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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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第48話 元勇者は、モフモフしてみた。

いつもより長めなので、読む際はご注意願います。

 というわけで、フィアンヌが同僚になった。


 何が「というわけで」なのかわからないが、なってしまったものは仕方ない。

 聞けば、借金を背負ったらしい。

 自業自得ではあるのだが、同情する余地はある。

 まあ、借金してるヤツの半分ぐらいは自業自得な訳だし、こいつもまたその50%に入閣されたわけだ。その1人に、俺も入っているわけだが……。


 しかし、なんで魔王城でバイトするかねぇ。

 お前の容姿なら、膝枕しながら耳掻きしてもらう方がよっぽどお金が貯まると思うぞ。ただし、こいつアホの子だから、鼓膜が破れることを覚悟しなければならないだろうがな。


 その辺を尋ねてみた。


「だって、日給すごいじゃないですか?」


 すっごい現実的な答えが返ってきた。

 アホの子なのに……。

 フィアンヌ……。お前もか。


「これがあなたの制服です」


 ドランデスはロッカーを開け、制服を差し出した。

 相変わらず、用意がいいことで。


「わーい、師匠とお揃いだ、です!」


 制服を掲げ、くるくるとその場で回る。

 まるで玩具を買ってもらった子供みたいだ。

 地味なつなぎを渡され、ここまで歓喜するヤツも珍しい。


 これがモームから出来た服だと知ったら、どんな顔をするだろうか。


「ところで、その“師匠”って呼び名はなんなんだ?」

「ほぇ……。師匠は師匠ですけど」


 俺はお前を弟子にしたつもりはないぞ。


「師匠は、フィアンヌよりここで先に働いていたから、師匠です」

「そういう時は、先輩っていうんだ」

「ブリードぱいせん?」


 お前、絶対わざといっているだろ。


「却下です。言いにくいので、師匠がいいです」


 どこが言いにくいんだよ。

 あと、師匠のアドバイスをあっさり却下するな。


「ともかく着替えてもらえますか?」

「あ。申し訳ないです。ドランデスさん」


 ドランデスは“さん”付けなんだな。


 すると、フィアンヌは鎧を脱ごうとする。

 ちなみにまだあのきわどい――訂正――危ないビキニアーマーを付けていた。

 こいつ、まさかあれからずっと装備しているのか?


「あの……」

「はい?」


 フィアンヌは黄金色の瞳を向ける。

 ドランデスは首を傾げた。


「き、着替えるので出てってもらえますか?」

「あ。そう言えば、そうでしたね。すいません」


 なんかこのやりとり懐かしいなあ。


 俺とドランデスはロッカールームを後にした。




「ブリード、後は頼みましたよ」


 一声を発して、上司は奥へと下がっていった。


 俺たちはそれを見送った後、掃除場所へと足を向ける。

 今日はサーベルタイガーの部屋だ。

 何度か掃除をしていて、すでに手慣れている。

 主にスィームが、だが。


 そのスィームも、後ろからぴょこぴょことついて来ていた。



「前から聞きたかったんだけど、お前のあの装備はどうしたんだ?」

「あの鎧のことですか? えっと……。魔王を倒しに行く時に、武器防具屋さんに寄ったですよ」


 なるほど、装備を調えに行ったというわけだ。

 こいつにしては、賢い行動だな。


「でも、フィアンヌ、お金を持ってなくて」


 前言撤回――!


「それで店主さんに泣いてお願いしたら、あのビキニアーマーを無料タダでくれたです。優しい店主さんでした」


 なるほど。得心した。

 大方在庫処分に困っていた物を、こいつは押しつけられたのだろう。

 俺からしたら、店主は優しいのではなく、実に狡猾で商売人らしいと思う。


「でも、あの鎧すごいです。とっても動きやすいです!」


 だろうな!

