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第7話 元勇者は初給料を獲得した。

日間総合255位いただきました!

評価・ブクマいただいた方に感謝です。



 ルゴニーバは壁を突き破ると、ようやく止まった。


 全身を強く打ったが、そこは龍顔族だ。

 なんとか意識を保っていた。

 問題はアルバイターに殴られた自慢の顔。


「痛ち!」


 触ると大きな瘤が出来ていた。

 頭もクラクラする。


 ――一体、何者なのだ?


 と考えるのだが、疑問よりも怒りの方が勝っていた。


「ルゴニーバ様ああ!」


 龍顔族がやってきた。

 自分の部下ながら、なんとも情けない声だ。


「おう! こっちだ!」


 手を挙げる。

 そこで気付いた。どうやら戦斧を落としてきてしまったらしい。


 拾ってこようと起き上がろうとするのだが、足が(もつ)れてうまく立ち上がれない。

 軽く舌打ちすると、部下を呼んで手伝わせようとした。


「一体……。ここで何をしているんですか?」

「何をしてるって……。今から、あいつをぶん殴りに行くんだよ」

「あいつ?」

「あいつはあいつだ。アルバイターとかいうヤツだ」

「アルバイター?」

「詳しいことは知らねぇ。……なんでもドランデス、の……ヤツ…………」


 威勢良く話をしていたルゴニーバの声が、徐々に小さくなっていった。


 暗闇に紺碧の光が瞬いていた。

 やがて人型のシルエットが現れる。身体の後ろで、尻尾のようなものが左右に振れているのが見えた。


「ドランデス――のヤツ?」


 眼鏡が光り輝く。

 それは我が上司にして、四天王最強――。


「ドランデスさまあああああああああああ!!!!」


 ルゴニーバは絶叫した。




 俺は仕方なく片づけを始めていた。


 ともかく瓦礫を城の外へと放り出す。

 見た目だけでも綺麗にしておかなければ、ドランデスに何を言われるかわかったもんじゃない。


 それよりも先ほどの騒動のことを報告しておいた方がいいのだろうか。


 ドランデスからは、業務上支障を来す場合のみ、魔族への暴力は許可されている。だが、1日目からこれでは、さすがに罰が悪い。

 人間に負けた――なんて、ルゴニーバは自ら上司に報告するようなたまじゃないだろうし。黙っていれば、なんとかなるのではないか。


 けれど、魔族をぶっ倒すことに人生の大半を費やした俺でも、『ほうれんそう』という言葉は知っている。いわゆる報告・連絡・相談と言うヤツだ。


 黙っているというのも、気が引けた。


「はあ……」


 モップの柄に顎を置き、俺はため息を吐いた。


 ずん……。


 いきなり地響きが聞こえた。

 城を揺るがす微震とともに、音が近づいてくる。


 何者かが奥からやってくることは明白だった。


 ルゴニーバが戻ってきたのだろうか。

 懲りない野郎だ。

 さっきの一撃で、俺との戦力差がまだ理解できないらしい。


 ちょうどいい。あいつに掃除を手伝わせよう。


 奥の闇から何かが現れる。

 最初に見えたのは、大きな玉だった。


 何かうるさい。

 悲鳴と叫び声が交錯している。

 それもそのはず、玉の正体は絡みに絡みあった龍顔族たちだった。

 ルゴニーバの姿もある。若干、半泣きになりながら、何かを訴えている。しかし、顎が外れているのだろうか。意味不明だ。


 龍顔族の塊を片手で持ち上げている者を見つめた。

 重みで足が石床にめり込んでいる。


 鎖が付いた眼鏡の奥から、紺碧の光を放っていた。


「ど、ドランデス、さん」

「はあ……」


 来て早々、惨状を見つめたドランデスはため息を吐いた。


「事情は部下から聞きました。この者たちにも手伝わせましょう」


 ぽいっと、投げる。

 塊は壁に当たると、弾けた。

 組んずほぐれつになっていた龍顔族はちりぢりになり、顔を真っ青にしながら作業を始める。


「ありがとうございます」

「いえ。こちらの監督が届かず、申し訳ありません」

「あの~。俺の処分は?」

「処分? ああ。あなたが良ければ、明日も来ていただきたいのですが」

「お咎めなしってことでいいんですか?」

「もちろんです。……清掃業務を妨げたのです。あなたは私の命令によって動いていました。それは私の命令を妨害したといってもいい。そういうことなら、主戦派の口実にはならないでしょう」


 すると、ドランデスは手が止まっている部下を叱り付ける。


 俺はホッと胸を撫で下ろした。

 良かった~。

 いや、良かったのか?

