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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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第26話 上司と秘密の部屋

昨日、20位代いくか、と言っていた

週間総合28位でした!!

ご支援いただいた方、本当にありがとうございます!!

 ぴたり……。


 ドランデスは立ち止まる。

 俺の目の前で……。

 慌てて息を止めた。

 鼓動が早い。いっそ止めてしまいたいと思うほど、身体の中に緊張感が充満して、破裂しそうだった。


 しばらく俺がいる方を凝視した上司は。


「またですか」


 呟いた。


 ――ばれた……?


 心拍数が最高潮に達する。


 するとドランデスは目を切る。

 廊下を塞ぐ糸を手でむしり取り始めた。


「どうやら逃げたようですね」


 また独り言をいう。

 一体何を彼女は言っているのだろう。


 逃げた?

 それってまさかミミックのことか。

 それとも人間――俺か?


「はあ……。めんどくさい」


 尻尾が高速で動いた。

 鋭く大気を切る音が聞こえる。

 一拍後、はらりと糸が落ちた。

 ひと1人ぐらいなら入れるスペースができあがる。


 ドランデスは先に進もうとした瞬間。


 ヒュン!


 再び鞭が放たれる。

 今度は石が壊れた。俺が隠れているすぐ隣の壁だ。


 眼鏡の奥の瞳が、蛇のように細くなる。


「気のせいでしたか?」


 ぽつりと呟く。

 廊下の奥へと歩いて行った。


 怖ぇ……。


 ドランデスの足音が聞こえなくなると、ようやく【隠者の外套】を解除した。


 危なかった。

 【隠者の外套】は物理的な衝撃に弱く、効果が一時的に機能しなくなるという性質を持っている。

 もし当たっていれば、効果は解除され、俺たちは発見されていただろう。 

 それでなくてもドランデスのことだ。当たった感触から、隠れている者の存在に気づいたかもしれない。


 とりあえずミミックを下ろす。

 蓋が開かれると、大きく息を吸い込んだ。


「いやー、危なかったなあ、あんちゃん」

「誰のせいだと思ってんだよ。ドランデスが出てくるなんて聞いてないぞ」

「エエやないか。お互い助かったんやし」

「それも誰のおかげだと思ってんだよ」

「わかってるわかってる。ほんま助かりました。この恩は一生忘れません。……これでエエんやろ?」


 心が全然こもってねぇし。

 魔族に言われてもあんま嬉しかねぇ。


 俺は前を向く。

 照明魔法を改めて展開し、周囲を照らした。

 白い糸が壁や天井に貼り付き、蜘蛛の巣を何重にも重ねたようになっている。

 細い糸が絡まり、まるで糸というよりは、もはや柱だ。


 真ん中には先ほどドランデスが切って作った穴が、ぽっかりと空いている。

 糸も随分靱性に富み、切れにくい性質のようだが、龍の尾には歯が立たなかったらしい。


「この糸はなんだ?」

「さあな。わいもわからん。先を行ってみるしかないやろ?」

「まだ進むのかよ!」

「なんや、あんちゃん。もうビビっとんのかい?」

「おま! この先にあのドランデスがいるんだぞ」

「かー。冒険心というか好奇心がないというか。最近の若者はこれやから……」


 ミミックが最近の若者を語るなよ。


「ええか……。考えてもみぃや。この秘密の地下通路にドランデスがおったんやで。つまり、ここには上司の秘密があるっちゅうこっちゃ」


 あ……。


「察しがついたやろ。その上司の秘密っちゅうのを握ることが出来れば、ドランデスにペコペコ頭を下げる必要ないやろ?」

「お前……。もしかしてドランデスのことが嫌いなのか?」

「そういうことやない。……まあ、敵が多いのは確かやけどな。主戦派の連中とか。わいはどっちでもない中立派やけどな。正味しょうみ――わいは面白おかしく生きれればそれでエエねん」


 お前は、そういうヤツだよな。


「けど、考えてみぃや。あのボディを独り占めできるんやで」


 独り占め……。


『ドランデス、今日からお前のすべてが俺のものだ』

『はい。理解しています』

『では、早速だが脱いでもらおうか』

『脱ぐ? えっと……それは…………』

『何をしている。俺の命令が聞けないのか』

『そんなご無体な……あっ。……そんな乱暴にしな――きゃあああああ!』


 ぐへへ……。

 その言葉に思わず生唾を飲んだ。


 いやいや、何考えてんだよ。

 それじゃあ、元勇者じゃなくて鬼畜勇者だよ!


