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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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第29話 ダンジョンの行きって出現率高めに思うよね

4000pt突破しました。

みなさま、ありがとうございますm(_ _)m

次なる目標はブクマ2000件!

頑張ります!!

 俺は村の入り口前で、フィオーナちゃんを待っていた。


 待ち合わせには少し早い。

 女性を待たせないための配慮だ。


 暇なので、村をぼけ~と見ていたのだが、随分様変わりしていた。

 大きなお城のような集合住宅。

 最新のブランドを集めた内部型市場。

 王都の大聖堂もかくやという大きさになった教会。

 その隣には、賭博場が煌びやかに輝いている。


 おかしい……。

 いつの間に、こんなに発展したんだろうか。


 最近、ほとんど魔王城と家の往復だったから、こうして村の全景を眺めるのは久しぶりだ。

 休みも飲み歩いているだけで、どこかに行くようなこともないし。


 はあ……。

 俺の人生ってこんな感じでいいのだろうか。


 がっくりと項垂れていると、女性の声が聞こえた。


「待たせたわね」


 立っていたのは、フィオーナちゃんだ――とすぐ判別できないほど、ファッションに身を固めた女性が立っていた。


 流行の短めのスカートに、高めのヒール。

 ふわっとした感じの長袖のブラウスの上には、獣の毛皮がついたコートを羽織っていた。

 黒眼鏡(サングラス)に、唇には濃いめのルージュが引かれている。


「おはよう。ブリッド」


 鍔の広い帽子が風に煽られ、フィオーナちゃんは手でそっと押さえた。


 その姿はお忍びで旅行する演劇団のトップスターだ。


「おはよう、フィオーナちゃん。す、すごい格好だね」

「そう? リナールの関係者に会うんでしょ? これぐらいの格好は当然だし。ま、舐められたら負けっていうか」


 なに――その昔はやんちゃしてました的な人が、丸くなっても良いそうな台詞……。


「じゃ、じゃあ早速行こうか」

「そうね。ブリッドさんと話してても、一銭の得にもならないし。むしろ、払ってほしいぐらいだわ」

「う、うん。……紹介した僕に少しは感謝しようね」


 注意したが、フィオーナちゃんはどこ吹く風だ。

 鏡を取り出し、入念に化粧を確認している。

 合コンに行くんじゃないんだから……。

 もう少しリラックスしてもいいと思うんだが。


 もしリナールの総帥が魔族だって知ったら……。

 ああ、考えたくもないな。


「どうしたの? 行かないの?」

「あ。うん。じゃあ、フィオーナちゃん、悪いんだけど。今から睡眠魔法を使うね」

「はあ!? どういうことよ。あんた、もしかして……。リナールのモデルをだしに私を呼び出して、いかがわしいことを考えているんじゃないでしょうね」

「ち、違うよ! そんなことしないってば!」


 考えたくもない。

 アーシラちゃんなら別だけど……。


「ただ……。リナールの人ってあまり公に出てこないでしょ」

「そうね。……プロモーションとかに出てくるのも、たいてい人間の仲介業者の人だし」

「そういうこと。それってブランド戦略の一部らしくって、秘密なんだ。だから、今から行く場所もフィオーナちゃんに見せられないんだよ」

「私、モデルなのに」

「それが先方の条件なんだ」

「ふーん」


 フィオーナちゃんは目を細めた。

 明らかに疑っている。


 ま、まあ、気持ちはわかるけど、ここは折れてくれるしかない。

 それが無理なら、今日は帰って、2人で飲むだけだ。

 ……ネグネには悪いがな。


「わかった。嘘っぽいけど、リナールの実情から考えたら、筋は通ってるからね」

「助かるよ」


 胸を撫で下ろす。


「じゃあ、早速……」

「待った」


 え、えぇ……(げんなり)


