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第8話 バイト2日目の遅刻はさすがにやばいでしょ。

こんな時間なので、あとでゆっくり読んで下さい。

 俺は高々と手をかざした。

 持っているのは酒が入った杯。

 黄金色の泡が、くるりと縁の中で回っている。


 見下ろすは、行きつけの酒場に集まった気のいい野郎ども。

 手には俺と同じ酒が握られていた。

 みんな、いい顔だ。

 実に壮観な眺めである。


「よっしゃああああ!! 野郎ども!! 今日は俺のおごりだ! 存分に飲みやがれ!!」

「「「「かんぱーーーーーーーーーーーい!!」」」」


 俺の大号令とともに、酒場の客たちは一斉に杯を鳴らした。


 宴が始まった。




 翌朝……。


「飲み過ぎた」


 げっそりとした顔を、俺はギルドのカウンターに押しつけた。

 冷てぇ……。気持ちいい……。


「大丈夫ですか、ブリッドさん」


 耳をくすぐったのは、天使アーシラちゃんだ。


「え? なんですか、その綽名。勝手につけないでくれます。若干キモいっていうか、重いんですけど」


 どうやら声に出ていたらしい。


「全く初任給もらったからって、はしゃぎ過ぎですよ」

「うん。ちょっと今、反省してる」

「いつまで飲んでたんですか?」

「覚えてない。気が付いたら、ギルドの前に倒れてた」

「なんでスか、それ。帰巣本能ですか?」

「あ、あの……」

「なんです?」

「水くれない。あとゲロ袋……」


 瞬間、世界はセピア色に停止した。


「ちょちょちょちょちょちょっと! こんなところで吐かないでくださいよ!!」

「わかってるわかってる。でも、ゲロ袋ちょうだい。まさしく喉から手が出るほど、ゲロ袋がほしい気持ちなの」

「ひぃいいいいい!! ゲロ袋だったら、立派なのがブリッドさんの体内に内臓されてるじゃないですか! そっちにぶちまけて――いや、キープしておいてくださいよ!!」

「お、お願い! も、もうでちゃう……」


 ゲロ(自主規制)



 『しばらくお待ち下さい』



 盛大にギルドの中で○○をぶちまけた俺は、完全にグロッキー状態のままカウンターに顔を預けた。

 かなりすっきりしたが、依然として頭が痛い。

 典型的な2日酔いだった。


 しかも、追い打ちをかけるように周囲がうるさい。

 ギルドは閑散としているのだが、その周りだ。

 トントンカンカンと木槌を打つ音が聞こえたかと思えば、耳障りなギコギコとノコギリで切る音が聞こえる。

 いつから住宅ラッシュが始まったんだ?

 てか、やめて。頭痛いの、ホントに。


「大丈夫ですか、ブリッドさん」

「その声はフィオーナちゃん」

「そうですよ」


 顔を上げると、ブロンドのエルフが微笑んでいた。

 アーシラちゃんも可愛いが、フィオーナちゃんもなかなか捨てがたい魅力を持っていた。

 どっちかといえば、美人のお姉様系だ。

 ちなみに、バストの大きさは、アーシラちゃんの方が圧とう――。


「ブリッドさん」

「はい」

「今、私とアーシラの胸の大きさのことを考えていたでしょ?」


 なんでわかったの!?

 今、絶対口に出していなかったはず!

 なに? フィオーナちゃんは、読心術でも使えるの?

 教えて、お願い!

 アーシラちゃんの心を知りたい。


「知っても不幸にしかならないよ。あの子、心の中は真っ黒だから」


 い~や~だ~!

 そんな話聞きたくない。

 あの子はきっと純真なんだ。トイレとか一生いかない子なんだ。


「チェンジだ! チェンジ! アーシラちゃんを出してよ、フィオーナちゃん」

「あの子なら、心的外傷後ストレス障害を受けましたっていって、早退したわよ」

「え゛?」


 心的外傷? ストレス?

 なんだ、それ?

