第44話 元勇者、倒される……!?
お待たせしてすいません。
サブタイが不穏過ぎますが、よろしくお願いします。
熱狂するスタジアムとは裏腹に、武闘場では淡々と進行が進んでいった。
「ブリードさん」
フィアンヌは無理矢理身体を動かし、立ち上がろうとする。
俺はそれを制した。
金髪にふかふかした耳がついた頭を優しく撫でる。
うむ。実に撫で心地がいい。
今度、尻尾も触ってみよう。
「寝てろよ。お前の出番はまだ後だからさ」
「でも……。ブリードさんが、です」
「俺のことは心配すんな。いざとなったら、お前抱えて逃げるから」
「う……。うう……」
何故か泣き始めた。
金色の瞳に涙が滲む。歯を食いしばるが、喉から嗚咽が漏れた。
「ちょちょちょ! なんで泣くんだよ」
「く、悔しいです。……フィアンヌが弱いばっかりに、ブリードさんにまで迷惑かけてしまったです」
「迷惑なんて、お前が魔王城に来てからかけられぱなしだつーの。さらにレイズしたところで、別になんとも思わねぇよ」
「ご、ごめんなさい、です」
俺はポンポンと頭を叩く。
「その言葉は後にとっておけよ」
「お話の最中、よろしいかしら?」
いきなり気色悪い声が聞こえてきた。
振り返る。
オネェタウロスが、身体をくねらせ、近づいてきた。
「な~に? そんな嫌そうな顔をして。お邪魔だったかしら?」
「ベツニィ……」
「あら、そう~。じゃあ、この子は借りていくわね」
オネェタウロスはフィアンヌを持ち上げる。
自分の背に、まるで麦袋でも背負うかのように乗せた。
「ブリードさん、勝ってください!」
「おう! 任せておけ!」
フィアンヌは拳を突き出す。
それに応えるように、俺もまた拳を突き出した。
そして翻る。
「待たせたな」
俺の前に立っていたのは、死霊騎士――。
レベスタだった。
すでに剣を抜き、戦闘態勢に入っている。
「別に構わん。むしろ、あれで良かったのか? 今生の別れになるかもしれないぞ」
「そいつはどーも。だが、お気遣いなく。あいつは別に恋人でも生き別れた妹でもない。どっちかというと、俺も被害者の方でね」
肩を竦める。
ああ、全くだ……。
あいつが勘違いしてなきゃ。
魔族や、その施設の一部を破壊でもしてなければ、こんなことにはならなかった。
本当なら今頃、朝まで飲んだ酒が抜けきって、ロッカー前をモップ掛けしている頃だ。
そんでスィームに適当に業務を代行させて、昼寝かエスカの話相手をしていただろう。
俺は口角を上げる。
なかなか悪くない。
悪くない日常だ。
だが――。
まあ、めんどくさいとはいえ……。
久しぶりの戦闘――。
大戦時に染みついた闘争の炎が、毛穴という毛穴から出ていくのを感じた。
これも悪くない。
そう思ってる自分もいる。
「まったく……。嫌になるねぇ」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでも……。さあ、始めようか。不意打ちでも何でもどうぞ」
「貴様ごとき人間に小細工など不要――。素っ首、即刻切り落としてやろう」
俺は大きく息を吐く。
やがて口を開いた。
「月並みな返事で申し訳ないんだが……」
やれるものなら、やってくれ……。
にぃ、と俺は笑った。
オネェタウロスが大きく片手を上げる。
「さあ、はじめるわよ~!」
【拡声】の魔法道具を使った大音声。
しかし、熱狂したスタジアムの歓声はそれ以上だった。
オネェタウロスは上げた腕を振り下ろす。
「はじめぇ!!」
野太い声が響き渡った。
仕掛けたのはレベスタだった。
重い甲冑を身につけているとは思えない素早い動き。
一気に射程距離へと進むと、宣言通り俺の首を狙ってきた。
両刃の剣が水平に飛んでくる。
とった!
