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「それで? それで彼はどうなったんですか」
「そしたら親父さん、もっと恐ろしい形相で私を睨むんです。思わず絞め殺されるかと思いましたよ」
そう言って、自分の首に両手を当てる。
「早くその先を」
本当に絞め殺したくなる。
「あの男何を考えたんだか、ダッと駆けだして裏手の方に回ったんです。娘さんもすぐそのあとに続きましてね。
私が行ってみると、窓の隙間から覗いてるんです。それから窓ガラスをガンガン叩くんです。
それであわてて、何をするんです、近所の人が見てるじゃありませんかと言って止めたんですけどね。
そしたらあいつめ、いいから見てみろと言って、顎をしゃくるんです。なんて傲慢な奴なんでしょう。
それで私がその四角いあごの先を見てみると、カーテンの隙間から見えたんですよ。布団から二本の足がはみ出しているのがね」
そう言ってごくりとつばを飲み込む。
「それで、彼は無事だったんですか」
「いやあ、びっくりしたのなんの。
お姉さんの方は青くなって、携帯でどこかに電話してるし、私は私で、すっかり腰が抜けちまいましてね。
もう身体はがたがた震えてくるし……」
「いや、あなたのことじゃない。彼は――、山口君はどうだったんですか」
「すると、あの男がまた目を剥いて怒るんですよ。
おい、こんな時は真っ先にどうすればいいのか、そんなこともあんたには分からないのかってね」
自分が喋るのに夢中で、まるで質問に対する答えになってない。
「だから、青年のことですよ。まさか、死んだんじゃないんでしょう」
「まあ、お待ちなさい。ものには順序ってものがある」
そう言いながら、丁寧に新聞を畳んでいる。
村山の方はじりじりしながら、その様子を見守った。




