表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/76

第46話 勇者、謝る

 スタジアムはどよめいていた。


 結果的には俺が勝ったが、レベスタの途中棄権という結末は、観衆にとってはやや消化不良なところがあるだろう。

 まあ、俺なりに盛り上げたつもりだ。

 少しはヤツらのストレス解消に繋がったと思いたい。


 それよりもだ。


 勝負のことよりも、皆が疑問に思っていることがあった。


「ちょっと~。ブリードちゃん、大丈夫なの~?」


 気持ち悪い声が頭の上から振ってくる。

 俺の手を掲げたオネェタウロスだった。


 何度も言わせるな。

 ちゃん付けはよせ。

 馬刺にするぞ。食べたくねぇけど。


「ああ、これな」


 自分の身体を見る。

 なかなか盛大に赤くなったものだ。


 俺はもう片方の手を上げる。

 指を弾いた。


 パチン……。


 スッと俺の身体が光になって消える。

 腕を掴んでいたオネェタウロスが、目を剥いた。


「ここだ」


 俺はオネェタウロスの背後に立っていた。


「いつの間に……。――って、あれ~」


 やたらと太い首を傾げる。

 オネェタウロスは1度、瞼をもむと、よーく目を凝らした。


 不思議に思うのも無理はない。


 俺が全く無傷な状態で立っていたのである。


「もしかして、幻惑魔法……」


 あら、やだ、という感じで、俺を指さした。


 そうだ。

 俺は終始、幻惑魔法を使って戦っていた。

 大怪我に見えていたのは、すべて幻だったのである。


 説明するのは簡単だ。

 割と、これはこれで骨を折る作業なのだ。


「ちょっと待って~。私やフィアンヌちゃんにも……」


 段々とオネェタウロスの瞼が開いていく。

 真実に気付いて、両手で口を覆った。


「お。気付いたか」


 俺が幻惑魔法にはめたのは、何もレベスタだけではない。


 オネェタウロス、闘技場横で観戦していたフィアンヌ。

 貴賓席で見つめるエスカ。

 入場口で固唾を呑んでいたドランデス。


 そして、何より……。


 スタジアムを埋め尽くした魔族たちの大観衆にも、俺は幻惑魔法をかけていた。

 ざっと10万匹の観客すべてに、魔法を仕掛けたのである。


 たかが幻惑魔法。

 しかし、10万匹すべてにかけるには、想像もつかない魔力と操作、乱れのないイメージ力が必要になる。

 果たして、そんなことが出来る人間は、4大陸世界においてもう1人いるかどうかというところだろう。


「ちょっと~。ブリードちゃ~ん。あーた、ホントなにものなの?」

「今さらかよ。……何度も言ってるだろ。俺はここのアルバイト――」

「ブリードさぁあああああんんん!!」


 金色の弾丸が飛んできた。

 強かに俺の鼻面にぶち込んでくる。

 そのまま押し倒された。


「ちょ! おま――」


 顔を上げる。

 ふさふさした三角耳。

 雪兎のような白い肌。

 背中の後ろで、モフモフの尻尾が左右に揺れている。


 その黄金色の瞳から、涙が溢れていた。


 黄狐族(フォッグス・フォル)の少女が泣いていたのだ。


「よ、良かったですぅううう!!」


 フィアンヌはそのまま俺に抱きついた。

 ギュッと力一杯だ。


 無茶苦茶苦しい!