兜の向こうの赤い光が、勝利を確信して歪む。
しかし、その剣は首筋寸前で止まった。
きぃん、と耳に障る音だけが残響する。
「な――」
笑みは驚愕に変わる。
レベスタの剣が、俺のたった2本の指によって止められていたのだ。
「ほう……。なかなか早いな。さすがは四天王だけあるわ、お前」
のどかな俺の声が武闘場に響く。
その言葉と声音は、死霊騎士を逆上させるに十分だった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
レベスタは雄叫びを上げた。
剣を無理矢理振り払う。
刃を摘んだままの俺は、その勢いのまま吹っ飛ばされてしまった。
円形の武闘場を楽々と越え、観客席下の壁に激突する。
ちょうどそこは、ルゴニーバがフィアンヌに吹き飛ばされたすぐ横だった。
その末路と同じく、壁が弾けた。
大量の土煙が舞う。
いきなり全力を出すことになったレベスタは、肩を大きく動かした。
死霊騎士は息をすることはない。
だが、彼の中で大量に渦巻く死霊たちが、激しく動揺しているのを感じた。
自分の剣を見る。
ややボケた刃面に、人間の指紋がついていた。
先ほどのが、見間違えでないことを物語っている。
――何者だったのだ、あいつは……。
この時点でレベスタは、勝利を確信していたのだろう。
しかし、土煙の向こうから聞こえてきたのは、やはり呑気な俺の声だった。
「ああ……。ああ……。つなぎがボロボロだ。ま、いっか。そろそろ新調しようと思ってたし」
ついでに、俺は臭いを嗅いだ。
「うがぁ! くっせ!! ……まあ、仕方ないか。10日は洗ってないしな」
ブツブツ言いながら、俺は武闘場に戻ってくる。
レベスタと対峙した。
剣の切っ先が地面に向かっている。
肩がだらりと下がっていた。
「どうした? そんなに惚けて」
「貴様! 何故、生きてる?」
「なんだよ。こんなところで哲学の講義か。我思う、故に我ありか」
「そんなことを訊いているのではない!!」
「怒鳴るなよ。耳がキィンとくるだろう」
「何者だ、お前!」
「だから、何度も言わせるなよ。単なるアルバイトだ」
「馬鹿にするかあああああああ!!」
いや、別に馬鹿にしてるんじゃなくて、真実を伝えているだけなんだが。
レベスタは突っ込んでくる。
剣を振り回した。先ほどよりも速い。
間合いを見切ると、今度は回避した。
だが、そこからさらに無数の剣戟が飛んでくる。
――おーおー。結構、やるじゃん。こいつ。
ポッと出の新興勢力かと思っていたが、悪くない。
四天王の座にのさばっているのも頷ける。
さすがに、フィアンヌとは戦わせるわけにはいかないな。
100戦やった中で、レベスタは段違いに強い。
前に前にと、これでもかというほど押し込んでくる。
正直、厄介だ。
というのも、俺は素手。向こうは剣。まずリーチが違う。
掴まえられないわけではないが、なんかめんどくさい。
ギリギリでレベスタの攻撃をかわしていると、相手はリズムを変えた。
初めて突きを放つ。
俺は華麗に交わす。
だが、それは嘘剣だ。
素早く剣を引き、返すと今度は、足を狙ってきた。
ちょこまかと動き回る――俺の機動力を奪おうと考えたのだろう。
思考を読んだ上で、それもかわした。
だが――。
「おっと!」
突然、足を取られた。
見ると、地面から白骨化した人の手が浮き上がっている。
それが俺の足首を掴んでいた。
体勢が崩れた。
そこに大きな影が覆い被さる。
レベスタだ。
兜の向こう赤い光は笑っていた。
一閃する。
俺は腕をクロスした。
ギィン!
