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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第三章 大馬鹿寿司
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-2-

「そのことなんだがな、一志。今日はお前に話があって来たんだ」

「何だ? また見合いの話だったらお断りだぞ」

 そう言いながら、くだんの代物を桐箱に大事そうに収納している。


「あれっ? それ、使わないのか」


「当たり前よ。こんな高いもの、おいそれと使えるか。百万円もしたんだぞ。

 それより何だ? 前にも言ったように、俺はもうほかの女と連れ添う気は全くないからな。それによりにもよって、今日は美紀子の命日だ。お前もそんな話を持ち出すほど無神経な人間じゃあるまい」


「いや、そうじゃないんだ。お前の純情はよく分かったよ。この前はつまらないことをして悪かった」


 そう素直にわびると、彼は山口順平のことを話し始めた。例の青年である。もちろん、今朝のバスの中での一件も。


 一志は手を洗うと、今度は本当に寿司を握り始めた。


 左手に持ったネタにわさびを付けると、その上にシャリを乗せる。

 それを指で軽く押さえたかと思うと、角度に回転させながら、そのたびに指で押さえる。


 一見無造作なようでいて、そつがない。

 握り終えると、黙ってそれを差し出す。いつものように、ほらよとも何も言わなかった。

 それから腕組みをして、村山が話すのをじっと聞いている。


 最後まで話し終えると、一志は「けっ」と吐き捨てるように言った。


「何だそれは――。そんなんだから、いつまでたっても就職できねえんだ。

 うちは御免だよ、そんな甘っちょろい奴は。寿司屋の世界は厳しいんだ、勤まるわけがねえ。

 いいか、俺の求めているのは、こいつみたいな奴なんだ」


 そう言うと、彼は例の桐箱に向けて顎をしゃくって見せた。


「一見不格好でも不器用でも、内にキラリと光るものを持っている原石のような奴だ。

 俺はそういう奴を徹底的にしごいてみたい。

 もっとも今の世の中に、そんな人間がいるわけないがな」


「まあそう言わないで、本人に会うだけ会ってみてくれないか。頼む」


 もう一度頭を下げる。

 いったい今日は、こいつに何度頭を下げなければならないんだろう。

 そう思いながら、つい苦笑いをする。

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