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少し酔ってしまったのだろうか。何だか自分でも脈絡のない喋り方をしているような気がする。
しかし、美知代はそれを聞いて涙ぐんだ。
「それでも村山さんと結婚してた方が良かった。それなら私は生まれていなかった。その方が良かったんです。
だってお父さんは、私が家を飛び出したあげくにあんな事件を起こしたせいで、お母さんが病気になって死んでしまったと思っている。とんだ親不孝者だ。そう思って、私を憎んでいるんだから」
事情が分からないまま、村山も思わずもらい泣きしそうになる。
あわてておしぼりで目元をごしごしとこすると、さっき出された寿司に箸をつけた。
「ああ、この野郎。だから言ってるじゃないか。寿司は手で食べるものだって。おしぼりはそのためにあるんだ。
お前みたいに顔や首を拭いたりしたら、汚くてあとが使えないだろう。
全くどいつもこいつも……。ああ、そうですよ。お前は母親の死に目にも逢えなかったような親不孝もんだ。
ついでにバツイチで大馬鹿もんだ。どうだ参ったか、コンチクショウ」
「おい、そんな言い方があるものか」
慌てて制す。
娘は真っ赤に泣きはらした目で父親を睨んでいる。
「何よ。こんなお客も来やしない店、わざわざお母さんの命日にまで開けてる意味がないじゃない」
そう言うと、店の外に飛び出していった。
咎めるように一志の方を見ると、相手はぷいと顔を背けた。
それからまた忙しく手を動かし始める。
「あっ、おいおい、またそんなにネタばかり切って――」
しかし返事はない。
しばらく包丁を動かしていたが、やがてぼそりと口を開いた。
「ちくしょう、あいつの命日だからこそ、こうやって店をやってんじゃないか。ともに苦労しながら切り盛りしてきたんだからな。
その方があいつも喜ぶんだ。それに子供を憎む親なんてどこにいるものか。あれももう今年で三十になる。何とかしてやらないとな」