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元最強勇者のバイト先が魔王城なんだが、魔族に人間知識がなさ過ぎて超優良企業な件  作者: 延野正行


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24/76

第23話 元勇者、罠に落ちる。

月間総合ランキング231位に入りました!!

ブクマ・評価をいただいた方ありがとうございました。

「アーーーーシラちゃぁぁあああん」


 思いっきり愛の名を叫びながら、俺はギルドに突入した。


 いつも通りの席に座る。

 くるりと椅子を回し、カウンター向こうにいるアーシラちゃんに満面の笑みを見せた。


「あら、アーシラなら休みよ」


 しかし、そこにいたのは三十路が過ぎたフィオーナちゃんだった。


「ああん!! てめぇ、なんか言ったか、ボケ。ちなみに私は三十路前だ!」


 いや、何も言ってません。

 少なくとも口には出してません。

 お願いします。胸倉とか掴まないでください。


 衛兵(えーへー)さーん、助けて。

 元勇者がかつあげされそうになってるよぉおお!!



 ……気を取り直して。



「えっと……。おはよう、フィオーナちゃん。いい朝だね」

「そうね。元勇者の蛇が腐ったような顔を見なければ、最高だったわ」


 やさぐれフィオーナちゃんは、いきなり足を組むと、表紙の薄い本を読み始めた。

 最近流行ってる雑誌というものらしく、街の情報や王都での出来事などを新聞よりも詳しく載っているらしい。

 昔はこういう情報は、一部の貴族にしか伝えられなかった。

 だが、大戦時における情報網の発達によって、あまりタイムラグなく情報が手に入れることが出来るようになったそうだ。


 便利な世の中になったものだ。

 概ね、俺のおかげなんだがな。


「機嫌なおしてよ」

「だったら、これ買ってよ」


 フィオーナちゃんは雑誌を俺に見せる。

 その1枚に『今月の特集』と組まれた記事があり、服のブランドが紹介されていた。


「今度ね。リナールがさ。新色のワンピースを出すんだけど、すっごい可愛いの。ただ高級嗜好らしくって、ちょっと高いのよ。だから買って」


 ど直球すぎない? その要望。

 もう少し変化球を混ぜようよ。


 リナールというのは、俺でも知ってるほど有名な衣料品メーカーだ。

 「土木から社交界まで」という標語の元、様々なシーンへ進出し、大戦後からアパレル業界を席巻している。


 最大の売りが「安さ」だ。

 ドレス・スーツなど、貴族や王族しか着てこなかった衣料品を、庶民でも変えるほどのコストに仕上げていて、特に民衆の間でうけているらしい。

 しかも、土木衣料も手がけてるだけあって、丈夫で長持ち。安さと相まり、三拍子が揃っていて、爆発的な人気になっているのだ。


「でも、この前買ったばかり……」

「チッ!」


 フィオーナちゃんは姿勢を元に戻すと、俺の方を向いた。

 ぼそぼそと独り言を呟く。


 ――金を持ってんだから、買ってくれても良いだろうが……。


 聞こえないように言う配慮は素晴らしいけど、お願いだから俺の前で言うのはやめて。たまには自分の働いたお金で買おうよ。


「ところで、アーシラちゃんは?」

「休みよ。3日前から休んでる。例の心的外傷後ストレス障害ってヤツ」


 また――!


 今回は、身に覚えがあるので深くツッコめない。

 ごめん。アーシラちゃん。夢の中のあなたは最高でした。

 是非、今度看護婦姿を見せてください。俺だけに――!


「あ。思い出した。ブリッドさん、わかった?」


 いやいや、いきなり「わかった?」と聞かれても、わからないんだけど。

 主語を省き過ぎだよ、フィオーナちゃん。


「ほら。この前の飲み会の席でさ。私、言ったでしょ?」


 飲み会の席っていっても、いつのこと?

