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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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第45話 元勇者、祭りを盛り上げる。

 自然と息を吸い込んだ。


「ブリードさぁあああああああああんんん!!!!」


 絶叫したのは、武闘場の外で戦況を見つめていたフィアンヌだった。

 だが、その声は大勢の観客の声に埋もれる。


 オネェタウロスは眼を広げ、席を立ったままのエスカは、口を手で覆う。

 ドランデスは眉間に皺を寄せ、歯茎をむき出しにした。


 膨大な歓声と罵詈雑言が、スタジアムの中心に注がれる。


 その間も、血は広がっていった。

 武闘場のすべてを朱に染める勢いだ。


 残酷な光景はある者に絶望を与えた。

 しかし、大半が興奮の坩堝に浮かれ、様々なポーズと方法で歓喜していた。


 レベスタは1度、剣を振る。

 血が飛び散り、赤い斜線が床に引かれた。


 やがて高々と剣を掲げる。


 歓声は絶頂を迎え――。


殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!


 いつしか大合唱が始まっていた。

 耳を塞ぎたくなるような怨嗟の大音声が響き渡る。


 フィアンヌはペタンとお尻を付けた。

 その黄狐族に剣の切っ先が向けられる。


 気づき、顔を上げる。

 フィアンヌの前にレベスタが立っていた。

 武闘場の縁から見下げている。

 兜の奥の光は、明らかに笑っていた。


「次はお前だ、小娘」


 黒い殺気をぶつける。


 しかしフィアンヌは怯まなかった。

 向けられた挑戦の意志を振り払うことはしない。

 縛り付けられた鎖を断ち切るように、少女は立ち上がった。


 目尻を上げ、歯を食いしばる。

 握った拳に力を込め、フィアンヌは戦闘態勢へと移行した。



 ふむ……。盛り上がってくれたかな。



 殺気と欲望が渦巻くスタジアムの中で、その声はのどかな牧場に住まう牛の鳴き声のように聞こえた。

 フィアンヌは狐耳をそばだてる。

 怒りに燃え上がっていた瞳は、大きく見広げられた。


「え……」


 一言呟く。そのまま言葉を失った。


 フィアンヌの反応に気づいたレベスタは、マントを翻す。


 そしてその死霊騎士もまた絶句した。



 俺が立ち上がっていた。



 赤く染まったつなぎについた埃やらを払う。

 ぐりぐりと肩を動かした。


 うむ。異常なし!


