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もう脅しや暴力には負けない――。
「あなたがどう言おうと、私はもう決心したんだから。たとえ裁判に訴えてでも別れてやるわ」
「形だけの夫婦なんてどうでもいいさ。僕はどこまでも君を追いかけていって、一生くっついて離れないからな」
「気持ち悪いこと、言わないで」
テーブルの上にあった醤油のペットボトルを投げつけると、相手はさっとそれをかわした。
敏夫はこちらの隙を見て、さっと右から回り込もうとする。
すかさず反対側に逃げる。
今度は左側から回り込もうとするので、またその反対側に逃げた。
両者で睨み合いになる。
「面白いじゃないか。よおし、ゲームの始まりといこうぜ」
敏夫は獰猛な顔で笑う。
美知代の胸に、これまで抑えてきた感情が噴き出してきた。
声をありったけにして叫ぶ。
「何故私のせいなの。あなたが働かないでパチンコをしたり、昼間から飲んだりばかりしているのが」
「みんな君のせいだよ。君と結婚して僕の運勢はどんどん下がる一方だ。おかげで僕はこんなになってしまった」
椅子を高々と抱え上げると、こちらにめがけて力一杯投げつけてきた。
反射的に身を伏せる。
木製の椅子は冷蔵庫に激しく当たり、まっぷたつに割れる。しゃがみ込んだ美知代の頭に、その一方がはじけ飛んできた。
その時にはもう、敏夫はこちらに飛びついていた。椅子の片割れを放り投げると、美知代の身体にそのまま覆い被さってくる。
確かに肋骨がミシッと音を立てた。
相手はそんなことには一向に構わず、あろうことか今度は激しく唇を吸ってくる。
首を振って避けると、また頬を殴られた。脳震盪を起こしそうなぐらいに。
やがて、夫の両手が美知代の喉に食い込んできた。
「僕がこんなに愛しているのが分からないのか」
そう言いながら、情け容赦なくどんどん首を絞めてくる。
このままでは本当に殺される――。