硬質な音が響き渡る。
俺は再び吹き飛ばされた。
また客席下の壁に穴を空ける。
「ブリードさん!」
フィアンヌは武闘場の側から叫ぶ。
悲鳴じみた声は、大観衆の歓声によってかき消された。
それはすぐに止む……。
俺は砂埃を手で払いながら、再び姿を現したからだ。
「あっぶねぇ……。防御魔法が間に合わなかったら、本当に首が吹っ飛んでたな」
腕に展開した防御魔法を切る。
俺は武闘場に戻ろうと、足を伸ばした瞬間、今度は上半身が後ろに引っ張られた。
腰の辺りに、再び白骨化した人の腕。
それだけではない。
肩、腕、脹ら脛……。
次々と白い手骨が、俺に絡みついてくる。
ついにはひんやりとした骨が、頬を撫でた。
武闘場に視線を向ける。
レベスタが手を掲げ、黒い魔力を放出しようとしていた。
「ちぃ!」
俺は舌打ちする。
同時に、黒い奔流が放たれた。
為すすべなく、俺は飲み込まれる。
観客ごと巻き込み、そして爆発した。
死霊の塊のようなものをぶつけられたのだろう。
まるで黒い炎のように霊体が散っていく。
怨嗟の声を、空に浮かぶムービタルスターに向かって昇天していく。
レベスタは腕を下ろした。
今度こそ、兜の奥で笑みを浮かべる。
「ふん。少しはやるようだが、所詮は人間……。我の敵ではない」
「ああ……。そうかい」
まだ土煙がたなびく向こう……。
ゆらりと影が動いた。
「馬鹿な……」
煙を払い、俺は姿を現す。
だが、無傷とはいかない。
つなぎの一部は燃え、俺の手や頬に火傷の痕が見られる。
俺はゆっくりと武闘場に近づき、元の位置に戻ってきた。
「ふん。どうやら、今度はダメージが通ったようだな」
「まあな。なかなか器用だね。新人四天王くんは。……ああ、そうか。元は死霊騎士だから、死霊技術の方にも精通しているのか」
「随分、余裕で講釈を垂れるではないか。……だが、声が先ほどより元気がないぞ」
レベスタは三度距離を詰める。
やや笑っている膝に力を入れ、俺は防御魔法を展開して迎え撃つ。
その上から、容赦なく剣を振るった。
硬質な音が何度も響き渡る。
俺は地面に注視しながらも、相手の剣戟に耐えなければならなかった。
次第に俺は武闘場の縁に追いやられる。
「どうした? あとがないぞ、人間!!」
俺は耐えるしかない。
防御魔法が次第に疲弊し、ついにヒビが入る。
レベスタはそれを見逃さなかった。
一旦身体を弓のように反る。渾身の力を込めて突きを放った。
剣は防御の膜を透過する。
さらに俺の頬の肉を削いだ。
レベスタの攻撃は終わらない。
さらに剣を返して、踏み込む。
袈裟に斬った。
俺の肩から脇にかけ、剣閃が光る。
「ぐあああああああ!!」
大口を上げて、俺は叫んだ。
血しぶきが舞う。
「ブリードさん!」
「ブリード!」
フィアンヌが叫び、エスカが椅子を蹴って立ち上がった。
オネェタウロスの顔も強張る。
入場口で見ていたドランデスも、竜鱗が浮き出た手を握りしめた。
鮮血がどんよりとした曇り空に散る。
俺はそれを虚ろな目で見ていた。
そしてそのまま武闘場に倒れた。
血が、赤い絨毯のように広がっていった。
【本日の業務報告】
本日の業務報告は、元勇者が急病のためお休みいたします。
投稿をはじめて1ヶ月が経ちました。
たくさんのブックマーク、評価、感想をいただきましてありがとうございます。
おかげさまで月間総合91位を獲得しました。
ご支援いただきありがとうございます。
また初レビューいただきました!!
むちゃくちゃ嬉しいです(>_<)
これからも頑張って更新していきますので、よろしくお願いします。
※ 今日未明に『第34.5話 クリス・マス? なにそれ? おいしいの?』を投稿させていただてます。まだ読んでない人は、是非とも読んで下さい!!




