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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第三章 大馬鹿寿司
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-4-

 村山はふっと笑うと、「なあ一志」と穏やかに語りかけた。

「俺もお前も、いい年だぜ。そろそろ大人にならなければな」


「ふん、今更何を言ってやがる」

 腕組みをしたままぷいと横を向く。


 村山はなおも根気良く話し続ける。

「お前が一流の寿司職人だということは認める。しかし現状はどうだ。

 従業員は一人も居着かないし、この通り店も閑古鳥が鳴いている始末だ」


「ふん、てめえのような素人に言われたかねえや」


「確かに俺は素人だ。しかしこれだけは分かる。

 客商売はサービス業なんだから、腕がいいだけじゃ駄目なんだよ。

 そのことはお前だって重々分かってるはずだ。それなのにお前の職人としてのこだわりなんだか、つまらないプライドなんだか知らないが、反対に客にいろいろ注文をつけたりするばかりか、喧嘩までふっかけたりしてるそうじゃないか。

 そんなことじゃ、誰だって寄りつくわけがない」


 図星だったのか、相手は横を向いたまま何も言わない。

 ここだ、と村山は思った。これからが肝心だ。少し耳の痛いことかもしれないけれど、彼のためにあえて言わなければ。


「昔この店が繁盛してたのは、お前の腕ばかりじゃない。みっちゃんがいたからだよ。

 お前は店の経営のことなんか全く無頓着だった。

 だから彼女が店を切り盛りするだけでなく、お前と客との間でうまく緩衝剤の役目を果たしていたんだ。そのために彼女がどれだけ苦労したことか。

時々彼女が寄越してくれる便りで、俺はそのことを良く知っていたんだ」



「何だとこの野郎。さてはてめえら、密通していやがったな」

 一志はまたぎろりと目を剥いた。


「馬鹿、そんなんじゃない。みっちゃんは心からお前を愛し、お前を心配していた。

 今日は彼女の命日じゃないか。もういい加減、彼女を心配させるのはやめろ。

 それにみっちゃんだって、いや今度は娘のみっちゃんのことだけど、本当にいい子じゃないか。彼女の将来のことも考えてやらなければ。

 お前みたいな親父がいたんじゃ、いつまでたっても再婚できないぞ」

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