 アーシラちゃん、病気なの。


「そんなことよりもさ」


 いきなりフィオーナちゃんは俺に顔を近づけた。

 ちょっと化粧臭い。減点5。


「ブリッドさん、給料もらったんだって」

「ああ。もらったよ。日給で999,999,999エン」

「マジ! じゃあさ。初給料でしょ。なんか記念に私にプレゼントしてよ」

「え~。アーシラちゃんならまだしも、なんでフィオーナちゃんに」

「ケチくさいこといわないでさ。999,999,999エンなんて1人で使い切れるもんじゃないっしょ?」


 さらに擦り寄ってくる。

 俺の顎を猫みたいに撫でた。


「あ~。悪いけど、無理」

「なんでよ! 私が貧乳だから! 差別よ! 貧乳差別!!」


 自分で言っちゃった。


「いや、もうお金ないんだよ」

「は?」


 フィオーナちゃんの厚化粧がぼろり剥がれた。


「今なんつった? こら」


 ゴゴゴゴ、という擬音をバックに、フィオーナちゃんの様子が変わった。


「だから、もうないんだって、お金」

「ない? なんで?」


 眉をピクピクさせながら、フィオーナちゃんは迫力ある顔で凄んでくる。

 今にも「アイエエエ!?」と奇声を挙げそうな勢いだ。


「あげちゃった」

「誰に?」

「酒場の客に」

「全部飲み代に使ったの?」

「全部じゃないけど、あとはみんなにご祝儀として配った」

「いくら?」

「ええっと……。飲み代に100万ぐらい使って、30人ぐらい来てたから」

「3000万?」

「たぶん、それぐらい」


 次の瞬間、俺はフィオーナちゃんに胸倉を掴まれていた。

 さらにつるし上げられる。


「あんた、なんばしょっとね!!!!」


 ちょ! 落ち着いて、フィオーナちゃん!

 なんか訛り出てるし、化粧が崩れてるよ。


 ギルドに現れた鬼は、態度を崩さなかった。

 目をつり上げ、100年ぐらい追い続けた親の仇を見つけたといわんばかりに、睨んでいる。魔族を怒らせた時のように、目が真っ赤だ。


「なんで全部あげちゃうのよ! 紹介したのはギルドよ! 私たちに残しててくれてもいいじゃない」


 そんな欲望に忠実なことを堂々言われても……。


「ああ! もう! やっとわかったわ。おかしいと思ってたのよ。急に新築ラッシュが始まってさ」


 なるほど。

 それで俺のお金をもらったヤツが、その金を使って家を建てたのか。


「挙げ句、ギルドを辞めるって、今日辞表出してきた子がいたの。いい男を釣れたのでって。幸せそうだったわ!」


 それは、この件とは関係ないっていうか。

 八つ当たりだよね、単に……。


「チッ!」


 吐き捨てるように舌打ちする。

 フィオーナちゃんはようやく俺を下ろしてくれた。

 危なかった……。あとちょっと遅かったら、セカンド○○が起こっていたところだった。


「あ~あ。私も早退しようかな」

「あのさ、フィオーナちゃん」

「何よ、クソ勇者」


 元勇者ね。

 これでも俺、世界とか救ったから。

 そこはちゃんと敬って。お願い。


「今度、おごるからさ。機嫌なおしてよ」

「当たり前だろ。……私には半分よこせよな」


 なんかかつあげされてるいじめっ子みたいに思えてきた。


「だから、今何時か教えてくれない?」

「時間?」


 するとフィオーナちゃんは席を立つ。

 近くにあった時計を持ってくると、俺の前にドンと置いた。


「ほらよ。自分で確認しな」


 慈悲もねぇ……。


 顔を上げる。

 ややぼやけた視界の中で、一生懸命時計を見つめた。

 こんなに懸命に時計を確認したのは初めてだ。


 えっと……。

 短針と長針どっちだ?


 なんとかピントを合わし、ようやく今の時間を確認した。


「――――!」


 その時の俺の顔は、しなびた白野菜よりも真っ白になっていただろう。


 ようやく目を覚ました。


 ヤバイ……。

 始業時間過ぎてる。



 【本日の業務日誌】

 心的外傷ストレスという単語を覚える。意味は不明。

 元勇者は999,999,999エンを使った。しかし何も起こらなかった。

 所持金額 0エン

 街のレベルが1上がった。


明日は出張で移動などもあるので、更新は2回ぐらいになると思います。


とりあえず、出発前までに更新頑張ります!

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