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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第一章 優しい男
5/40

-5-

 意識を取り戻すと、すぐ真上に、男の獣のような顔があった。

 彼女の首を絞めていた手の力を、いったん緩めていたようである。


 美知代と目が合うと、唇の端のほうだけゆがめて笑った。

「まだ生きていたのか」

 再び首を絞めてくる。今度はゆっくりとなぶるように。


 こんな男の手にかかって死んでたまるものか。何とか方法があるはずだ。


 顔は動かすことができないので、眼球だけを四方に巡らせる。

 すると視界の片隅に何かが映った。


 直接見ることはできなかったけれども、直感のように何かしら閃くものがある。

 藁をもすがる思いで右手を伸ばす。


 するとそれは、彼女の指先に触れカタンと倒れたかと思うと、少し転がったような感じがした。


 どきっとして男の顔を見る。

 しかし彼女の首を絞めるのに夢中で気付いていないようである。


 何だろう、固くて冷たくて、丸くて転がるもの……。

 試みにもう一度、手を伸ばす。


 幸い、まだ届く位置にあった。

 掴んでみる。

 今度は見なくても分かる。


 それはゴキブリ用の殺虫剤だった。いつも冷蔵庫の片隅に置いていたものだ。


 ノズルの先を男の両目めがけて、力一杯噴射する。

「うわっ」

 男は悲鳴を上げて、飛びのいた。尻餅をついて、あわてて両目を拭っている。


 美知代は跳ね起きた。

 確か靴箱の上に、車のキーが置いたままだ。


 玄関をめがけて走る。

「待て」


 敏夫が追いかけてくる。

 キーを手に取り、急いで靴を履こうとする。


 しかしうまくいかない。

 敏夫はすぐ真後ろだ。


 こうなったら、裸足のまま逃げるしかない。

 ドアを開こうとした瞬間、襟首を掴まれる。


 振りほどいてドアの外に飛び出す。

 振り向きざま、身体ごとドアにぶつかると、中からぎゃっという悲鳴が上がった。


 夫の左手がドアに挟まっている。

 逃げるなら今だ――

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