「睡眠魔法はやめて。その代わり、目隠しをしてちょうだい」

「それは――」

「場所さえわからなければいいんでしょ? だったら、眠らせるよりいいじゃない」

「でも――」


 俺は反論しかけたが、その2倍の勢いで返されそうだったからやめた。


「じゃあ、えっと……。一時的に目が見えなくなる魔法でもいいかな」

「それでいいわ」

「それじゃあ」


 俺は魔法を唱える。


「ちょ……。きゃあ! マジ!」


 急にフィオーナちゃんはよたよたし始めた。

 明るいところから、いきなり何も見えない暗闇へ、文字通り暗転したのだ。

 戸惑うのも無理もない。


「ちょっと! マジ怖いんだけど。……キャ!」


 すてん、と足を滑らせる。

 俺は背中が地面につく寸前のところで受け止めた。


「大丈夫?」

「あ、ありがと――――って、何触ってんのよ」

「ど、どこも触ってないよ!」

「今、私の背中と足を触ってるじゃない!」

「だったら、どうやって助ければいいんだよ! あ――もう! ネグ――違った――先方との約束の時間に遅れちゃうから、このまま行くね」

「このまま行くってどうやって。ア! キャア!」


 暗くても、自分がどうなっているかぐらいはわかるのだろう。

 俺はフィオーナちゃんの背中と膝裏に手を入れて持ち上げる。

 つまりはお姫様だっこだ。


 ちなみに俺は元勇者だが、ついぞやる機会はなかった。

 初お姫様だっこの相手が、フィオーナちゃんというわけである。

 光栄と思うべきなのだろうか……。

 初売りとしては、安く売りすぎてしまった感が否めない。


「ちょっと下ろしなさいよ」

「目が見えないままフィオーナちゃんを歩かせるわけにはいかないよ。じゃ。行くね」


 飛翔魔法を展開する。


 とん、と地面を軽く蹴ると、空高く舞い上がった。


 同時にフィオーナちゃんの下品な悲鳴も、舞い上がった。




ゴゴゴゴゴ……。


 息苦しさすら感じる重い音が響き渡る。


「う……うん……」


 フィオーナちゃんは瞼を開ける。

 結局、空に上がった後、気絶してしまったのだ。


「起きた? フィオーナちゃん」

「ええ……。まだ目の前が真っ暗で何も見えないけど。ところで何の音?」


 額を抑える。


 俺はどう説明しようか迷った。

 魔王城の扉が今、ゆっくりと開いていますなんてとても言えない。


「目的地についたんだよ。今、城門が開くのを待っているだけ」

「城門……! お城なの? ここ」

「城っていうより、屋敷……かな」

「さすがは、リナールね。すっごいお屋敷なんでしょうね」


 ええ……。

 ある意味、すっごい屋敷だよ。

 尖塔が雲に隠れて見えないぐらい。しかも、その雲も魔物だし。


「じゃあ、今から入るよ」

「あのさ」

「なに?」

「なんか臭うんだけど」


 う……。


 言葉に詰まる。

 俺も気付いていた。

 腐臭と汚物が混じり合ったような魔王城独特の臭いが、鼻に突いてきたのだ。


 これでもマシになった方だ。

 スィームと俺の(ヽヽ)努力のおかげでな。

 だけど、長年蓄積し、壁や床にこびりついた臭いはなかなか取れるものではない。


「ええっと……。さっき俺が屁を――」


 バチン、といきなり平手が飛んできた。

 結構、痛い……。まさに痛恨の一撃。


「最ッ低!! あんたね。仮にもレディをお姫様だっこしてるのよ。我慢しなさいよ!」


 う……うう……。


 泣きたい。いや、もう泣く。


「そろそろ下ろしてくれてもよくない。てか、もう限界なんですけど」

「ご、ごめん。もうちょっとだけ我慢して」

「~~~~!」


 ギリギリと奥歯を噛んで、フィオーナちゃんは苛立たしげに自分の二の腕を指で叩いた。


 俺はホッと息を吐く。


 全開した城門の中へと入っていった。




「おはようございます。ブリード」


 入口で待っていたのは、ドランデスだった。

「おや?」という顔で、俺の胸に抱かれたフィオーナちゃんを見つめる。


「おはよう。ドランデス」

「その方がモデルの方ですね」

「ああ。そうそう」

「ご苦労様です。よろしくお願いしますね、モデルの方」

「あ、はい! こちらこそよろしくお願いします」


 フィオーナちゃんは慌てて頭を下げた。


「ドランデス、今日は――」

「理解しています。申し訳ありませんが、ネグネさんのわがままに付き合ってあげてください」

