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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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第37話 自称勇者の過去

そしてまた感想欄に「更新はよ」と書かれたので、また早めに更新する作者がここにいるのです(ユーフォニア風)

「おい! こら、下ろせ!」


 じたばたともがく。

 麦袋をかつぐみたいに持ち上げられた俺は、抗議の声を上げた。

 なにげに人にこうしてかつがれるのは初めてだ。

 しかも、獣人とはいえ少女。


 赤面するぐらい恥ずかしいんだが……。


「な! もう起きたのですか」


 廊下を走りながら、フィアンヌは目線だけを俺に向ける。


「当て身が効かなかったですか?」


 当て身って、お前のボディブローみたいなヤツがか?


 ふざけんな!

 あれぐらいで気絶するか!?

 それよか、危なく昨日の酒とつまみに感動の対面をしそうになったじゃねぇか!

 腹痛いし。

 俺じゃなかったら、内臓がぶっつぶれてるぞ、こらぁ!


「しばらく大人しくしてるです。折角、魔王城に来たところですが、あなたの安全が最優先です」

「最優先ですっていいながら、お前どんどん魔王城の奥へと向かってるんだが」

「え? そうなんですか?」


 フィアンヌがぴたりと立ち止まった。


 前を向いても、後ろを向いても、長い廊下が続いているだけ。

 正直、俺もどっち向いて走れば、入り口にたどり着けるのかわからないぐらい、深奥へと来てしまった。


「おかしいですね。城門を向いて走ってきたのですが」


 小首を傾げる。

 ちょんちょんと狐の耳を動かした。


 俺は頭を抱える。


 どうやらこいつ――森で迷っていたんじゃなくて、単純に方向音痴らしい。

 黄狐族の高い知能ってのは、あれは眉唾だったのか?


「ともかく、下ろせ。話はそれからだ」

「わかりましたです」


 ようやく素直に応じてくれた。

 くっそー。腹が痛い。

 思いっきり殴りやがって。


「お腹が痛いんですか? はっ! 魔族から暴行を、です!」

「お前のボディブローにやられてんだよ!!」


 俺はすかさず突っ込む。

 くっそー。こんなおバカ狐に「勇者」なんて名乗られた日には、「勇者」って値札でバーゲンセールが開催されちまうぞ。


「一体どうして、あんなとこにいたですか? やはり魔族にさらわれたですか? おうちわかりますか? フィアンヌがおうちまで連れてってやるですよ」

「子供か、俺は!」


 ツッコミが追いつかねー。

 ていうか、お前に手を引かれておうちにいったら、間違いなく4大陸全土を歩き回ることになるつーの。


「俺はな。ここで働いてたんだよ」

「強制労働ですか?」

「ちげぇよ!」


 やめろ。なんかその単語は危ういような気がする。


「じゃあ、いあん――」

「何を言おうとしてるんだよ、お前は!!」


 俺、これでも一応男だからな!

 そっちの()もねぇから!!


 ああ。いかん。

 こいつと喋ってると、どんどん自分の脳が萎縮していくような気がする。


「何度もいうが、働いてたんだよ。なんならギルドに確認してくれてもいい」

「ギルドもグルってことですか!?」


 はわわわ……。という感じで驚いていた。


 こいつ、1発殴ってやろうか。


「ところでお前、何をしにきたんだよ」

「決まってるです。魔王を倒しにきたです」


 清々しいほど明快な回答をありがとよ。


「お前、黄狐族だな」

「そうです!」

「じゃあ、もしかしてお前らの里には伝わってないかもしれないけど、今人類と魔族は和平条約を結んだんだぞ」

「知ってるですよ」

「なら――。なおさらダメだろうが!」

「でも、魔族は悪です。魔王は悪玉です」


 ダメだ、こりゃ。


 こういうヤツは、人間が100人集まると1人か2人は確実にいる。

 いわゆる子供をそのまま大人にしたような考え方の持ち主だ。


 そういうヤツはたいてい話が通じねぇ。

 純粋ゆえに、論理が通じねぇんだ。


 どうするかなあ……。

 頭を掻いているとフィアンヌの方から切り出した。


「私は勇者ブリッド様みたいになりたいです」



 ぶぅぅうううううううううううううううううううううううううう!!!!



