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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第二章 遠い明日
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 停車を知らせるチャイムが鳴ると、通路に立っていた男の子がしくしく泣き出した。


「どうしたの」

 そばの座席に座っていた青年が話しかける。ポロシャツにチノパンツというラフなスタイルをしていたが、何故か顔色はあまり良くない。


 男の子は黙ったままなおも泣き続けていた。学生帽に白いシャツと半ズボンという格好からすると、この先にある大学の付属小学校に通っているのであろう。まだ一年生なのか、身体の半分ほどもあるランドセルを背負っている。


「ひょっとしてバス代を忘れたのかな」


 青年が重ねて尋ねると、男の子は首を振った。

「定期券……」とだけ答えると、もっとひどくしゃくりあげた。


「それにバス代も持ってないんだろう。二学期が始まったばかりだし、つい忘れちゃうよね。いくらだい」


「三百円」

 男の子は小さな声で答えた。


「どれどれ」

 青年はそう言いながら、チノパンツのポケットをまさぐっている。


 やがて小銭を取り出した。

「あったあった。ちょうどある。これ使ったらいいよ」


「えっ」

 男の子は驚いている。


「いいよいいよ。何も心配はいらない」

「でも知らない人から……」


「あっ、そうか」

 青年は少し困った顔をした。

 しばらく考えた後、にこりと笑った。顔色が少しだけ良くなったように見える。


「じゃあこうしよう。これは貸してあげる」

「でもどうやって返したらいいですか」


 無邪気に問いかける男の子に、青年は笑顔で答えた。

「これからその方法を教えるから、家に帰ったらお父さんかお母さんに相談するんだ。あっ、でも帰りのバス代はどうしよう」


「大丈夫です。今日は用事があってお母さんが迎えにきてくれるから」

「それなら良かった。じゃあ、お金を返す方法なんだけどね、コンビニのレジに募金箱があるのを見たことがあるだろう?」


「うん、お母さんに聞いたことがある。ええとねえ、一円玉ばかりたくさん入ってた」

「そうそう。それにね、これと同じ三百円を入れるんだ。それで僕に返してくれたことにしよう。分かったかい」


 男の子は顔を輝かせた。

「はい、分かりました。きっとそうします」


「うん、それでいい」

「どうも有り難うございました」

 バスが停まると、男の子はもう一度元気良く挨拶して降りていった。

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