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「それで私ははっと我に返りましてね。
冗談じゃない、さっきはあんたの態度が気にくわなかったから、冷たい返事をしたけどね、
これでも私はあの若者のことが好きだったんだ。こんなことになることが分かっていたら、何とかしてやることができたものを。
えい、こうしちゃおれない。あんたたちは表口でお待ちなさいと言って、合い鍵を取りに帰ったんです」
村山が何か言おうとすると、後ろの方を向いて「おい婆さん、何してるんだ」と声をかける。
すると、奥の方から「はい、はい」という声がした。
大家は平気な顔で続ける。
「そしたらあの男、憎いじゃないですか。
早くしろよ。さもないとこんなおんぼろアパートのドアなんてぶっ壊してやるからな、などと後ろから怒鳴るんです。
すっとんで戻りましたよ」
「それで彼は」
「布団に寝たまま、動けなくなってました。でも息だけはしていたから、みんなでほっと胸をなで下ろしたんです。
たぶんお姉さんが、さっきの携帯で呼んだんでしょう。それからすぐに救急車が来ましてね」
なんだ、それを一番に言ってくれよ。こっちはどれだけ心配したことか。
そう思って半分喜び、半分憤慨していると、婆さんが這うようにしてやってきた。
「どうも愛想のないことで。この前から腰を痛めてましてねえ」
そう言いながら、お茶を出す。
恐縮しながらいただいていると、
「それで、あの子はもうすっかり元気になりましたか」とのんびりした顔で尋ねてくる。
「馬鹿、この人は親父さんじゃないよ。あんなのに比べれば、この人は紳士だ。
さっきから落ち着いて人の話を聞いてくれるし。それに、腰が悪いんだからお茶なんか出さなくったっていいって言っただろう。
それよりここにお座り。久しぶりのお客さんなんだから、ゆっくり話でも聞かせてもらおうよ」
婆さんはにこにこ笑いながら、はいはいと言って素直にそれに従う。