 ほぼ毎日やってるから、どの飲み会なんだかさっぱりわからん。


「ごめん。覚えてない」

「財産よ」

「は?」

「魔族の財産よ。おかしいと思わない。日給999,999,999エンよ。どこからそんなお金を毎日払うことが出来るのよ、魔族って」

「確かに」

「酒の席でも同じ反応してたわよ、クズ勇者」


 酔いすぎると前後不覚というか、記憶飛んじゃうからな、俺。

 あとフィオーナちゃん、元勇者をもうちょっと敬って。


「だから、今度調べてくるって言ってたの。覚えてない」

「ない」


 俺はきっぱり言った。


「ねぇねぇ……。気にならない? そこは勇者として」

「まあ、多少はね」

「魔族よ。あの魔族が大金を抱え込んでるのよ。おかしいとは思わない。もしかしたら、不正な方法で現金を得ているかもしれないわよ」

「それはどうだろうか……」


 むしろ、お金はあるにはあるが、全く価値がわからず、あんな大金を毎日支払っているような気がする。

 ドランデスは真面目だけど、そういうところが抜けてるからな。


「勇者としての正義感が燃えてこない! ブリッドさん」

「元勇者ね。……でも、そんなものを探して今さらどうするんだよ。たとえ、あったとして誰に言えばいいの?」

「あーそーね。とりあえず、私にちょうだい!」


 結局、フィオーナちゃんがほしいだけじゃないか!




 ――とは、言ったものの確かに気になる。


 日給999,999,999エン。

 言われるまでもなく、大金である。

 それを毎日だ。年換算にしたら、大国の国家予算とか軽く越えるんじゃなかろうか。


 なんか凄く気になってきた。


「どうしました、ブリードさん?」


 声をかけられる。

 目の前にはドランデスが立っていた。

 鎖が付いた眼鏡をざらりと動かし、俺を覗き込むようにして首を傾げている。


「いや、なんでもないよ」

「まだ、身体の具合が……」

「大丈夫だって。もう全快したからよ」

「そうですか。ならいいのですが。それよりも着きましたよ」


 ドランデスは部屋を指さす。


「今日はここのお部屋の整理をお願いします」


 そこは何の変哲もない石壁に覆われた部屋だ。

 ただ一点だけが変わったところがあって、厳重にロックされている。他の部屋と比べると、扉の厚みもありそうだ。


「なんですか? ここ?」

「宝物庫です」

「宝物庫!!」


 聞いた途端、明朝まで飲んでた酒が一気に吹き飛んだ。


「はい。といっても、我々の物ではありません。大戦中、魔族が持ち帰った人間の金品が保管されています。この度、国庫に返却することが決まりまして」

「国庫って、人間の国にか?」

「もちろんです。ですから、持ち運びやすいよう荷造りをお願いしたいのです」


 なるほどな。

 どんな宝物があるのか知らないが、おそらく金貨とか細々したものが一杯あるのだろう。


「いいのか、俺なんかに任せたりして。宝物庫だろ? 俺が猫ババしたりするかもしれないぞ。もっとドランデスが信頼できるヤツに頼んだ方が」

「色々、人選に悩みましたが、今のところブリードさんがいいかと。魔族にやらせても、真面目にやるかどうか」


 珍しく深い息を吐いた。


 うん。……お前も大変だな、ドランデス。

 今度、一緒に飲みに行こうぜ。


「わかった。不祥このブリードが任されてやるよ」

「お願いします。ただ……。信頼していないわけではないのですが、監督役は付けさせてもらいます」

「監督役?」

「というより、宝物庫のお目付役がすでにスタンバイしてるんです」

「門番ってわけか」


 ――しっかりしてるな。


 あわよくば、と思っていたが。

 ここでドランデスの信用を失うのも考えものだしな。


「では開けますね。アンテ!」


 ドランデスは呪文を唱える。


《認証コードおよび声紋パターン分析。……承認》


 どこからともなく声が聞こえてきた。

 ごごごご、と重たい音が響く。

 分厚い金属の扉が開いていった。


 すると、扉の隙間から陽が差したような輝きが漏れ始めた。


「う……。うおおおおおおおおお!!」


 目映い光の濁流に呑み込まれる。

 やっと照度に慣れた時、俺の目の前には英雄譚や子供向けのお伽話でしか見ないような光景が広がっていた。


 金! 金! 金!!


 どこをとってもぴっかぴか!