 フルパワーで締め付けるな。

 お前、力だけは強いんだから。

 ちょ……。息が――。


「ちょっとちょっと……。フィアンヌちゃん。絞まってるわよ」

「え?」


 俺の顔を見た。

 血の気が引いていた。


「わわわわわ。ごめんなさいです」


 ペコリと頭を下げる。

 その頭が今度は俺の額にクリーンヒットした。


 半ば意識が飛んでいた俺にとって、それは最後のトドメになった。


「あ~ら、これは不味いわね。人工呼吸しなきゃ。はあ……。はあ……。うん。口臭問題ないわ。今から熱いヴェーゼを――」


 俺はシャキンという感じで起き上がった。


 危なかった。

 危うく死ぬことよりも恐ろしい事が起きるところだった。


「あら、ざ~んねん」


 キスしたかったわ、という感じで、オネェタウロスは自分の手の甲にキスをした。

 今度、同じ事をやろうとしたら、戦争も辞さないからな、お前。


 ◆


 貴賓席で見ていたエスカはどっと椅子に腰掛けた。


 額を抑える。


「姫様! 大丈夫ですか?」


 横のオーク伯爵が慌てふためいた。

 医者を呼ぼうとするが、制止したのは彼女自身だった。


「大丈夫よ。流血を見たから、びっくりしただけ。じきによくなるわ」


 闘技場でドタバタしてるブリードに今一度、視線を送る。


 ――まったく……。心配させるんじゃないわよ。


 と呟くのだった。


 ◆


「ブリードさん、良かった。良かったです」


 フィアンヌは泣きべそをかきながら、「良かった」と連呼した。

 俺はその頭に手を置く。

 ゆっくりと撫でてやった。


「心配させてわるかったな。……でも、まあこの通り。ちゃんとピンピンしてるからよ」

「うん。……それでもフィアンヌは怖かったです」

「悪かったって……。それよりも、お前にはやることがあるだろ?」

「ふぇ……」


 俺とフィアンヌは立ち上がる。

 黄狐族の少女を見つめた。


 俺は少女の額に手を差し出す。

 そして指で弾いた。


「痛い! な、なにするですか!?」

「やられたっていえ」

「え? ……やられた?」


 すると、オネェタウロスは俺の腕を掴む。


「はい。ブリードちゃんの勝ちよ」


 静かに――しかし、よく通る声で勝利を宣言した。

 ざわつくスタジアム。

 何が行われているのか理解できず、魔族たちはただ成り行きを傍観していた。


 フィアンヌもそうだ。

 小首を傾げ、「ふぇ?」と声を発した。


「勝負は俺の勝ち。これでお前は、俺のものになったわけだ」

「なんだか、意味深だわ」


 茶化すなオネェタウロス。

 殺すぞ……。


 俺は明確に殺意を向ける。

 オネェタウロスはどこ吹く風だ。

 状況を飲み込めてないフィアンヌだけが、瞼を瞬かせた。


「レベスタとブリードちゃんが勝ったら、あーたと勝負することになってたでしょ~?」

「あ……。そ、そう、です」

「で? 今、俺が勝った。お前の生殺与奪は、俺に委ねられたというわけだ」

「あ、ああ――。そういうことですか?」

「イヤか?」

「そ、そそそそそういうわけではないのですが……」


 フィアンヌは頬を赤らめる。

 トレードマークの尻尾を、いそいそと左右に振った。


「なんだ。言ってみろ」

「は、はい。ブリードさんと戦ってみたかったなって」

「俺はイヤだ」

「ガビーン! そ、そんなはっきり言わなくても」

「ばーか。お前みたいな子供に、拳をあげられるかよ」

「さっきデコピンしてた人間が、よくいうわね。ムフフフ……」


 オネェタウロスは微笑む。


「うるせぇ! あれは愛ある折檻だ」

「なーら、私にもちょーだい。愛ある折檻」


 と顔を近づけてくる。

 くそぉ……。今すぐ、その顔面ぶち抜きてぇ……。


 俺はとりあえず無視することにした。


「というわけで、お前は俺の言うことに従ってもらうぞ。いいな」

「は、はいです」

「じゃあ、早速――」


 フィアンヌは背筋と尻尾をピンと伸ばす。

 俺は咳を払い、言った。



「魔族に謝れ」



「ふぇ……」

「お前はこいつらにメチャクチャ迷惑をかけた。だから、ここで……。いないヤツもいるが、いい機会だ」

「…………」

「いやか?」


 尋ねる。

 フィアンヌは首と尻尾を両方動かし、否定した。


 そして――。


「はい、です!」


 明朗に答えた。


 フィアンヌは一歩進み出る。


 スタジアムをぐるりと見つめた。

 そしておもむろに頭を下げる。

 金色の髪が揺れた。



 ごめんなさいです!!



