第28話 元勇者、スカウトに転職する。
4000pt目前です。
投稿からまだ1ヶ月も経っていないのに、延野史上最高の伸びです。
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「はい。アーシラちゃん、プレゼント」
俺は紙袋から1着のドレスを渡した。
可愛いピンクに、腰の辺りに工夫が凝らされている。
なので、一見すると上下を着ているように見え、腰の辺りが引き締まって見えるのだそうだ。
「カワいいドレスですね。これ、もしかしてリナールの最新モデルじゃないですか? いいんですか、もらっちゃって」
「いいよいいよ。最近、ずっと迷惑かけっぱなしだったし」
「そうですよね。慰謝料としては安いぐらいですよね。私、これぐらいで満足するほど安い女じゃありませんから」
明るい表情の奥にある負の感情が、突き刺さってくるかのような営業スマイルだった。本当にごめんなさい。
「でも、このドレスって今、どこも品薄だって聞いたんですけど」
ぎくっ!
「い、いいいいや……。ちょっとリナールに知り合いが出来てさ。特別にもらったんだよ」
「へぇ! すごい! さすがは元勇者。伊達じゃないですね」
また輝くような営業スマイル。
ああ、言いたい。
実はもう喉の辺りまで出かかっている。
そのリナールは、実質魔族が経営していること。
そしてそのドレスは、モームの糸から出来ていること。
言いたい。
心の底から叫びたい。
葛藤しすぎて、頭が禿げそう。
「でね。アーシラちゃんにお願いがあるんだけど」
「え? なんですか? 身体なら差し出さないですけど、普通に……」
その返しひどくない。
もっと言い方があるじゃない。――ていうか、普通じゃない。
まるで俺がアーシラちゃんの身体目当てに君にプレゼントしてるみたいじゃないか。
「でも、下心はあるでしょ」
「そりゃあるよ。そのおっぱいで、俺の――――」
「すいませ~ん。心的外傷後ストレス障害なんで、私早退しちゃっていいですか」
アーシラちゃんは元気良く手を振って、後ろにいる上司にアピールする。
「ごめんごめん! そういうことじゃないんだ」
そもそも身体を差し出す云々は、アーシラちゃんが言ったことでしょ。
「もう。なんですか。私、帰りたいんですけど」
それって普通に会社休みたいってことだよね。
思いながらも、俺は苦笑で返すしかなかった。
「あのね。実はそのリナールの知り合いがさ。モデルを探してて。誰かいないかって、頼まれたんだよ。そこで……アーシラちゃんにお願い出来ないかなって」
「ええ? 私ですか? ……そんなどうしようかな。私、スタイルとかあんま良くないし」
と言いつつ、前に俺が送った手鏡で身だしなみ整えるアーシラちゃん。
「突然で悪いんだけど、明日とかどうかな」
「明日ですか?」
「でさ。撮影終わったら、食事でも……」
「あ。ごめんなさい」
「いやいや。食事はいいとしても、撮影には」
「食事は行くつもりさらさらないですけど……。あ、でもブリッドさんと相席じゃなかったらいいかな」
それ――凄い傷つくんですけど……。
「明日はちょっと用事があって」
「用事? なんの?」
まさかデートではあるまいな!
男とデートだったら、不慮の事故とか装って、殺してやる。
そうだな。大量のスライムに襲われたとかどうだろうか。
「それって、ブリッドさんに言わなきゃいけないことですか?」
顔は笑いながら、視線は冷ややかだった。
「なので、他を誘ってください。あと、このドレスもお返しします」
「え? え? なんで?」
「私、リナールってあんまり好きじゃなくて。それに――」
珍しく神妙な顔になる。
俺はごくりと唾を飲んだ。
アーシラちゃんも勘がいい子だ。
俺の知り合いと聞いて、もしかしたら魔族を想起したのかもしれない。
失言だったかな……。
俺は恐る恐る尋ねた。
「それに?」
「ブリッドさんが、ドレスに自分の臭いとか付けてそうだし」
俺は犬か!?
