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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第一章 優しい男
8/40

―8―

 すると窓ガラスがガチャンと割れた。

 血だらけの手がにゅっと入ってきて、ドアのロックをはずす。


 なおも必死でキーを回す。

 やっとエンジンがかかる。


 しかし発進しようとしたときには、美知代の身体は車外に引きずり出されていた。

 車はそのままゆるゆると前に進み、ゴミステーションのブロックに激突して止まった。


 駐車場に転がされた美知代の身体を、敏夫は情け容赦なく蹴りつけてきた。

 頭と言わず腹と言わず、猛烈な一撃を加えてくる。


 美知代が苦痛に顔をゆがめ、身をよじりながら避けようとしても、その攻撃は決して止むこともなく執拗に続けられた。


「ちょっと、やめなさい。人が見ている」

 母親の悲鳴ばかりが、むなしく響いた。

 まだ飽き足らないのか、敏夫はまたのしかかってきて、彼女の顔を激しく殴打した。


 意識がまた薄れてくる。

 今度こそ本当に私は死ぬんだ。

 お母さん、死ぬ前にもう一度逢いたかった。最後まで心配かけてごめんね。

 

 それからお父さん、本当に頑固なうえに自分勝手で仕方がない人だけど、お母さんのことをどうかお願いします。


 二人とも仲良くしてね。さようなら。

 朦朧とした意識の中で、遠く両親にそう呼びかけた時だった。


「やめろ」という声とともに、黒い人影が飛び込んできた。

 会社帰りであろうスーツ姿の若い男だった。

 その青年は同じアパートに住んでいた。名前さえ美知代は知らない。


 時々ゴミステーションなどで顔を合わせることはあっても、ただ黙礼するだけの仲に過ぎなかった。

 しかし彼女は、密かにその青年に好意を抱いていたのである。


 青年は、美知代の身体から夫を引きはがすと、

「何をしてるんだ。恥ずかしくないのか」と叫んだ。


 その声を聞きながら、彼女はそのまま意識を失ってしまった。

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