プロローグ
舞台となるのは巨大な神の樹に守られる世界、クランハルベリア。
特殊な生態系によって成り立つその場所は、獰猛な生物が割拠する危険な世界である反面、性別や世代を越えて世界中から集まった命知らずな冒険者達の好奇心や出会いと別れ、そして物語を生み出して来た"天国"でもあった。
種族や出身の隔てなく、人々は剣を振るい、魔法を駆使しながら、数々の凶暴な生き物を打ち倒し、先人の遺した財宝を求めて旅をし、新たな時代をその手で作りあげて行く。
その力強く勢力を伸ばす冒険者の様は、正に"開拓者"のようだ、と後の世に伝える者も居た程であった。
そんな時代を生きた人々の中に、冒険者達が伝説と崇める一人の男が居た。
種族は人間。
彼はその力を以て幾つもの未開の地を征し、その知恵を以て数々の危機を遠ざけて来たという。
だが、その男はいつの間にかぱたりと姿を現さなくなってしまった。彼が身に着けていたと言われる剣のみを残し、消えるように居なくなったのだ。
しかし男の勇姿は、口から口へと伝えられ、その剣は彼の故郷の国に祭られており、現在まで人々の胸にしっかりと刻み込まれている。
そして数々の冒険者の憧れと、夢と、希望となって、歴史に名を残したのだった。
此処に記すは、その伝説を追った数多の冒険者達の、新たな開拓の様子を垣間見た、一つの喫茶店の物語――