 見たまんまの感想ありがとよ。


 そうこうしているうちに、件の部屋についた。

 俺は手慣れた動きで、サーベルタイガーたちを別室へ誘導していく。


 いつもと違って、フィアンヌがいるせいだろう。

 サーベルタイガーたちは「ぐおおお!!」といつもより唸りを上げた。


 檻の向こうから見ていたフィアンヌは、もの珍しそうにその光景を見ていた。

 すべてのサーベルタイガーたちを別室に移す作業が終わる。

 フィアンヌは拍手を送った。


「すごいです、師匠。師匠、すごいです!」


 なんだよ、その――上から読んでも、下から読んでも同じ――みたいな感想は。


「どうってことねぇよ。基本的にあいつら、大人しいし。人間を無闇に咬まないよう躾がされてる」


 主に仕付けたのは俺だけどな。


「師匠は猛獣使いみたいです」

「どっちかっていうと、魔獣使いだな」


 一応、俺が保有しているスキルに、魔獣の扱い関するものが何個かあって、この仕事に重宝してる。

 ドランデスの仲介なしに、モンスターたちとふれあえているのは、そんな理由もあるのだ。


 勇者時代には、糞の役にも立たなかったスキルだったが、まさか引退してから本領を発揮するとは思わなかった。


 え? 何? じゃあ、なんでスキルを獲ったかって?

 そりゃあ、お前……。

 若気の至りというヤツだよ。


 1つ言っておくと、ラミアとか、蜘蛛女とか、人魚を仕付けて、おっぱいを触りまくりたいとかそんな理由じゃないからな。

 ホントだぞ! 信じろよ! マジだかんな!!


