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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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第33話 元勇者、さらなる残業を課せられる。

ブクマ2000件を超えました。


ブクマいただいた方ありがとうございます!

 薄暗い魔王城の廊下を、俺はネグネの手を引き、歩いていた。


 相変わらず城というよりは迷宮だな。

 大戦の頃と随分構造が変わったらしい。あちこちに魔物や魔族の部屋が出来たためだ。俺が潜入してた頃は、もっと大振りな作りだったが、今は大小様々の部屋が並んでいる。


「おい。ブリード」


 ネグネはもうすっかり元のリッチに戻っていた。

 先ほどまでべそをかいていたとは思えない立ち直りの速さだ。


「あんだよ」

「よもや……。迷ったのではあるまいな」

「うっせーよ。こちとらここら辺を歩くのは初めてなんだ。地図を渡されて、すぐにたどり着けるほど、魔王城のことは知らねぇんだよ」


 そもそもてめぇが引き籠もっているから悪いんだろうが。

 高位魔族が部下の部屋がわからないって、それって上司としてどうなんだよ。


 そんな時だった。

 ピョンピョンというなんとも気の抜けた音が近づいてくる。

 1匹のスライムが見えた。

 スィームだ。


「どうだ? スィーム、見つかったか?」

「ピキィ!」

「よおし! デカしたぞ。案内しろ」


 撫でてやる。

 スィームはほんのりと暖かくなった。


「ピキィ!」


 着いてこい、という感じで先導する。


「お主より、スライムの方が有能だったな」


 フッと笑う。

 お前、それ完全にブーメランだってわかってる?