「善処するよ」


 主にフィオーナちゃん()だけど……。


 ドランデスは挨拶を終えると、奥の部屋へと引っ込んだ。


 俺はフィオーナちゃんを横抱きしたまま、秘密の部屋へと通じる階段がある玉座の間を目指す。


「ねぇねぇ……。さっきの誰? やけにあんたと親しそうじゃない」

「あ……。えっとね。ここの幹部の人だよ。あの人からモデルの話を」

「え? マジ? じゃあ、あの人がいなかったら、私……モデルにならなかったってこと?」

「ま、まあ、そういうことかな」

「それならそうときちんと紹介しなさいよ。私、一言しか喋ってないわよ。もうちょっとアピールタイムを取ってよ」


 何をアピールするつもりなんだろ……。

 合コンじゃないんだから。


「ところでさ。ドランデスって名前……。私、どっかで聞いたことがあるのよね」


 ギグゥッ!!


「は、はは……。そ、そうかな。ぼ、ぼぼ僕は聞いたことないけど」

「確かどっかで……。なんか気持ち悪いわ。結構、大事なことだったような気がするけど」


 ヤバい。

 思い出す前に、退散しなきゃ。


 これ以上、魔族に会わないことを祈る。


「あ~ら……。ブリードじゃな~い。お久しぶり」


 ヒラヒラと手を振って、現れたのはケンタウロスならぬオネェタウロスだった。


 俺は頭を抱える。

 いきなりラスボスクラスの敵が現れた。


「やだ。それなに? カワイイ子じゃない。もしかして、あーたのカノジョ?」


 ああ……。くそー。

 フィオーナちゃんがいなかったら、現れた瞬間消し炭にしてやるのに。


 今の俺はさぞかし微妙な顔を浮かべながら、苦笑していただろ。

 あと、怖くてフィオーナちゃんの顔が見られない。

 すでに殺気がもの凄いんだけど……。


「ええ……。ま、まあ……。そんなとこです」

「あらそう。妬けるわね。……わたしも次の男を探さなくちゃ」


 くねくねと上半身を動かしながら、オネェタウロスは去っていった。


 すると、胸倉を掴まれる。

 まるでオーガにでも引き込まれたかという勢いで、俺は引き寄せられた。

 フィオーナちゃんのまさしく鬼の形相が、俺の視界の中でどアップで映っていた。


「今の誰……?」


 目は今から炎を噴きださんばかりに血走っているのに、口から吐き出された言葉は、氷のように冷たかった。


「えっと……。で、デザイナーさん」

「なんかオネェ口調だったんだけど」

「いや……。あれは自分を作っているんだよ。そうしないと、この業界では名前を覚えてもらえないっとか?」

「なるほど。……で? なんで私はあんたのカノジョってことになってんのよ。否定しろよ、こら」


 元勇者なのにかつあげされてる気分になってきた。

 いじめられた記憶とかないんだけど、これでも……。


「あの時は仕方なかったんだ。……あの人は、今から会うデザイナーさんのライバルみたいな人で。モデルを連れてきたって行ったら、怪しまれちゃうから。……一応、今回のことは秘密になってるし」

「ふーん」


 フィオーナちゃんは見えない目を細めた。


 内容はすべて嘘だが、ネグネから他の魔族には秘密にしてほしいと言われたのは本当のことだ。

 そもそも秘密の工房自体、一部の魔族にしか知られていない。

 魔族が人間の服を作っているなんて知ったら、魔王城の中にいる主戦派が黙っていないからだ。


「と、ともかく、急ぐよ。約束の時間に遅れちゃう」


 俺は足早に廊下を駆け抜けようとした瞬間。


「ああ! ブリード! ちょっとその子、なんなのよ!!」


 指さして現れたのは、エスカだった。


 なんでお前ら、こういう時に限って出現率が高めなんだよ!


 俺はただただガックリと項垂れるしかなかった。



 【本日の業務報告】

 ドランデスがあらわれた。

 オネェタウロスがあらわれた。

 エスカがあらわれた。

 オネェタウロスはこちらを野獣の目で見つめている。

 元勇者の攻撃力があがった。


なんとか日付上の毎日更新は守られた(*^_^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 元勇者は、どんだけギルドの女の子に人気が無いんですか?
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