-7-
足がまたもつれる。その拍子に、もんどりうつように転がってしまった。地面に両手をついたが、間に合わず顔面を強打する。
やはり先ほどのダメージが響いているのだ。
夫の足音が近づいてくる。
再び立ち上がる。
すると、暗がりの中を年輩の女が小走りにやってきた。
敏夫の母親である。時々こうして、無職の息子のことを心配して訪ねてきていたのである。
「美知代さん、どうしたの。まあ、顔が血だらけじゃないの」
頭から出血しているためなのか、たった今地面に顔を打ちつけたためなのか、自分では分からない。
美知代はとっさに彼女の背中にすがりついた。
「お義母さん、助けて」
「助けてって……。あっ、敏夫。敏夫、あなた手をどうかしたの」
「どけ、クソ婆あ」
そう言って、母親の手を振りほどく。
彼女は一瞬息をのんだ。
「敏夫、いったい……。とにかくやめなさい」
しかし彼はもはや完全に正気を失っていた。
「うるさいんだよ。僕はもう終わりなんだ。あの女を殺して、僕も死ぬんだ。
その前に、お前もぶっ殺してやる。僕が人とうまくやっていけないのも、みんなお前が俺を甘やかして育ててきたせいだからな」
「敏夫……。あなた、母親に向かってなんていうことを」
その間に、美知代は車に向かって駆けだしていた。
ドアを開け、急いで乗り込んだ。
すぐにキーを差し込む。
しかしエンジンがかからない。
もう一度。