 しばらく歩くと、スィームは扉の前に立ち止まった。

 入口の上には、骸骨を象った紋章が掲げられている。


「間違いないようだ。骸骨侯爵の家紋だな」

「なあ……。その骸骨侯爵ってどんなヤツだ?」

「名前の通り、スケルトン系の魔族だ。故に、我が眷属として長年仕えていてくれたが、大戦時の折りに亡くなった。今は、夫人のミーグが当主代行を務めている」

「そいつの相談ってなんだ?」

「我も聞かされておらぬ。入るぞ」


 ネグネは扉を押した。


 入ると、そこは――。


「げっ!!」


 思わず俺が悲鳴を上げたのは、致し方ないことだった。


 俺の目の前にあるもの。

 それは堆く積み上げられた骨の山だった。

 ほとんどが人骨らしきものだったが、中にはオーク、ゴブリン――悪鬼系の骨や、ケンタウロスらしきものまで存在する。

 部屋と言うよりは、骨の集積所だ。


「噂に聞いていたが、相変わらず骨を収拾しているようだな」

「スケルトン系が骨を収集してるのかよ」

「そっちの“収集”ではない。拾うの“収拾”の方だ」

「なんの目的もなく、ただ骨を拾ってるのか?」

「大戦が終わってから、ずっとな。理由は本人から聞け」

「それで……。その本人はどこだ?」

「ここです」

「ぬわ!」


 いきなり床から声が聞こえて、俺は思わず飛び退いた。


 よく見ると、足元にも骨があって、俺はその頭蓋を踏んづけていたらしい。

 部屋が薄暗いため、目を凝らさなければ見えなかったのだ。


 頭蓋はカラカラという音を立てて、ゆっくりと起き上がる。

 すると鎖骨、肋骨、腸骨といった順番に、骨が立ち上がった。

 完全に人骨を形成すると、闇を纏う。

 黒いシックなドレス。頭蓋には長い髪が揺れている――女骸骨が現れた。


 ドレスもそうだが、侯爵夫人だけあって、如何にも貴婦人というたたずまいだ。

 容姿そのものよりも、指輪やネックレスといった光り物から察することができる。

 他のスケルトン系から見たら、どうなのかは知らんが、俺には服を着た骸骨にしか見えなかった。


 ネグネはしっかりと人物ならぬ人骨を認めていた。


「久しぶりだな。ミーグ夫人。元気そうで何よりだ」

「まあまあ、ネグネ卿。遠路はるばるご足労いただきありがとうございます」


 遠路はるばるって……。

 魔王城の地下から階段を昇ってやってきただけなんだが。


「うむ……。少しやつれたのではないか?」

「ほねねね。あら。おだてても何も出てきませんことよ。おばさんをからかわないで下さいまし。骨密度も体重も変わっておりません」

「そうか。元気なのは何よりだ。ふふふ……」

「ほねねね……!」


 骸骨に元気ってどうなのよっていう在り来たりなツッコミはともかく、夫人の笑い方どうなのよ。「ほねねね……」って、直球すぎるだろ。

 せめて「ぼぼぼぼぼーん」とかさ。――あ、これもダメなヤツだ。


「ところで、我に相談したいことがあると聞いたが」

「はい、ネグネ卿。実は骨を探しておるのです」

「やはりか」


 ネグネは目を伏せた。

 どうやらその一言で、すべてを悟ったらしい。

 俺の方に身体を向ける。


「ブリード……。どうかミーグの願いを叶えるため、手伝ってほしい」




「骸骨侯爵の骨をこの中から探してくれぇ!?」


 事情を聞いた瞬間、俺は叫んだ。

 骨で埋め尽くされた部屋に轟く。


「そうだ。頼む……」


 珍しくネグネは頭を下げた。

 よっぽど大事なことらしい。


 なんでもミーグ夫人は、大戦期に吹っ飛んでしまった夫の骨をずっと探し続けていたらしい。


 その骨を集めたのが、惨状の正体というわけだ。


 集めたはいいが骨の数は膨大だ。

 どれも似たり寄ったり。一見区別が付かない。


 そこでミーグ夫人は、高位魔族リッチであり、魔族の中でも屈指の魔法の使い手であるネグネに相談したというわけだが。


「さすがに難しいな。侯爵の骨の形状をあらかじめ魔法でインプットしておけば、出来たかもしれないが、こうなっては見つけようがない」


 ということだった。


 それでもミーグ夫人は諦めることなく、ずっとこの骨の中から探していたのだが、時間がかさむばかりなのだという。


「というわけで、ブリード。探してはくれまいか?」

「といってもなあ……」


 俺もそんな便利な魔法を持っているわけじゃない。

 そもそも顔も知らないスケルトンの骸骨を探せなんて、不可能に近いだろう。


 ちらりとミーグを見る。

 顔を俯かせ、項垂れていた。

 ネグネに会った時は、元気そうだったが、やはり夫の骨のこととなると、思うところがあるのだろう。


「まあ……。仕事の合間に手伝うならかまわないが」

「出来れば、今日中に見つけたいのだ」

「今日中!!」


 驚愕のイベントクリア条件に、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「実は……。今日が夫と私の結婚記念日なんです」

「結婚記念日って!!」

「不思議に思うだろうが、事実なのだ、ブリード」


 ネグネは真剣な表情で俺に言った。


「今でこそ彼らはスケルトンではあるのだが、生前は人間だ。彼女と侯爵夫人は、生前から夫婦だったらしい」

「マジかよ」

「死霊召喚によって、今でこそその精神性は魔族ではあるのですが、生前の記憶も多少残っているのです」

「それで、今日が結婚記念日だと」


 ミーグは頷く。


 俺はやれやれと息を吐いた。

 改めて骨の山を見上げる。


 とても今日明日――いや、数日使ったところで見つかる量ではない。

 それを今日中……。しかも、あと数時間もすれば日付が変わるというのに、だ。


 はあ……。ただでさえ、絶賛サービス残業の真っ最中なのに。

 この上、深夜まで仕事しろっていうのか。

 全く魔王城の名に恥じぬブラック企業だぜ。


「しゃーねー。やるか!」


 俺は腕を振り回す。


 ネグネとミーグの顔が輝いた。

 ずっと側にいたスィームも嬉しそうに飛び跳ねている。


 それでも頼まれたら断れないのは、俺が勇者たる由縁だろうな……。


 はあ……。



 【本日の業務報告】

 ミーグがあらわれた。

 元勇者はふんづけた。

 ミーグは何かに目覚めた!?


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よろしくお願いします。

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