 辞めるっていうなら、このタイミングだと思うぞ。

 でも、借金がなあ……。


「ところで、お怪我はありませんか?」


 ドランデスは指示を出しながら、横目で俺に尋ねた。


「あ。大丈夫ッス」

「そうですか」


 その瞬間だった。


 ドランデスの尻尾が鞭のようにしなる。

 高速で振られると、俺の顔面を捉えた。


 パシィィン!!


 鋭い音が廊下に鳴り響く。

 驚いたのは、作業していた龍顔族だ。

 手を止め、長い首を動かしてこちらを見つめた。


 顔寸前のところで、俺は尻尾を受け止めていた。

 高速で放たれた尻尾はかなり熱くなっている。

 ジュッと音を立て、俺の手の汗が蒸発した。


 ――あっぶねぇ……。


 速さだけではない。

 威力、重さ、タイミング。どれをとっても最上と言える攻撃。

 元勇者(おれ)じゃなかったら、首が吹っ飛んでるね。


 尻尾に込められた力が緩む。

 俺は手を離した。

 蛇のように引っ込むと、ドランデスの後ろへと控えた。


「お強いですね」

「……それほどでもねぇよ」


 探るような紺碧の瞳から、俺は逃れるように逸らした。


 ドランデスから放たれていた闘気のようなものが霧散するのを感じる。


「まあ……。多少腕に覚えがある方だろうとは思っていました。そうでもなければ、魔王城で仕事をしようなんて人間はいないでしょうし」


 多少ね。

 お前の多少ってどういうレベルなんだ?

 さっきの一撃を止められるような人間って、人間界に2人といないぞ。


「今日はもうあがってください」

「え? でも、俺……。来たばかりだぜ」

「この状況で、掃除もないでしょう」


 ドランデスがボロボロになった廊下を見つめる。


 確かにな。

 潔く納得した。

 お言葉に甘えるとしよう。


「わかりました。じゃあ、お疲れさまです」

「お疲れさまです」


 俺はロッカールームに引っ込もうとした時、また声をかけられた。


「ブリードさん」

「はい?」

「明日も来てくれますか?」


 少し考えてから、俺は答えた。


「そっちがいいならまた来ますよ。危険だけど、給料はいいので」

「そうですか。あ――」


 何かを思いだしたらしい。

 ドランデスは「ちょっと待って下さい」と言って、一度廊下の奥へと引っ込む。しばらくして両手に大きな鞄を抱えて、戻ってきた。


 俺の目の前に下ろすと、砂埃が舞う。

 かなり重そうだ。


「なんですか、これ?」

「何って、給料ですよ、今日の」

「は?」

「聞いてませんか? 日払い制と求人票には書いておいたのですか」

「え? ていうことは、この中には」


 おもむろに鞄を開いた。

 そこには、金貨がこれでもかというほど詰められていた。


 おおおおおおおおおおおおお!!


 思わず俺は心の中で絶叫する。

 正直泣きそうになった。

 嗚咽を堪えるために口を塞ぐ。


 金貨を見ることすらあまりないのに、それが山のように入っていたのだ。

 感動しないわけがない。


 俺が涙が出そうになるほど、打ち震えていたのは他にも理由がある。


「どうしました?」

「いや、その……。実は俺……。ちゃんと働いたのは初めてで」

「はあ……」

「だから……。初給料なんですよね」

「そうなんですか。……えっと、おめでとうご(ヽヽヽヽヽヽ)ざいます(ヽヽヽヽ)。――と、申し上げればいいのでしょうか」

「はい。ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。

 口を閉じ、持ち上げる。

 いろんな意味で重たい鞄だった。


 はっきり言うが、働いたという感覚は皆無に等しい。

 けど、給料をもらえたのは、ここ数年で一番嬉しかった。


「改めまして。お疲れさまです」

「お疲れさまでした」


 その時の俺は、いい笑顔だったに違いない。



 【本日の業務日誌】。

 元勇者は本日の業務を完遂した。

 999,999,999エンを手に入れた。


PVも今日1日だけで、3000を超えました。

読んでいただいた方、本当にありがとうございます。


次はなるべく早めに更新できるよう頑張ります!!

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