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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第一章 優しい男
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-4-

 今日の敏夫は尋常ではない。今までもさんざんな夫婦喧嘩をしてきて、そのたびに暴力を振るわれてきたが、どこかの時点で抑制が利いていた。

 しかし今日は違う。完全に度を失っているし、やることが正気の沙汰ではない。


 夫を見上げると、血走った目でニヤリと笑い返してきた。

「君は僕のものだからな、永久に」

 なおもぐいぐい首を絞めてきて、一向にやめる気配がない。


 必死でもがくけれども、男にのしかかられている身体はびくりともしない。

 顔を動かして何か身を守るものを探そうとする。

 しかし首をぐいぐい絞められているために、それもかなわない。


 苦しい。

 だんだん目の前が霞んできた。

 やがて手足の力が抜けていく。


 ああ、もう何も見えない。男の醜い顔も。

 このまま私は死んでしまうのだろうか――。

 遠のいていく意識の中でそう思った。




 美知代はいつの間にか、懐かしい父と母の店にいた。

 母が一人でカウンターの奥に立っている。

 思わず、お母さん――と呼びかけた。


 しかし返事はない。

 ただ厳しい顔でこちらを見ているばかりである。

 当然だ、と美知代は思った。


 自分は親を捨てたあげくに、つまらない男の手にかかって死んでしまうのだから。


 私もそこに行っていい?

 思い切って尋ねてみた。


 母は首を振った。

 まだここに来てはいけない――


 唇は動かないのに確かにそういう声がした。


 お母さん――。

 そう言って手を伸ばそうとしたとたん、母はカウンターの向こうでくるりと背を向け、それっきり消えてしまった。

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