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第6話 やっぱりこうなるよね……。

早くもPVが2000オーバーしたので、

頑張って、早めの更新をしちゃいました。

読んで下さった方、ありがとうございますm(_ _)m

 ルゴニーバの口臭を気にしながら、俺は先ほどドランデスに言われた言葉を思い出していた。


 ●


「言い忘れていたことがありました」

「うお!」


 いきなり背後から声をかけられて、俺は思わず尻餅をついちまった。

 振り返るとドランデスが立っていた。


 おいおい。

 いくら四天王様とはいえ、気配を消して近づくなよ。

 ま、まあ、わかってたけど……。なんてたって、俺は元勇者だしな。


 一瞬にして浮かび上がった汗を、俺は拭う。


「すいません。驚かせてしまいましたか」

「あ。いえ。……えっと何か?」

「ああ。就労に際して、守ってほしいことが2つほど」

「はあ……」


 俺にはお前に2つどころか、数え切れないほど守ってほしいことがあるぞ。

 例えば、残業代は出るのか、とか。休みはいつとっていい、とか。辞めたい時は、14日以内に退社できるか、とかな。


 ドランデスは説明を始めた。


「簡単に申し上げれば、魔族との付き合い方です」

「付き合い方?」

「そうです。ご承知の通り、人間との和睦によって、我々が人間を殺めることは罪になります。それもかなり特別に重い罪です。故にあなたが魔王城で働いていたとしても、その命は保証されています」

「それって……。法律上ですよね」


 ドランデスはおもむろに目を伏せた。


「その通りです。つまり、法律上罪になるとしても、魔族の倫理観そのものは変わってはいません。むしろ人間への憎悪は昔よりも強いと思って下さい」

「和睦をよく思わない魔族が、たくさんいるってことですか?」

「有り体に申し上げれば……」


 おいぃいい!! そんな状況でバイト雇うなよ!


「ですので、魔王城で働いているあなたにちょっかいを出す可能性は極めて高い」

「あの~。その時はどうすれば」


 眉をぴくぴくさせながら、怒鳴りたい気持ちをぐっと堪える。


「まず私の名前を出して下さい。一定の魔族にはそれだけで効果があるでしょ」

「一定の魔族と今いいましたよね。それ以外の魔族には? たとえば、ドランデスさんと同じ四天王とか」

「むしろ、四天王の方が理解してくれるでしょ。問題は地位の低い魔族です」

「地位の低い?」


 首を傾げる。


「地位が低い魔族ほど大戦時、最前線で戦ってきました。仲間を失うところを目の当たりにしてきた者も多い。そういう魔族ほど、人間に対する憎悪は根深い」

「…………」

「すいません。それは人間も同じでしょうね」

「お気になさらずに。ともかく、どうすれば?」


 話を戻す。


「それが約束を守ってほしいことの1つ目です」


 ドランデスはそう前置きした上で、こう言った。


「たとえ、挑発しても魔族を攻撃しないでいただきたい」

「ちょ! ――それは!」


 魔族側に言うべきことだろう。


 すると、ドランデスは頭を下げた。


「どうかお願いしたい!」


 言葉に必死さが滲み出ていた。


 俺は振り上げそうになった怒りを1度沈める。


「理由を聞かせてくれ」

「魔族はそうでも。人間なら私の願いを守ってくれると思ったからです」

「は?」

「人間との和睦は、まだ細い1本の糸でしか繋がっていない脆弱なものです。我々が人間を害せば、魔族側が謝って済む問題です。そして人間は忍耐強い。多少の失敗は、許してくれる度量があると――。これは私の勝手な感想です」


