元ストーカー軍団のバレンタインデイ
バレンタインデイに間に合いませんでした(汗)
聖マタイ病院大学看護学部に在籍する、義也のストーカー軍団。もとい、元ストーカー軍団の乙女4名が、バレンタインデイを前に緊急招集していた。元部長の千津(4年生)は看護師国家試験の直前のため、そんなことをしている場合ではないので、不参加であった。
元副部長の綾香(3年生)が、全員に呼びかけた。
「今までの私たちにとって、バレンタインデイという日は普段と何も変わらないただの寒い冬の2月のある一日に過ぎなかった。しかし、私たちがストーカーを辞めて半年が過ぎた今、この中から、誰か一人でも新しい一歩を踏み出して欲しい。そのためにみんなで力を合わせて、協力したい。そういう趣旨で今日はみんなに久しぶりに集まってもらったの」
「いいですね。やりましょう!」
と、菜々とこのみ(2年生)、泉(1年生)の3名は、快く賛成した。
「それで、まず、誰か気になってる人とかいたら、教えて欲しいんだけど」
と、綾香が3人を見渡しながら言った。
「あっ、そういえば私、最近気になる人います」
と、菜々が口火を切った。
「誰、誰、誰?」
興味深々に他の3人が身を乗り出して聞いた。
「…羽柴です」菜々が恥ずかしそうに答えた。
「えっ、あの循環器のヘタレじじぃ?」綾香が、あきれた様子で聞き返した。
「綾香先輩、ヘタレじじぃって、ひどいですよ」菜々は少し怒った表情で言った。
「ごめん、ごめん。だけど、なぜにあいつなの?」綾香が反省しながら聞いた。
「補習の時、羽柴にビシッと叱られてから、なんかいいな~って思ってしまったんです」と、菜々が照れながら答えた。
「あいつがピシッと怒ったの? 信じられない!」このみも驚いて聞き返した。
「そうでしょ、そうでしょ!」菜々が笑顔で言った。
「意外性にやられたってカンジでありますかぁ~」泉も楽しそうにつぶやいた。
「でも、ちょっと待って。羽柴って年いくつ? いくらなんでも年の差ありすぎじゃない? そもそもあいつって、独身なの?」このみが我に返ったように、聞いた。
「あっ、そういえば羽柴先生この前、孫生まれたって喜んでおられましたっ!」泉が思い出したように言った。
「ほらぁ~、不倫は絶対にダメ! 却下!!」綾香がキッパリと宣言した。
「はぁ~い…そうですね。少しいいなって思っちゃっただけなんで、まぁいいです」
と、菜々もそんなにショックを受けている様子もなく了承した。
「他に誰かもっと若者との恋バナとかないの?」と、綾香が残る二人のほうを向いて聞いた。
「あっ、それなら若くて気になる人いるかもしれませんっ!」と、このみが二番手に声をあげた。
「うそ! 誰? 誰? 誰?」身を乗り出して聞く3人。
「春人君です!」と、明るく答えるこのみ。
「え~っと…それ、誰?」菜々が不思議そうに聞いた。
「実習にいった時、実はプロポーズまでされちゃったんだけど…」と、今度はやや歯切れ悪そうに答えるこのみ。
「エーッ、すごいっ! どこの実習? 整形外科?」と綾香が驚いて聞いた。
「え~っと、保育園実習で、年長さんクラスの男の子なんですけど…」このみは小さな声で答えた。それを聞いた3人は、がくっと片方の肩を下げた。
「いくらなんでも、若すぎっ!」と、菜々。
「それ、下手すると犯罪でありますっ!」と、泉。
「却下!!」と、最後に綾香がまたしてもキッパリと宣言した。
「やっぱり、そうですよねぇ~。ごめんなさい」と、このみもすんなりと了承した。
「他にもっと、まともなカンジのないのっ?」と、綾香は少しキレ気味に聞いた。
「そういう綾香先輩は、どうなんでありますかっ?」と、泉が綾香に聞いた。
「えっ? 私? あ~、私は…私は、最後に言うわ。泉は、どうなの?」と、綾香は、泉に聞き返した。
「私は、最近シャア・アズ○ブル様一筋なのでありますっ!」と泉は元気に答えた。
「誰それ?」「外人?」「何歳の人?」3人が続けて質問した。
「ガ○ダムに出てくるお方で年齢は20歳。多分外人でありますっ!」と泉が笑顔で答えた。
「却下!!!」綾香がぶちぎれて、大声で宣言した。
「なかなか現実の恋愛って、難しいのでありますっ!」と、泉もさっぱりと了承した。
「やっぱり、私たちみたいなストーカー気質な人種に、まともな恋愛って無理なのかもしれない」と、菜々が悲しげに言った。
「待って、まだ綾香先輩が残ってるわ」と、このみが綾香に希望を託すように言った。
「そうですよっ! 綾香先輩の気になる人をまだ聞いてないのでありますっ!」と、泉も綾香に期待する気持ちで、言った。
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ウィーン――自動扉が開く。「いらっしゃいませ~」店員の明るい声がコンビニの店内に響く。
綾香がレジに向かって歩き出す。「あの、これ…」おもむろにチョコレートを差し出す綾香。
「あっ、は~い」とバーコードリーダーをチョコレートにかざす店員。「あれっ?」バーコードが見つからずに戸惑う店員。
「いえ、あの、これ、私の気持ちです。いつも明るく働いておられるお姿に感銘を受けましたので…」綾香が頬をピンク色に染めながら勇気をふりしぼって、気持ちを伝えた。
驚く店員。数秒の沈黙の後、「ありがとう。なんか、スッゲー嬉しいな。俺なんかで良かったら、今度一緒に食事とかどうですか?」店員が明るい太陽のような笑顔で、さわやかに答えた。
こうして、ストーカー気質脱却に向けて勇気ある第一歩を踏み出した綾香のバレンタインデイは、ハッピーな結果となったのだった。
その時、綾香と、少し離れた所でその様子を見守っていた菜々、このみ、泉の4人は、以前の聖書研究会で聞いた『求めなさい。そうすれば与えられます』の聖書の言葉が現実である事を感じたのだった。
※本文中の『』内の言葉は、新改訳聖書マタイの福音書7章7節から、引用しました。




