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その様子を、一志は手を休めてじっと見守っていた。そして両腕を組むと、珍しく考え込むようにしながら言った。
「それは分からない。あの時お前が、コンビニのお握りを食わせていなければ……。
そして俺があいつのもとに駆けつけるのが、もう一日でも遅れていれば……。
それこそあいつは、どうなっていたか分からないぜ」
「そうだな……」
村山はもう一口、酒を飲んだ。
一志は再び寿司を握り始める。
「俺はあいつをひっさらうようにして、病院からうちへ連れて帰った。そしてその足ですぐに、山形にまた飛んでいったんだ」
「ほお。で、今度は親父さんどうだった」
「ところが、会おうともしてくれないんだ。
挙げ句の果てに、ふすま越しにでもいいなら話だけでも聞いてやろうってんだから、傲慢じゃないか。
それでも俺は我慢して、息子さんはうちで預からせてもらいますのでよろしくお願いします、と頭を下げたんだ。襖に向かってな。
すると親父の奴め、何て言い草だ。息子は勘当したままだからうちには関係ない。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ、だってさ」
「ははは。面白い。それからどうした」
そう言って、また酒を飲む。今夜はやけに酒がうまい。
一志は頭に来て言い返してやったらしい。
「息子さんは、この私がきっと日本一の寿司職人にして見せまさあ。そうなったら、あんたなんかには鼻も引っかけてやりませんからね。
ざまあ見ろってんだ、こん畜生め」
そう捨てゼリフを吐くと、奥さんがおろおろしているのを尻目に、その場を飛び出した。
すると後から奥さんが追いかけてきた。彼にすがりつくようにして言う。
「主人はあなたが出ていった方向にお辞儀をすると、そのまま畳に頭をすりつけて泣いていました。
あいつが寿司を握れるようになったら食べてみたいと。
どうか順平のことをよろしくお願いします」
そう言って涙を流しながら、奥さんは何度も何度も頭を下げたというのだった。
一志は少し得意そうに言った。
「あの偏屈親父め、それならそうと、最初から素直にそう言えばいいものを。
だから順平はさっきお前にああ言ってたけど、あいつの握った寿司を一番に食べるのは、この俺以外は親父さんだよ。
その次はあの社長さんだ。悪いがお前は最後だな」