 冷静になって考えてみる。


 改めて言うまでもなく、俺は勇者だった人間だ。

 義憤にかられるほどの正義を持ち合わせ、魔族と戦った男である。


 引退していたとはいえ、魔族はこんな地下空間を作り、秘密の何かを企てている。

 元勇者として見過ごすわけにはいかないだろう。


 それにだ。

 魔族とはいえ、ドランデスは俺の上司。

 上司が間違っている道に進んでいるのなら、正すのも部下の仕事のうちだ。

 残念ながら、特別手当は出ないだろうがな。


「仕方がない。行くか」

「よっしゃ! さすが、あんちゃん」


 ミミックはパカパカと蓋を開閉する。


 一応、自分なりの結論は出たが、なんかこいつの口車に乗ってしまったような気がする。


 こうして俺と1匹は、糸の向こうの世界へと踏み込んだ。



 ●



 廊下の奥も、白い糸に占拠されていた。


 幸いにもドランデスが切ってくれていたおかげで、俺たちは苦もなく進むことが出来た。しかし、糸は奥に行けば行くほど、複雑になっていっているような気がする。


 糸をくぐり抜けた先にあったのは、広い空間だった。

 二層構造になっており、俺たちが出てきたのは1階の通路。

 吹き抜けになっていて、天井が見えないぐらい高い。


 俺たちは唖然とした


「な、なんじゃこりゃ!!」


 ミミックは思わず絶叫した。

 俺も目を丸くする。


 薄暗がりの部屋に蠢いていたのは、無数の赤い光。


 いや……。違う……!


 目だ! 無数の目が、暗闇の中で光っていた。

 それにガチャガチャとけたたましい音が鳴っている。

 何か骨同士をすりあわせるような――気色悪い音だ。


 その光景……。

 耳をつんざく障りの悪い音。


 俺には覚えがあった。


 まさかモームか。


 よく見ようと、俺は近づく。

 やはりそうだ。


 硬い殻に、無数の前肢。

 人間の間では光覚といわれるガラスのような瞳が、赤く光っている。


「なんで、こんな大量のモームが……」


 2000……。いや、もしかしたら5000。もっといるかもしれない。

 魔物の中では繁殖能力がさほど高くないモームが、これほど集まっているのは希有な例だ。


 以前、モームに追い詰められた時は、1000匹ほどだった。

 一個体の能力はそれほど高くないが、1000匹集まるだけで元勇者である俺を追い詰めることが出来る。

 数の暴力という点では、モームほど恐ろしいモンスターはいない。


「こんなにモームを集めて何をしてるんだ」


 まさか人間に対する反抗作戦とか考えているんじゃないだろうな。

 戦術としては間違いないが、こいつらをコントロールする術はあるのだろうか。

 下手すれば、モームだけで戦況がひっくり返るぞ。


 なんと言っても、モームの特長は防御力が高い(かたい)――ということだ。


 ぶっちゃけ、今の俺の装備では単体でも一撃必倒は難しい。

 これはお世辞でも何でもない。


 前にルゴニーバたちに使った聖剣エクス・ブローラーとて、さほど効果はない。


 あいつらの殻は、耐衝撃、耐斬撃、耐火、耐水、耐雷etcetc。

 様々な耐久性において、最高ランクを獲得している。


 難点はただ突っ込むしか脳がないこと。

 つまりバカだということだ。


 おまけにこいつらの経験点とか、もらえる賞金とかも、費用対効果を考えると雀の涙に等しい。

 ちなみに10年連続で『遭遇したくないモンスター』の中でベスト1を記録し、殿堂入りを果たしている。


 こいつらが集まめることは、兵器を買い集めるに等しいと言っていいだろ。


 ――どうする……?


 当然、俺は考える。

 さすがに見過ごすわけにはいかない。


 その時だった。


「何をしている、貴様ら」


 慇懃な声が上から聞こえた。


 壁に沿うように作られた欄干に立っていたのは、12、3歳ぐらいの少女。

 むろん普通の少女ではない。


 乱れた癖っ毛の強い茶色の髪。

 燃えるように赤く、ややつり上がった瞳。

 頭に載った三角帽子のせいもあり、顔が整った美少女魔法使いのように見えないことはない。


 しかし、茶髪に隠れた顔半分は骨がむき出しになり、落ちくぼんだ眼底から赤い光を放っている。白衣に、骸骨がついた杖を持ち、その手も半ば白骨化していた。


 見たことがない魔族だ。

 しかし、なんとなくだが、予想は出来る。


 リッチ……。

 死霊を操る――死骸系モンスターの最高位と同種族だろう。


 体は小さいが、ラスボスのような雰囲気を漂わせた少女リッチは、その覇気を隠すことなく俺を見下げた。


 ――不味い……。雰囲気だな。


 モームの大群に、俺の知らない高位魔族。

 今日は悪い予感が、随分と当たるらしい。

 追い打ちをかけるように、予想はさらに悪い方向へと向かう。


 何かを落とす音が聞こえた。


「ブリードさん」


 声を聞いた瞬間の俺の顔は、さぞ血の気が引いていたに違いない。


 振り返る。


「ドランデス……」


 今まで彼女の名前を読んだ中で、その言葉は1番絶望に染まっていた。



 【本日の業務報告】

 元勇者、隠者の外套を使用した。

 使用料――――――――――エンを請求された。


次も頑張ります!!

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