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「何故だ。どう考えたって正当防衛じゃないか。その状況だったら、みっちゃんだけでなく助けに入った山口君だって殺されていたかもしれない」
村山が憤ったようにそう聞くと、一志は答えた。
「そこがあいつの大馬鹿なところよ。確かにどちらかが殺されていたはずだからな――ほらよ」
出された寿司を手でつまんで食べていると、
「無理するな」と言って笑う。
「結構、難しいもんだ」
村山も笑い返す。
弁護士や周りの人間がいくら彼を説得しようとしても、本人は頑としてとうとう最後まで首を縦に振らなかった。
彼は裁判でこのように述べた。
自分の行為の結果、一人の人間を死なせてしまったという事実は変わらない。
自分が余計なことをしなくてもひょっとしたら彼女は助かっていたかもしれないし、彼も更正して新しい人生を歩むことができていたかもしれない。
自分はその機会を一人の人間から永久に奪ってしまった。
その罪は重いし、そのことゆえの自分の心の苦しみ、暗闇は、自分を裁くものにも誰にも決して分からない。
したがって、これ以上争うことはせず早く刑に服すことを願っていると――。
「それからどうなったんだ」
村山の手から、ぽろりと寿司の一部が醤油皿にこぼれ落ちる。
一志は少し眉をひそめたが、そのことは何も咎めずに答えた。
「俺はそれから、はるばる山形まであいつの親にお詫びを言いに行ったんだ。
自分の馬鹿娘のせいで、こんなことになっちまったんだからな。
これが行ってみると、たいした邸宅だ。昔は大きな蔵本だったらしいんだが、今は地元でスーパーをいくつか経営しているらしい」
「それで彼の親御さんは何と――」
醤油皿に落ちたご飯粒を箸でつまむ。
一志はまた眉をひそめながら答える。
「ところがあいつの親父というのが、これがまた大変な頑固親父よ。
俺が畳に頭をすりつけんばかりに謝ると、これは息子自身の問題であんたには関係ないと言い放ちやがった」
「ほお、それで?」