 大きな声ではっきりとフィアンヌは謝罪の言葉を口にした。


「謝ってすむ問題じゃないことは承知してるです。それでも、フィアンヌにはこうすることしか出来ないです。もうこんなことは2度としないです。フィアンヌに傷つけられた人にも、一杯一杯謝ります。だから――」



 フィアンヌが迷惑をかけた人に、謝るチャンスを下さいです。



 深々と頭を下げた。


 騒然としていたスタジアムが静まり返っている。

 罵詈雑言でも飛んでくるかと思っていたが、そんなことはなかった。


 ただ戸惑っていた。


 ――ああ。そうか……。


 俺は1つ得心した。


 こいつらは謝られることに慣れてないのだ。


 大戦時、人間の「許してくれ」という言葉は何度と聞いただろう。

 だが、それは命乞いであって、謝罪ではない。


 きっと「叩いてごめんなさい」なんて言われたのは、人間よりも長い寿命を持つ魔族とて、初めてのことなのかもしれない。


 ならば、この場に流れる空気も理解できた。

 何をどう反応すればいいのか、わかっていないのだ。

 魔族は――。


 その時だった。


 手を叩く音が聞こえた。

 パチパチ……。パチパチ……。


 見ると、貴賓室から抜け出したエスカが手を叩いていた。

 ゆっくりと階段を下りてくる。

 最前列まで来ると、一旦手を止めた。


「魔王の娘エスカ・ヴァスティビオである!」


 高らかに奏上した。

 それは力強くこだます。

 普段のエスカとは、がらりと変わっていた。


「不在の魔王様に代わり、沙汰を申す。私はこの者を許すことにする」


 一瞬、どよめいた。


「同意するものは、手を叩け。これは拍手という。同意と賛辞を表すジェスチャーだ。不同意とするものは、今すぐ立ち去るが良い。不満はいつでも我が拷問部屋で聞こう。各々、いかがか!?」


 すると、エスカは再び拍手を始めた。


 魔族たちは自分の手を見た。

 左右に動かしたり、横にいた魔族の顔を窺っている者もいる。

 だが、いまだ席を立とうとするものは現れなかった。


 やはり、まだ困惑しているのだ。


 パチパチ……。


 音が鳴る。

 それはエスカが鳴らした音ではない。

 皆の視線が集中したのは、闘技場の方だった。


 オネェタウロスが片方の手に置くように手を叩いていた。


 パチパチ……。


 また別の方向から拍手が聞こえた。


 実は、ずっと貴賓室の奥から戦況を見つめていたネグネが、手を叩いていた。

 皆の視線に気付くと、肩を縮ませる。

 しかし、拍手は止めようとはしなかった。


 次第に……。


 パチパチ……。      パチパチ……。  パチパチ……。

  パチパチ……。

       パチパチ……。        パチパチ……。

           パチパチ……。


増えていく。

 横が叩けば、またその横が。その横が叩けば、またその横が……。


 それはうねりとなり、スタジアムは大きな拍手に包まれた。


 何故か、興奮し、大きく遠吠えをはじめたヤツもいる。

 胸を叩きドラミング。挙げ句、炎を吐き出すものまで現れた。

 もはや何をやっているのかわからない。

 まるでお祭りのようだ。


 本当に、同意しているのか疑問符は付く。

 だが、皆――。


 楽しそうだった……。


「賛成多数と見なし。これを魔族の総意とする!!」


 再びエスカは高らかに宣言した。


 まったく、呆れるほど強引だ。

 力業なのだけれど、らしい(ヽヽヽ)と思った。


 魔族らしい――俺はそう納得したのだ。


「ブリードさん」


 今度、戸惑っていたのはフィアンヌだった。

 丸い目をさらに丸くし、俺を見つめる。


 その頭に俺は手を置いた。

 相変わらず、触り心地は最高だ。


「こういう時は、なんていうんだ?」

「え? ……ご、ごめんなさい?」


 俺は息を吐く。


「ちげぇよ」



 ありがとうございました、だろ?



 フィアンヌの顔がパアと赤くなる。


 拍手に応えるように、今一度頭を下げた。


「ありがとうございました、です!!」


 下げた少女の目に、大粒の涙が溢れていた。




 【本日の業務報告】

 魔族たちは【拍手】を覚えた。

 しかし、彼らはいまいち意味を理解していなかった。


日間総合に返り咲いたおかげで、PVが上がっておりました。


読んでいただいた方ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