「ちょっと! 汚いです! どうしたですか?」

「い、いや……。なんでもない。勇者ブリッドね。あー、はいはい」

「勇者ブリッドは私の憧れです。強く、逞しく、凜々しく、何よりお優しい方なのです」

「えっと……。どっかで会ったっけ?」

「え?」

「いや、違う違う。……ブリッドに会ったことがあるのかなと思っただけだ」

「ないです。……でも、いつか会いたいです」

「そ、そうか」


 良かったな。

 お前の望みは今、かなってるぞ。


「だから、私も勇者ブリッドのように強くなって、みんなから『勇者』と褒め称えられたいのです」

「で、魔王を討つために単身で魔王城に斬り込んできた、と――」

「そうです」


 筋金入りの馬鹿だな、こいつは。


「それはやめておいた方がいいじゃないか?」

「どうしてですか? 魔王が倒されれば、みんな幸せです」

「今は魔王がいても、みんな幸せな世の中なんだよ」

「でも、勇者ブリッド様は魔王を倒されましたです。けど、私が魔王を倒せないというのは道理としておかしいです」


 うん。……おかしいな。お前がいう道理は――。


 俺はため息を吐くしかなかった。


「そこまでして、勇者になりたいのか?」

「そうです。フィアンヌは、勇者にならなければならないのです」

「ならなければならない?」

「フィアンヌの身の上話を聞いてくれるですか?」


 ん……? それって長い。


「それはまだフィアンヌが黄狐族の里にいた頃の話です」


 こいつ、基本的に人の話つーか、空気読まないよな。



 ◆



 それはまだフィアンヌが黄狐族の里にいた頃の話です。


 里はとても山深い場所にあって、人や魔族がおいそれと近づけない場所にあったです。けど、下界とのつながりがなくなっても、私たち黄狐族(フォッグス・フォル)は幸せに暮らしていたです。