「よし。入ってきていいぞ、フィアンヌ」


 檻の鍵を開ける。

 フィアンヌは恐る恐る入ってきた。


「うう……。すごい臭いです」


 鼻を摘み、顔をしかめる。


「師匠は臭くないんですか?」

「ま。慣れだな」


 糞の臭いに慣れるなんて、悲しい職業病だ。


「さて。スィーム、あとは頼んだぞ」

「ピキィ!」


 いつも通りの返事をした後、スィームはその辺りにあった糞や尿を吸引――失礼――飲み込んでいく。


「スィームちゃん、凄いです」

「ピキィ!」


 褒められて嬉しかったのだろう。

 スィームの色が赤くなる。

 すると、スピードアップした。


「ああ、こらこら。スィーム、ゆっくりでいいぞ」

「ピキィ!」


 普通のスピードに戻る。

 あんまり早く終わられてもかなわんからな。


「フィアンヌはどうしたらいいですか?」

「とりあえず、餌の準備だ。あと寝床の寝藁も綺麗にしてやらないとな」

「他には?」

「それで終いだ」

「えっと……。それって? すぐに終わらないですか?」


 そこに気付いてしまったか。


 俺はガッとフィアンヌの小さな肩に手を置いた。


「フィアンヌ……」

「はいです」

「黙っておけよ」

「…………」

「返事は……」

「はい、です!」


 うむ。俺は物わかりがいいガキは大好きだぞ。

 さすがは俺を「師匠」と呼ぶだけはある。

 弟子をとった覚えは微塵もないのだが。


 俺たちは餌を準備し、寝藁を整えた。

 スィームは言われた通り、スローリーモードで塵や埃と一緒に、糞や尿を飲み込んでいっている。その力に、些かの衰えもない。

 もはや糞や尿を獲る動きに、貫禄すらついてきたような気がする。


「この後は……」


 フィアンヌが尋ねる。

 俺は大きく欠伸した。


「俺は少々寝る。疲れた」

「疲れたですか? フィアンヌは元気ですけど」

「馬鹿野郎! 俺とお前とでは、仕事への必死さが違うのだ!」

「ひ、ひぃ! ご、ごめんなさいです」

「というわけで、俺は寝る。おやすみ。スィーム、あとは頼んだぞ」

「ピキィ!」


 ごろりと転がる。

 糞が香る檻の中で、俺は寝不足と2日酔いを解消すべく瞼を閉じた。



 ◆



 しばらくして、俺は目覚めた。


 隣から寝息が聞こえる。

 見ると、フィアンヌも寝ていた。

 どうやらスィームも仕事を終えたらしく、今は少女の抱き枕に変わり果てていた。


「ピキィ!」


 基本的に眠ることのないスィームは、俺の動きに気付く。

 俺は「しー」と口に指を当てた。


 回り込む。

 フィアンヌの寝顔を見つめた。


 黄金色の瞳を閉じ、規則正しく息を吐き出している。

 その口からは若干、涎が垂れていた。

 まさしく子供の寝顔だ。


「師匠……は…………もう食べれないれすぅ。じゅるるる」


 と涎を飲み込む。


 “師匠は食べれない”って、どんな夢を見てるんだよ。

 俺は顔を赤くしながら、頭を掻いた。


 ふと視線を外す。

 ある点に注目した。


 それは初めてフィアンヌを見た時に、俺の視界にいつも収まっていたものだった。


 今も、少女の背中の後ろでひらりひらりと踊っている。

 まるで俺を誘う美女のようだ。


 それは尻尾だった。


 なんと形容すべきだろうか。

 ドランデスの逞しい尻尾でもなければ、エスカのキュートな尻尾とも違う。


 大きく、そしてふかふか……。


 そのまま飲み込まれてしまいそうなフィアンヌの尻尾。


 何故か触らなくても、感触が想像できてしまう。


 つまりはモフモフである。


 こいつと出会ってから、ずっと気になっていた。

 いや、フィアンヌと出会う前。

 戦場で駆けめぐる黄狐族(フォッグス・フォル)たちを見て、何度思ったことだろうか。


 触りたい……。

 それは巨乳のお姉さんに「乳……。触っていいですか?」的な背徳感を感じずにはいられなかった。


「う、うう……」


 フィアンヌは寝返りを打つ。


 体位が入れ替わり、俺の前に差し出された。

 まるで「さわれ」と言わんばかりだ。

 これは所謂、ボーナスチャンスなのではないか。

 そんな錯乱した思考に到達してまで、俺は尻尾を触ることを渇望した。


「ちょっとだけなら」


 手を伸ばす。


 ふと視線に気付いた。

 じっとスィームがこっちを見てる。


「ピキィ!」

「こっちを見るな。そして黙ってろ」

「ピキィ!」


 だから、うるさいっての。

 しかしスィームは空気を読んだのか、フィアンヌから離れていく。


 じっと物陰から様子を伺った。


 俺は再度手を伸ばす(アタック)

 規則正しい寝息。足を組み、熟睡する少女。

 尻尾はモフモフ。


 ああ……。何か――睡姦してる気分になってきた。


 天国のお父さん、お母さん、ごめんなさい。

 ブリッドは悪い子です。


 息子は魔王を倒しました。

 ですが、この欲望に勝てそうにありません。


 よし――。


 息を呑み、俺は尻尾に……。


 触れた。



 ……モフモフだあ。



 全身の毛という毛が逆立つのを感じた。

 夢心地だ。

 正直、軽くイキそうになった。


 女性の胸で、尻でもない。

 柔らかで、極上のカーペットを撫でているような触り心地を感じる。

 いや、それ以上だった。


 さわさわ……。さわさわ……。


 こうなったら、俺は止まらない。

 理性など、最初からなかったのだ。


 俺はさらなるモフモフを探求するため、大きな尻尾の密林へと分け入っていく。


 そう――。

 尻尾の中に、頭から突っ込んだのだ。


 ――や、やべー。きもてぃぃぃいいいいい!