 紅玉ルビー青玉サファイア瑠璃ラピスラズリ藍玉アクアマリン珊瑚コーラル

 宝石も選り取り見取り。

 さらには金細工があしらわれた武具に防具。

 果ては証券や珍しい魔法書なども置いてある。


 何より金貨だ。

 数えるのに、一体何日費やせばわからないぐらい山と積まれ、黄金色を放っていた。


「これ、全部魔族が盗んだのか?」

「恥ずかしながら、そういうことになります。私たちには無用の長物なのですが、人間たちが必死に集めていると、どうしても奪いたくなるのが、魔族の習性でして。魔王様が略奪を推奨することはありませんでしたが、止めもしなかったため、こうして集まってしまったのです」


 そこまで説明を聞いて、俺は思いきって尋ねてみた。


「なあ、ドランデス。……もしかして俺の給料ってここから出てたりするの?」

「まさか……。ちゃんと魔族側のお金から出ていますよ」

「じゃあ、そのお金って――」

「すいません。……ブリードさん。この後、人間側の外交官との会議が控えておりますので」

「あ。そう――。わかった。これをまとめておけばいいんだな」

「いつも通り。袋は用意してますので。後はお目付役に聞いてもらえますか? では、よろしくお願いします」


 相当急いでいるのだろう。

 ドランデスは足早に宝物庫から出ていった。


 ――大変だな、俺の上司様は。


 パチンと拳をならし、俺は1度気合いを入れる。

 久々に身体を張る時が来たらしい。

 こればっかりはスィームに任せるわけにはいかないからな。


 入口側に置いていた袋を持って、とりあえず金貨を入れていく。

 これがまたなかなかに重労働だ。

 腰は痛いし、金貨でパンパンに膨らんだ袋は、とにかく重い。


 こういう作業をしていると、やはり人手がほしくなる。

 いっそ給料は俺が出すから、誰か適当に連れてこようか。


 しばらく作業をしていたが、段々飽きてきて、ついには手が止まった。

 扉の向こうを見る。

 そろそろエスカが来て、お茶に誘われる時間なのだが。

 あいつ、気まぐれだからな。


 スィームを連れてくればよかった。

 仕事は任せられないが、話し相手ぐらいは務まるだろう。


 はたと、気付く。


 そう言えば、目付役の姿がない。

 改めて宝物庫内を見渡したが、それらしき影はなかった。

 どうやら、宝の番人は上司の知らぬうちに職務放棄をしていたらしい。


 俺は少し休んだ後、作業を再開した。


 そしてまた――ふと手を止める。


 宝物庫の中央――祭壇のような場所に、大きな宝箱があった。

 先ほどからチラチラと俺の視界に入っては来てはいた。

 気にしないでおこうと思ったのだが、元勇者とて人間だ。


 宝物庫のど真ん中。

 まるで崇めるように置かれた宝箱の中身を気にならない人間などいない。

 否――むしろ、そんなヤツは人間ですらない。


 特に数多あるダンジョンで、コンプリートキラーといわしめた俺である。


 宝箱を開けるのは、いわば本能といって良い。

 魔族に人間の金品を奪う習性があるのと一緒だ。


 扉を確認。

 気配はない。

 俺は床に散らばった金貨を拾いながら、徐々に近づいていく。


 罠もなさそうだ。

 祭壇下まで来ると、一気に回り込んだ。


 宝箱を見つめる。

 木製の箱に鈍色の金属の補強がなされている。

 実にクラシカルで、そそる箱だ。


「じゃ、ちょっとだけ」


 女の子のスカートを覗き見る感じで、俺は宝箱を開けた。


 瞬間――。



 バフッ!!



 目の前が真っ暗になる。

 お尻の当たりに何か針のようなものが刺さって痛い。


 俺は何が起こったかわからず、ジタバタしていると、下品な声が聞こえてきた。


「ぎゃはははは! 引っかかった。引っかかりおった!」


 まさか!


「なあ、人間。今、どんな気持ち? ぷぷ……。戦争終わってんのに、ミミック様に囓られるってどんな気持ち! ……ぷぷ。なあ、教えてーなー」


 闇の中で「ぷぷ……」という笑い声と、独特のイントネーションを持った声が響き渡った。


 どうやら、俺は見事に罠にかかったらしい。



 【本日の業務報告】

 ミミックが現れた。

 ミミックの先制攻撃だ。

 元勇者はイラッとした。


感想もいただきありがとうございます。


クズ勇者ですが、どうぞよろしくお願いします。

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