 確かに勝手な感想だ。

 だが、人間の真理ではある。

 そうして人類は進歩してきたわけだしな。


「しかし、魔族は違う!」


 ドランデスは一層語気を強めた。


「些細な瑕疵を1つでも作れば、魔族の中にいる主戦派と呼ばれる連中が息を吹き返すでしょう。そして雪崩のように、人間を滅すべしという声が沸き起こる」


 つまりはこうだ。

 俺が魔族にいじめられて、怒りに任せてボコったりしたら、主戦派の格好の餌食になる。そのまま最終戦争再突入という構図が出来上がりというわけだ。

 頭を下げさせることよりも、その怒りを抑えることの方が難しいのだろう。

 ドランデスはその怒りを恐れているのだ。


「つまりは、俺からちょっかい出すなよってことだよな」


 いつの間にか、俺は砕けた物言いで上司に確認していた。


「そういうことです」

「わかった」

「いいんですか?」

「上司がそういうんなら仕方ないだろ? それに俺も戦争は真っ平ご免だしな」

「ありがとうございます、ブリードさん」


 まさか魔族に「ありがとう」なんて言われる日が来るとは。

 少々照れくさい。


「いいよ。礼なんて。――で、もう1つは?」

「はい。……実は、1つ目の件と矛盾するのですが」

「はい?」


 ●


 俺は周りを見た。


 先ほどまで障害物なんて、菓子クズぐらいだったのに、今は大岩がゴロゴロと転がっている。

 砂埃もひでぇ。

 さらに言うと、龍顔族のヤツらときたら、足裏も洗わずに入ってきたものだから、そこらじゅう足跡だらけだ。


 俺がさっき綺麗にしたロッカー室の周りも無惨なものだった。


 ――はあ……。また一からやり直しじゃねぇか。


 肩を落とす。


「どうした、人間? びびったか? だったら、()ぬが良い。ここは貴様のような汚物がいて良いところではないわ!!」


 空気が震える。

 ルゴニーバは大口を開けて、威嚇した。


 まったく……。どっちが汚物だよ。

 漂ってきた口臭に、眉根を寄せる。


 その汚物に頭を下げた上司の気持ちなど、こいつには一生わからないんだろう。


 ドランデスの顔を思い浮かべた。

 あの真剣な表情を、瞼の裏に映す。

 眼鏡の奥に秘めた紺碧な瞳は、強く訴えかけるものがあった。


 そういうのは……。嫌いなじゃない。


「おい。蜥蜴?」

「……。貴様、誰のことを言っている?」


 ルゴニーバは顔を上げた。

 緩み始めていた緊張感が、再び張りつめる。


 他の龍顔族の顔は真っ青だ。


「あいつ、今――」

「ああ。聞いたぞ」

「とか――」

「おい! それ以上いうな!」


 ひそひそと話しはじめる。

 一方、ルゴニーバは低い唸りを上げて、俺を見つめていた。

 鼻から煙がたなびかせた。

 今にも口から赤い炎を噴き出しそうだ。


 そんな龍顔族のかしらに向かって、俺は指をさす。


「お前だよ。なんつったけ? 蜥蜴のルゴニーバだっけ?」


 赤い蜥蜴《ヽヽ》の瞳が燃え上がった。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 ルゴニーバは咆哮した。


 俺は知っている。

 こいつは蜥蜴といわれるのを極度に嫌う。

 何故なら、最初に蜥蜴野郎と命名したのは、この俺――。


 勇者ブリッドだからだ。


「忠告だ。今度、壁を壊したら。てめぇ、ただでは済まないぞ」


 刹那だった。

 ルゴニーバは、壁に戦斧を突き立てていた。


 3度の轟音。

 魔王城に響き渡る。


「ああん? なんだ、人間。もう1度いってみろ! 壁を壊したらどうなるって? ああん?」

「やったな?」

「だから、どうした? どんな風にただではすまないんだ」


 ルゴニーバの火袋は膨れあがった。


 次瞬、その口から炎が吐き出される。

 情け容赦なく放たれた一撃は、周りの龍顔族をも巻き込んだ。

 阿鼻叫喚の地獄絵図になり、龍顔族は魔王城の廊下で逃げまどう。


 岩すら溶かす炎は、一瞬にして辺りを焼け野原ならぬ焼け城に変えた。


「はあはあはあはあ……」


 やっとルゴニーバが口を閉じる。

 荒い息を繰り返した。


「はん! 口ほどにもないヤツめ」


 大口を開けて笑う。


「おやびん。さすがに人間をやるのは不味くないスか?」

「は! ここは魔王城だぞ。人間の1人や2人、行方不明になったところで、誰も不思議には思うまい。ドランデスには、ちょっと挨拶したら、逃げ帰ったと報告してやるわ」

「それって嘘の報告をするってことスか?」

「当たり前だろ! 人間を殺したと知れたら、ドランデスに何されるかわかったものではない」

「それがわかってて、殺っちゃうなんて。おやびん、マジ魔族」

「オレ様を誰だと思ってる。黒龍のルゴニーバ様だぞ。ところで、さっきからお前。そのしゃべり方はなんだ。オレ様はお前らの頭だぞ!」


 ルゴニーバが横を向いた。


 ――――!


