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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第三章 大馬鹿寿司
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-1-

 村山は、黙ったまま一口酒を飲んだ。それから静かに言った。

「少しは父親らしいところがあるじゃないか。見直したよ。

 しかしそれならもっと言い方ってものがあるだろう。みっちゃんに何があったか知らないけど、あんないい子はいないぜ。少しは優しくしてやれよ」


「ふん」

 そう言うと、切った寿司ネタをまたケースに並べる。

 それで気が済んだのか、「おい広治」と機嫌良く呼びかけてきた。

「これを見ろ」

 彼が持っていたのは、黒っぽい石のかたまりだった。


「これが分かるか」

「分かるかって、ただの砥石じゃないか。四角じゃないけど」


「ただの砥石だって? 馬鹿野郎、なんてことを言うんだ。

 これはなあ、京都で採掘された最高級の砥石だぞ。

 しかも、もう閉山されちまって欲しくても二度とは手に入らないんだ。

 どうだい、この一見豪快そうでいて、その反面、内側から滲み出てくるような繊細な美しさは」


 それはどっしりと厚く、一面だけ平らに仕上げてあるほかはデコボコだったので、村山にはただの不格好な石にしか見えなかった。


 一志にはそれが不満そうである。

「分からないのか。どうせお前は寿司の食べ方も分からない奴だからなあ。

 いいか、こいつは恐竜が現れた二億年以上も前から、地球の奥深くでこう、ぎゅうぎゅうつぶされてきたんだ」


 無意識に寿司を握る仕草をしながら、夢中になって話している。

「それをひたすら我慢し続けた。

 ところがだ、これがたまたま偶然の産物だってんじゃねえか。

 太平洋プレートの移動だか地殻変動のおかげだか何だか知らないが、日本の京都のお山でひょっこり日の目を見ることができた――と、こういう訳よ」


「さすが、元サラリーマンの寿司屋だけあって、学がある。いい勉強になったよ」


「茶化すなよ。いいか、それからすると、今の若い奴らはこの砥石以下だ。

 理屈ばかりこねやがるくせに、ぐっと歯を噛んで耐えるということは、からっきしできやしないんだから」


 それを聞いて、村山はある大切なことを思い出した。もともとここへ来たのはそのためだったのである。

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