 心の中で絶叫した。

 一体何なんだ、この感覚は。

 一生触ってても飽きない不思議な触り心地。


 無人島で生活する時、1つ持っていくものがあるとすれば、フィアンヌの尻尾と断言できるほど素晴らしい。むしろ、この中で生活したいぐらいだ。


「あふあふ……」


 変な奇声を上げながら、俺は尻尾を堪能していた。

 その時――。


「し、師匠……。何をしてるですか?」


 声が聞こえた。

 欲望にまみれた俺を、一気に現実へと引き戻す。


 俺はおずおずと突っ込んだ頭を引き抜く。

 顔を上げ、服装を整え、涎を袖で拭いた。


 一息いれる。


 フィアンヌを見た。


「よ、よお! フィアンヌ、起きたか」


 努めていい笑顔で返した。


「は、はいです」


 恐る恐るといった感じで、フィアンヌは頷いた。

 やべー、完全に怖がらせちまったよ、俺。


 フィアンヌの顔は真っ赤だ。

 それこそ初めて男のアレを見た生娘みたいな表情で、やや伏せ目がちに俺をじっと見つめていた。

 少し息が荒い。

 興奮しているのだろうか。それとも恐怖に必死に耐えているのだろうか。

 外からではわからなかった。


 そのフィアンヌが先に口を開く。


「あのー、何してたですか?」

「いや、それはその…………」


 俺はうまい言い訳を考える。

 考えた末、尻尾の中に入った虫を捕ろうとしたのだ、というのを思いついた瞬間、フィアンヌに先を越されてしまった。


「し、師匠も……。フィアンヌの尻尾を触りたい人ですか?」

「違うんだ、フィアンヌ。これには訳があって……」

「フィアンヌの尻尾を、よく人に触られるです。武器防具屋のご主人にも触らせることを条件に、無料でビキニアーマーをもらったです」


 なんだよ、それ!

 枕営業かよ!!


「でも……。あんまり触らないでほしいです。黄狐族にとって尻尾は、その…………」


 フィアンヌはさらに真っ赤にしながら、叫んだ。



 赤ちゃんを作るところと一緒なぐらい大事なところなんです!



 な――! なんだって――――!!


「だから、触るのは控えてほしいです」

「わわわ、わかった。すまなかったな」

「でも――」

「ん?」

「師匠にはお世話になっているです。命も助けてもらったです」


 だから――。


「師匠だったら、1日1回だけ触ってもいいですよ」


 いや、なんか!

 私の初めてもらってもいいですよ――的な雰囲気を発してもらえるのやめてもらえないか?


「待て待て。なんか俺が無理矢理やらせてるみたいじゃないか」

「そ、そんなことはないです。それに、です」

「それに?」


「師匠なら、触られてもいいかなって思うです」


 フィアンヌの顔は、夕日みたいに真っ赤だった。


 ――あれ? 俺……。なんか凄い罪悪感を感じるんですけど。


「師匠はもう……。フィアンヌの尻尾を触りたくないですか?」


 上目遣いで俺を見つめる。

 思わず「ドキッ!」としてしまった。

 おいおい。待て待て。元勇者ブリッドよ。

 俺に幼女スキー要素はないはずだ。加えていえば、ケモナー要素も。

 お前は巨乳の美女が大好きで、本命は今もギルドで働いてるカウンター向こうの女の子だろ。


 落ち着け……。


 大きく息を吸い込み。

 胸に手を当て、気持ちを落ち着けた。


 フィアンヌを見つめる。

 決意に満ちた目で。


「じゃあ、1日1回なら」

「はい、です!」


 そしてフィアンヌは、尻尾を差し出した。

 俺はモフモフを堪能した。


 結局、欲望には勝てないクズ勇者だった。



 【本日の業務報告】

 元勇者は、1日1回モフモフ権を手に入れた。

 今日のモフモフ権状況  0/1回


【再掲】

クリスマスの記念に34.5話「クリス・マス なにそれ? おいしいの?」を投稿しました。

下記から見れるので、よろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n7725dq/36/


※ ユニークを見てたら、気づいていない人が多いようなので再アナウンスさせてもらいました。

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