-6-
「俺たちの若い頃もそう言われていたぜ」
酒を一口飲んで、カンパチに箸を付ける。
「ふん。今の奴らは半端じゃない。俺たちとは別の人種と思った方がいい。おい広治、俺はもういい加減いやになったぜ。この店も俺一代で終わりかもしれないな」
「そんな泣き言を言うなんて、一志らしくもない。いい職人を見つけて、みっちゃんのお婿さんにしたらいいじゃないか」
村山のその一言に、親子は一瞬顔を見合わせた。
「美知代に婿だって?」すかさず父親が首を振る。
「駄目だよ、こんな娘は。親に反抗して出ていったあげくに、刃傷沙汰まで引き起こしてしまったんだからな。そんな女に婿なんか来るものか」
「刃傷沙汰だって?」
驚いて聞き返したが、返事はなく黙って寿司を握っている。
本人が「バツイチですよ」と笑って言うのを聞いたことはあるが、そんな話は初聞きである。
村山はぷっと吹き出した。
「悪い冗談は止せよ。何のしゃれにもならない」
すると美知代が声を震わせながら叫んだ。
「お父さんひどい。村山さんに喋ることないじゃない」
顔が真っ青になっている。
一志の方はすましている。
「事実を言って何が悪い。人様に恥ずかしいことは何もしてないんだから、胸を張って堂々としていればいいじゃないか。近頃のお前を見ていると、こっちまで陰気になってしまう」
「だったらどうして、そんな女なんて言い方するの。従業員がやめたからって、私にまで八つ当たりしないでよ」
「ああ、そうだよ。八つ当たりしてますよ。おまけに今日は女房の命日ってんだからな。ほらよ」
ネタケース越しに寿司が出る。
村山は、はっとした。
「そうか、今日はみっちゃん、いや美紀子さんの……」
「なんだって、忘れてたのか? お前も薄情な奴だなあ。今夜はそれで来てくれたのかと思っていたのに」
「いや、済まん」
カウンターの角に両手をついて頭を下げる。
そう言われるのも無理はない。大場一志と美紀子、それに村山広治は、学生時代の共通の友人だったのである。