アーシラちゃん! 日に日に俺のイメージが悪化してない。
アルバイトする前って、俺たちもっと良好な関係だったはずだよね。
すると、アーシラちゃんは席を立った。
「あ、私……。早退するんで、ここで」
「ちょ、ま――」
アーシラちゃんは「お疲れ様です」とペコリと頭を下げて、奥の方へと引っ込んでしまった。他のギルド職員も、さも当たり前かのように挨拶し、自分の業務に戻っていく。
それでいいの、職員の皆さん。
――と、その時だった。
俺の目に三十路前の女が視界に入ったのは……。
しかも、頭の後ろと腰に手を当て、ポーズ(らしきもの)を取っている。
見下すような目線は、どこか飢えた狼みたいだ。
さすが三十路前。貫禄があるな。
「や、やあ……。フィオーナちゃん」
「こんにちは、ブリッドさん」
やたら綺麗な声で挨拶された。
微妙に気持ち悪いんだけど……。
「実は、明日――私が暇してるの」
「そ、そう――」
「それにね。私って、リナールのファンなのよ」
う、うん。知ってる……。
「あの……。じゃあ、フィオーナちゃん」
「行く!!」
フィオーナちゃんは俺の手をがっしり――じゃなかった。俺が手に持ったドレスをしっかりと掴む。
――まだ、何にも言ってないんだけどね……。
◆
時は少々さかのぼること2日前。
俺は秘密の工房にて、モームが落とす衣料品の回収作業を行っていた。
なんでも今まで、ドランデスが業務の片手間にやってたらしい。
書斎でも忙しそうにしてるのに、こんな業務までしてたら一体いつ寝てるんだろうな、あいつ。
いくら龍の御子でも、限度があるだろうに。
上司が休んでくれなきゃ。下っ端は休みにくいんだよ。
というわけで、俺は清掃業務の合間に、この回収作業も行うことになった。
清掃業務の大半が、魔族の糞尿処理で、それを今はスライムが肩代わりしているので、割と暇なのだ。
というか、その待ってる間の時間つぶしに飽きた。
カードゲームとか、マジ金食うからな、あれ……。
我ながら、何仕事を増やしてるんだと思うのだが、まあこの業務も床に散らばった衣類を回収するので、清掃業務といっても差し支えはないだろう。
スライムに任せると、溶かしてしまう可能性があるしな。
「精が出るな、人間」
偉そうな声は階上から聞こえた。
手に骸骨の杖を持った推定13、4歳ぐらいのお子さまが立っていた。
高位魔族リッチにして、リナールの総責任者ネグネ・リナールだ。
「お前、今……私のことを“お子さま”と言っただろ」
なんで揃いも揃って、ここの魔族どもは勘がいいんだよ。
ネグネは手すりに手をかけ、俺を見下げる。
「また落ちるなよ。また泣かれたらかなわんしな」
「落ちるか! それに我がいつ泣いたというのだ」
てめぇの脳はあれか?
リッチになった時に、床に落としたプリンみたいにぶちまいたのか?
ネグネは階段で降りてくると、俺の前に立った。
眼窩の奥の赤い光が俺を刺す。
「たまにはお前も手伝ったらどうだ?」
「ふふん。我はリナールブランドの顔だぞ。肉体労働など、下々のやることだ」
手で顔を隠すようにポーズを取る。
お前のいう下々ってアンデッド軍団のことだよな。
だったら、そいつら呼び出して、手伝わせろよ。
そしたら、俺も堂々サボれるし。
「顔って……。俺、お前を地上で見たこと1度もないんだが」
「か、顔出ししてないほうが、消費者の興味をそそるだろうが。わ、我はリナールのリーサル・ウェポンなのだ」
リーサル・ウェポンね……。
たしかにリナールの代表がリッチだったて、世の中に知れたら、そりゃあ致命傷になるだろうな。文字通り、終末兵器だ。
「それに暗い地下で世界を制するというこの愉悦。凡人のお前にはわかるまい」
シャキン! という感じで、またポーズを取る。
お前、そうやって決め顔つくらないと生きていけないのか。
「わかったわかった。……で、なんかようか? 俺をからかいに来たわけでもあるまい」
これでも、こいつはこいつなりで忙しいらしい。
魔族とはいえ、会社の代表なのだ。
何かとやるとことはあるのだろう。
子供部屋で人形遊びでもしてそうな顔なのに、たいしたもんだ。
「うむ。お前にちと頼みたいことがあるのだ」
嫌な予感がした。
この魔王城で「頼み事」なるものは、決まってろくな事がない。
「そんなあからさまに暗い顔をするな」
「悪かったな。これは生まれつきだ」
げんなりとした顔を向ける。
ネグネは1度気を取り直すと、こう言った。
「実は、人間のモデルを募集しているのだ」
「モデル?」
「知っての通り、リナールは総合衣料メーカーだ。婦人物も当然手がけている。だが、人間のモデルを使って、プロデュースして作ったことはまだ1度もないのだ」
「じゃあ、今まではどうやってたんだ?」
ネグネは言葉に詰まる。
そして視線をそらした。
「は、恥ずかしい話だが……」
「はあ……」
「昔、捕らえていた貴族の令嬢が着ていたものを参考にしている」
それってまさか……。
エスカの時と同じで、捕虜が着ていた服をかっぱらったってことか。
「お前には大変言いにくいのだが。想像している通りだ。……ただ、そういう衣料品が焼却されずに残っていて、それを参考にしたのだ。直接、捕虜から奪い取ったわけではない」
聞く人が聞けば、そういう問題ではないのだが、この際仕方がないだろう。
俺は頭を掻いた。
「それで、今回は自分たちでデザインをしたいというんだな」
「協力してくれるか?」
「リナールから給料が出ているし。半分は俺もリナールの社員ってことだからな。手伝ってやるよ」
「本当か!?」
ネグネの顔が、まるで「玩具を買ってあげる」と聞いた子供みたいに輝いた。
……こいつもこんな顔できるんだな。
ま……。まんま子供だけどな。
こうして俺はリナールのモデルをしてくれる人を探すことになったのである。
【本日の業務報告】
三十路前のおば――――フィオーナちゃんが仲間になった。
会心の一撃!
元勇者は、瀕死に陥った。
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