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45億年の沈黙  作者: 葉月舟
第二章 遠い明日
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-8-

 少し酔ってしまったのだろうか。何だか自分でも脈絡のない喋り方をしているような気がする。


 しかし、美知代はそれを聞いて涙ぐんだ。


「それでも村山さんと結婚してた方が良かった。それなら私は生まれていなかった。その方が良かったんです。

 だってお父さんは、私が家を飛び出したあげくにあんな事件を起こしたせいで、お母さんが病気になって死んでしまったと思っている。とんだ親不孝者だ。そう思って、私を憎んでいるんだから」



 事情が分からないまま、村山も思わずもらい泣きしそうになる。

 あわてておしぼりで目元をごしごしとこすると、さっき出された寿司に箸をつけた。



「ああ、この野郎。だから言ってるじゃないか。寿司は手で食べるものだって。おしぼりはそのためにあるんだ。

 お前みたいに顔や首を拭いたりしたら、汚くてあとが使えないだろう。

 全くどいつもこいつも……。ああ、そうですよ。お前は母親の死に目にも逢えなかったような親不孝もんだ。

 ついでにバツイチで大馬鹿もんだ。どうだ参ったか、コンチクショウ」



「おい、そんな言い方があるものか」

 慌てて制す。


 娘は真っ赤に泣きはらした目で父親を睨んでいる。

「何よ。こんなお客も来やしない店、わざわざお母さんの命日にまで開けてる意味がないじゃない」

 そう言うと、店の外に飛び出していった。


 咎めるように一志の方を見ると、相手はぷいと顔を背けた。

 それからまた忙しく手を動かし始める。


「あっ、おいおい、またそんなにネタばかり切って――」

 しかし返事はない。


 しばらく包丁を動かしていたが、やがてぼそりと口を開いた。


「ちくしょう、あいつの命日だからこそ、こうやって店をやってんじゃないか。ともに苦労しながら切り盛りしてきたんだからな。

 その方があいつも喜ぶんだ。それに子供を憎む親なんてどこにいるものか。あれももう今年で三十になる。何とかしてやらないとな」

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