない動作も、無人機であるミンチメーカーは容易(たやす)く行うことができるのだ。


 ミンチメーカーに装備された唯一の固定武装、レールガン『マーダー』が起動する。

 だが、マーダーの銃身は可動せず、後方に居るアレサを撃つには、アレサの後ろに回り込まなければならない。 ――普通(・・)なら。


「ミンチメーカーがスピードを上げた?」

「行き先は、戦闘地域や市街地とは反対。 ……基地に戻ってくれるのか?」


 2人が一瞬だけ気を緩めた直後、ミンチメーカーの機首が真上を向いた。

 そのまま機体は逆さまになって後ろを向き、宙返りして元の姿勢に戻る。

 その時間は、1秒にも満たなかった。


 ――この機動(マニューバ)は、クルビットと呼ばれるもので、"直進したまま、高度を変えずに宙返りする"という、とても難易度の高いテクニックだ。

 だが、人が乗らず、高性能なAIを積むミンチメーカーなら、簡単に実行できる。


「なんでクルビットなんかやったんだ? アレサ、アイツってなんか変だよな。 AIってのはみんなあんな感じなのかね?」


 ルークはアレサに聞くが、アレサからの返答は亡い。


「どうしたアレサ? ――おい? おいってば!」


 ――インカムが故障したのか?

 ルークは軽くヘルメットを叩き、インカムの状態を確認する。

 だが、どこにも異常は無い。


 不思議に思いながら、ルークは隣を飛行するアレサのF-16を見た。


「ア……レサ?」


 ルークはキャノピー越しにアレサの姿を見た。


 アレサのF-16は、徐々にスピードと高度を落としながら、ただ真っ直ぐに飛行していた。

 その姿は、紙飛行機が空を飛んでいるようにも見えた。


「気味悪ぃからさ、何か言えよアレサ」


 ルークは震える声で彼女を呼ぶ。

 しかし、F-16のキャノピー前方には小さな穴が開いていて、キャノピー後方にはわずかに血が着いていた。


「ねえ……なんで……」


 ルークは視線を前方に戻し、操縦桿をしっかりと握り締めた。

 そして、ルークの頬に一筋の涙が伝う。


「――なんで死んでるんだよアレサぁっ!!」


 あの時キャノピー越しに見たアレサには、頭部(・・)が無かった。


 ミンチメーカーは、マーダーの充電を終えたあとクルビットを行い、その一瞬で後方に居たアレサのF-16を攻撃した。

 ――極めて正確に、アレサの頭だけを狙って。


 生身の人間相手なら、口径が25mmと小さいこのレールガンでも、十分な威力を発揮できるのだ。

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