 フィアンヌはその中にあって、お父様とお母様と一緒に暮らしていたです。

 友達もたくさんいて、毎日楽しかったです。


 けれど、フィアンヌはある時気づいたのです。


 フィアンヌがとても強いことを――です。


 それを決定づけたのが、嫁取り武闘祭での出来事です。


 嫁取り武闘祭は年に1度、黄狐族の雄同士が闘う祭りです。

 読んで字のごとく、その祭りで1番になった雄は、その年に成人になる雌を娶ることが出来るのです。


 フィアンヌはその祭りに前から興味があったです。

 だから、こっそり祭りに忍び込んで、雄の振りをして参加したです。


 そこでフィアンヌはうっかり優勝してしまったです。


 当然、正体がばれてしまったです。

 とても怒られたです。

 里長さとおさや雄衆の偉い人にも怒られたです。

 でも、1番怒っていたのは、お父様とお母様です。


 お父様は言ったです。


「これでは誰も嫁にもらってくれないぞ」


 お母様は嘆き悲しんだです。


「なんてことをしてくれたの、この子は……!」


 友達にも白い目で見られたです。

 気づいたらフィアンヌは一人ぼっちになってたです。


 どうしたら、みんながフィアンヌを許してくれるか考えたです。

 考えて考えた挙げ句、1冊の本に出会ったです。

 それは勇者ブリッドの伝記だったです。

 昔、お父様が町に行った時に買ってくれたです。

 フィアンヌの宝物です。


 それは読んで、フィアンヌは思ったです。


 もしかしたら魔王を倒せば、みんなフィアンヌのことを認めてくれんじゃないかって……。


 だから、フィアンヌは魔王を倒そうと、里から出てきたです。



 ◆



 フィアンヌの話をすべて聞いた俺は――。



 はあああああ…………。



 深い深い息を吐いた。


「どうしたですか?」


 フィアンヌはくりくりとした黄金色の瞳を俺に向ける。

 俺が睨むと、尻尾をピンと伸ばした。


 俺は言った。



「お前は、アホか……」



 フィアンヌは意味が理解出来ず、小さな首を傾げた。


「あ、ほ?」

「もしくは馬鹿だ。馬鹿野郎だ」

「フィアンヌは馬鹿じゃないです。馬鹿といったヤツ馬鹿なのです」

「考えてもみろ。お前が強すぎるから、男どもが怖がって嫁にほしがらなくなるから、お前の両親は怒ったんだろ?」

「…………?」


 あ。やっぱこいつ、なんもわかってねぇな。


 俺は頭を抱えた。


「友達にしてもそうだ。お前が強すぎるから、ビビって距離を置いたんだろうが」

「そ、そんなことはないです。みんな、目を合わしてくれないですけど、ちゃんとお話はしてくれたです。その時に、お金とかもくれて優しかったです!」


 ナチュラルにかつあげになってるじゃねぇか。

 こいつ、一体その嫁取り武闘祭で何をやらかしたんだ?


「ともかくだ。もし魔王なんて倒そうものなら、お前ますますみんなから怖がられるぞ」

「そうなのですか!?」

「おうよ。しかも、魔族に迷惑をかけたってことで、里に多額の賠償金が請求されるかもな。それでお前……。里に帰ってみろ。村八分(ヽヽ)どころか村蜂の巣(ヽヽヽ)にされるぞ」

「そ、そんな、です!!」


 フィアンヌはがくんと顎を開いたまま硬直した。

 顔は青ざめ、脂汗が火事から逃げてきたネズミみたいに垂れていく。


 ショックなのはわかるが、天然にもほどがあるだろう。


「ど、どうすればいいですか?」

「どうすれば、いいって――」


 俺に訊くなよ……。

 ぼりぼりと頭を掻いていると、前から声が聞こえた。


「ああ。いたいた。ブリード、探したわよ」


 銀黒赤のドレスを揺らし、やってきたのはエスカだった。

 背中の羽根をパタパタと動かし、軽快に尻尾を振っている。


「ま、魔族!!」


 フィアンヌは構える。


 だが、それだけではなかった。


「そ、そこにいるのはブリードではないか」


 弱々しい声が、今度は背後から聞こえた。


 三角帽子に白衣。

 右眼窩から赤い光を放つリッチの少女が、よろよろと近づいてくる。


「ネグネ!」

「うう……。我を助けてくれ。上が騒がしいと思ったら、また迷子になってしまった」


 またかよ!


「あ~ら。ブリードじゃない」


 独特のオネェ言葉が聞こえた。

 ネグネの背後から、パカラパカラと蹄の音を立て、ケンタウロスことオネェタウロスがやってくる。


「しまった! 囲まれた!」

「な~に、その子? もしかしてブリードの子供?」

「ちょ! あんた、子持ちだったの?」

「エスカ、おま――。アホか! 俺は独身だ!!」

「でも、その子ぉ……。獣人でしょ」

「異種姦か……。それより、ブリード。我は地下に戻りたいぞ」

「ネグネまで!」

「ブリードってそういう趣味があったんだ。う、うう……」

「ちょ! なに泣いてんだよ、エスカ!」

「ブリードというのですか。下がるです。ここを突破して、活路を見いだすです!」


「だあああああああ!! 俺の話を聞けぇぇぇぇええええええええ!!」


 俺の絶叫は、魔王城の深奥で響き渡った。



 【本日の業務報告】

 自称勇者フィアンヌは、元勇者をさらった。

 しかし、エスカが回り込んできた。

 しかし、ネグネが泣いていた。

 しかし、オネェタウロスが気持ち悪かった。


感想をいただきありがとうございます。

むせび泣くほど嬉しいです(≧◇≦)


今後も頑張って更新するので、よろしくお願いします。

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