 そこに立っていたのは……。

 いや、宙に浮かんでいたのは――。


 俺だった。


「よ! 蜥蜴野郎!」


 手を挙げる。

 とても気さくに。


「てめぇ!」


 ルゴニーバは戦斧を振り上げた。

 斧というよりは、刃がすり減り巨大な槌となっていたそれは、俺の頭上から襲ってきた。


 トスッ……。


 妙に軽い音が、煙がたなびく――まさに戦場といった趣の廊下に響き渡る。


「は?」


 ルゴニーバの龍の目が、ギョッと剥くのを視界に捉えていた。


 俺はあっさりと戦斧の刃を掴み、止めていた。

 対して、ルゴニーバは戦斧を引こうとするがビクともしない。


「どうした? お前の巨体は見かけ倒しか、蜥蜴野郎? いや、野郎じゃねぇなあ。お前の場合、蜥蜴ちゃんだ」

「貴様ぁああああああああ!!!!」


 絶叫した。

 戦斧から手を離し、口を開けた。


 炎が解き放たれる。

 岩をも溶かした超高温。


 しかし、俺は涼しげな表情を浮かべる。

 肉体はおろか纏っているつなぎですら、一陣の灰にすらならなかった。


「なんだ、その炎は? ドランデスの方がよっぽど熱かったぞ!」


 ドランデスの名前を出されてはたまったものではない。

 ルゴニーバはさらに火力を上げる。


 俺の表情は変わらない。


 やがて炎が尽きる。

 火袋の燃料をすべて使い切ったのだろう。


「もう終わりか?」

「き、貴様! 何者だ?」

「言ったろ。アルバイターだって」


 そして辺りを見つめた。


 廊下ではなく、戦場になった場所を。


「全く俺の仕事場を汚しやがって。これは明確な業務妨害と見ていいよな」

「……な、何を言ってる?」

「悪いな。こっちはしがない就労者でな。契約上、こんなことにならない限りは、手が出せねぇんだよ」


 ドランデスの2つ目の願いはこうだった。


『もし、魔族があなたの業務を妨害するようなことがあれば、それは明らかな違反です』


 そう前置きし、龍の魔族はこう結んだ。

 実に四天王の一角らしい一言だったと、俺は振り返る。



 ……可能ならば、死なない程度に痛めつけてください。



 じゃあ……。そうしますかね。


 俺は拳を握った。

 強く……。強く。

 あの魔王と戦った時を思い起こして。


「久しぶりの全力だ」


 ルゴニーバの眉間へと一瞬にして移動する。

 その勢いのまま、俺は拳打を放った。


 ごおん!!


 鐘楼ごとひっくり返したような音が響き渡る。


 瞬間、ルゴニーバは吹っ飛ばされた。

 廊下の奥の闇へと消えていく。

 かなり奥深くまで飛んでいったのだろう。


 龍顔族の頭が地面に叩きつけられるような音は一切してこなかった。


 それはまるで、闇がルゴニーバを飲み込んだようだった。


 俺は振り返る。

 数名の部下が瓦礫から顔を出していた。

 俺が睨んでいるのを知ると、さっと引っ込め。


「るるる、ルゴニーバさまぁあああああああ!!」


 迷子の子供が両親に再会した時みたいに泣きじゃくると、ルゴニーバが飛んでいった闇の方へと消えていった。


 俺はボリボリと頭を掻く。


「くっそ! 逃げるなよ。折角、手伝わせようと思ってたのに」


 改めてみると、廊下の惨状はひどいものだ。


 俺はとりあえず、これを片づけろと上司が命令しないことを祈ることにした。



 【本日の業務日誌】

 龍顔族が現れた。

 元勇者、会心の一撃。

 ――――――――ポイント(測定不能)のダメージを与えた。

 龍顔族をたおした。


この話は初めての無双回でしたが、

いかがでしょうか?


感想・評価などをいただきますと、割と高く飛び跳ねると思います。


次は日付が変わる前か後か。

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