「貴様……。生きて……」

「勝手に殺すなよ。……ほれ、この通り生きてるぞ」


 えっへんという感じで、胸を反らした。


 場内は静まっていた。

 完全な沈黙というわけでないが、どよめいている。

 何が起こったか――説明できる者は皆無……。


 それはフィアンヌや、俺の知り合いたちも同様だろう。


 おそらく、もっとも驚いていたのはレベスタだ。

 死霊騎士の癖に、まるで幽霊でも見るかのように立ちすくんでいた。


「どうした? やらないのか? それとも負けを認める?」


 レベスタは1歩踏み出す。

 「あ゛あ゛!」と奇声を上げた。

 1度、下ろした切っ先を振り上げ、構えを取る。

 途端、床を蹴った。


 再び相手との距離を縮める。


 俺はまた防御魔法を展開。

 レベスタの剣を受け止めた。

 幾振りも受けに受けた結果――。

 また防御が崩される。


 レベスタは袈裟に斬る。

 さらに逆袈裟と繋げる。


 鮮血が舞った。

 俺の血が付着したまま床に背中をつける。

 びちゃり、と嫌な音が鳴った。


 大歓声が再びスタジアムを包む。

 歓喜と罵詈雑言の嵐が渦を巻いた。


 先ほどの再現を見ているかのようだ。


 レベスタは半ば興奮状態で倒れた人間を睥睨する。


 剣を振るった。

 血の斜線――。

 しかし、目は切らない。


「そんなに睨むなよ。オネェタウロス並に熱烈すぎて、軽く引くわ」


 俺はにぃと笑った。

 首だけを動かし、レベスタに視線を合わせる。


「――――!」


 2度目の絶句。


 レベスタの行動はそれに終わらない。

 剣の切っ先を向ける。

 即座に突き立てた。


 両刃の剣は俺の腹を完全に刺し貫く。


「うががぁぁぁぁあああああああ!!!!」


 俺は大口を上げて絶叫した。

 苦悶の表情を浮かべると、観客は「ヒャッハー!」と叫びながら、「殺せ」コールを合唱する。


 レベスタも悲鳴に酔いしれていた。


 剣を抜く。


「え? もうやめちゃうの(真顔)」

「――――!」


 三度、絶句する。

 俺は眉間に皺を寄せた。


「――ったくわかってねぇなあ、お前」

「は、はあ……」

「そこはさ。剣を突き刺した後で、ぐりぐりするんだよ。その方がより残虐性が増すだろ?」

「は……はあ……?」

「ほら! もっ回やれ。もっ回!」


 レベスタは首を傾げる。

 なんでそんなことを指示されなければならんのだ。

 そんな態度が滲み出ていた。


 逆手に持ち替え、渋々といった様子で剣を振り上げる。

 俺の土手っ腹に突き刺した。


 言われた通り、剣を回し傷口をいたぶる。


「ぐあああああああ!」


 俺はまた悲鳴を上げる。


「痛ぇえええ! てめぇ、よくもやりやがったな」

「な!! き、貴様がやれと――」

「馬鹿か、お前は!!」


 即座に叱責が飛ばす。


「貴様がやれってなんだよ! ちゃんと台本通りにやれよ!」

「だ、台本?」

「そこはだな。『どうだ? 痛いか、人間! 泣け! 喚け! その声、魔王様に届けてやるわ』だろ?」

「え? そ、そうなのか?」

「ほら! テイク2。はい――!」

「ドウダ? い、イタイカ、にににニンゲン!」

「はい。カットカット!」


 俺は自ら剣を引き抜く。

 血をバリバリ流しながら、あっさり立ち上がった。


 レベスタに向かっていく。

 胸当てに俺の胸を押しつけるように近づいた。


 こめかみに青筋を浮かべる。

 目に怒りを込めた。


「お前、やる気あんの?」

「あ、はい……。殺る(ヽヽ)気はあります」

「だったら、もっとちゃんとやれよ。お前、魔族だろ? 四天王だろ? 高いギャラもらってんだろ?」

「ギャラとかわかりませんけど。は、はあ……。すいません」


 ついにはレベスタは兜の後ろに手を当てて、頭を下げる。


憎悪(こころ)を込めて! 演技して! わかった!?」


 俺は振り返る。

 気付けば、場内はしんと静まり返っていた。


「ああ。すいませんね、観客のみなさん。今から、こいつが盛り上げるんで。ご声援よろしくお願いしますね」


 は、はあ……。


 俺の言葉に、皆一斉に頷く。


 3度、床に寝転んだ。


「今度こそちゃんとやれよ」

「わ、わかった」

「わかりました、だろ?」

「わ、わかりました!!」

「――ったく、最近の新人は何もわかってないんだから」


 最近、四天王になった魔族は再び剣を振り上げた。

 俺の顔を見る。



 ――って!



「貴様ぁあああああ!! 我に何をさせるのだ!!」


 レベスタは激昂した!

 剣を突き刺す!

 さらに引き――また刺す。


 何度も何度も刺した!

 肉片が飛び散る。

 レベスタの鎧が朱色に染めた。

 場内にむせ返るような血の匂いが立ちこめる。


 一旦は大人しくなった観客たちも、次第にヒートアップしていった。

 大歓声が戻り、「殺せ」コールが巻き起こる。


「ぜえぜえはあはあ……」


 肩で息を切る。

 剣を引き抜いた。

 そのまま切っ先を地面に向ける。

 血を払う余力はない。それほど疲弊していた。


「どうだ! 人間! これで」

「ああ、いい感じだ」


 即答で返事が返ってきた。


「はああ……」


 レベスタは落胆するように息を吐いた。

 兜の奥の光は、俺の方を向いている。


 奇異なものに映っただろう。


 ヤツの視界に映ったのは、腹を中心にずたボロになった人間の遺体……。

 肉塊と言い換えてもいい。

 血はすでに致死量。

 心臓すら再生不可能な具合に潰れている。


 なのに、声が返ってくるのだ。


 そんなの……。



 ホラーでしか(ヽヽヽヽヽヽ)ない(ヽヽ)……!



「ひぃいいやああああああああ!!」


 まるで女子おなごのような悲鳴が上がる。

 レベスタは剣を取り落とした。

 硬質な音が、静まり返った場内に響いた。


 四天王が1歩、2歩と後退していく。


 俺は手に力を込めた。

 ボロボロになった内腑を見せつけるかのように上半身を起こす。

 その際、ちょっと大きめの肉片がぼろりとそげ落ちた。

 びちゃっ――という生々しい音を聞いて、レベスタはまた1歩下がる。


 大戦時、何度と聞いた音のはずだ。

 なのに、身体の奥をかき乱されているような不快感を感じる。


 否――。


 恐怖を感じていた。

 こいつは、ヤバイ――と。


「きききき貴様!! 何者だ!」

「だから、言ったじゃん。……普通のアルバイトだって」

「馬鹿な! 貴様のような人間が普通であってたまるものか!?」

「何いってんだ? 俺みたいなヤツ……。ゴロゴロいるぜ」

「な、なんだと!!」


 素っ頓狂な声を上げるレベスタ。

 対して俺は口角を上げた。


「不死はお前たちの専売特許じゃねぇってこった。――ん?」


 ようやく俺は周囲を窺った。


 また場内が静まり返っている。

 口を開けたまま固まっていた。

 皆、一応に顔が青い。……いや、これは元々か。


「あちゃー。ちょっと引いちゃったかな? おい、レベスタ。ちょっとシーン変えて、盛り上げようぜ!」

「ふ、ふざけるな! なんで、我が!」


 すると、レベスタはマントを翻し、反転する。

 俺に背を向けた。


「おいおい。勝負はどうするんだ?」

「やってられるか、気色悪い!」

「いいのかよ。俺が娘をもらっちまうぞ!」

「勝手にしろ!!」


 レベスタはとうとう武闘場を降りる。

 そのまま出入り口に向かって真っ直ぐ進むと、その闇の中に消えていった。


 場内はどよめく。

 その中で、蹄の音が鳴り響いた。


 オネェタウロスが近づいてくる。

 ポンポンと【拡声】の魔法道具を叩き、言葉を発した。


「ええ。ともかく……。レベスタ様が試合放棄したので、勝者――」


 俺の手首を取った。

 高々と掲げる。


「ブリィイイイイイイイイドォォオォオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 雄叫びとともに、静まったスタジアムに気持ちの良いぐらい響き渡るのだった。




 【本日の業務報告】

 元勇者、ダメージを受けた。

 しかしたちあがった

 元勇者、ダメージを受けた。

 しかしたちあがった。

 元勇者、ダメージを受けた。

 しかしたちあがった。

 以下略……。


ブクマ・評価・感想・レビューをいただきありがとうございます。

引き続き、更新頑張りますので、よろしくお願いします。


1度、日間から遠ざかっておりましたが、

また戻って参りました(ただ今、242位)。

これがレビューパワーなのか……!

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[一言] オモロイですね。
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