表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/76

第21話 元勇者、お見舞いされる。

日間総合朝の部で21位。自分史上最高位を更新しました。

読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございましたm(_ _)m

 俺は夢を見ていた。


『今日は、どうしたんですか? ブリッドさん』


 目の前にはアーシラちゃんがいた。

 何故か白衣姿。しかも胸元を豪快に開き、むっちりとした谷間が見えていた。


『いやあ、風邪引いちゃってさ』

『そうなんですか? じゃーあ、お熱を計りますね』


 アーシラちゃんは顔を近づけてくる。

 唇を軽く突き出すように……。


 え? ちょっと熱ってキスとかで計れちゃうの?

 そんな機能があったのかよ!


 だが、アーシラちゃんは寸前で止める。

 ぽこりんこ! と謎の擬音を出して、自分の頭を叩いた。


『ごめんなさい。熱を計ろうとしてキスしそうになっちゃった』


 かわええ……。

 俺は鼻血をどばどば垂れ流して、悦に浸る。


『じゃあ、今度こそ計りますね』


 そう言って、アーシラちゃんは俺のおでこに自分の額を押しつけた。


 とてもひんやりする。

 めちゃくちゃ気持ちいい。

 ああ。でも……。どうしてだろう。臭い? うん? 糞?


 まあ、いいや。

 アーシラちゃんの糞の臭いなら全然オッケー!


『じゃあ、ちょっと恥ずかしいけど、治療しちゃいます!』


 そう言って、アーシラちゃんは白衣のボタンを外しはじめた。


 え? ちょっと! 何をしてるの!? アーシラちゃん!


 ボタンを外し終えた彼女は、バッと白衣の胸元を開く。

 大きな果実が2つ……。目の前で揺れていた。


『さあ、行きますよ~』


 気がついた時には、もう裸になっていた。

 一瞬で何が起こったのかわからないが、すでに下半身のスカートは取り払われ、ストッキングを残して裸になっていたのである。


『う、うわ……』


 俺は悲鳴を上げそうになった。

 人間が幸せが過ぎると、嬉しさを通り越して逆に恐怖を覚えると初めて知った。


 さらにアーシラちゃんは迫ってくる。


 俺の羽交い締めにすると、胸を俺に押しつけてきた。


 やばい! すげー。プルンプルンしてる。

 アーシラちゃんの肌って、いつもすべすべだなって思ってたけど、こんなに柔らかったんだ。

 胸だけじゃない。手も足も全部プルンプルンしてる。


『どうですか? 気持ちいいですか、ブリッドさん』

『あは……。えへへへへ……。気持ちいいよ、アーシラちゃん。とっても……』


 凄い気持ちいい。

 もうそれしか言えない。

 そして冷たい。

 俺の火照った身体に、ジャストフィット。


 ああ。いつまでもこうしていた。


 夢ならどうか覚めないでくれ……。



 ●



「ぐへへ……。アーシラちゃん」

「いつまで気持ち悪い顔してニヤけてんのよ!」


 いきなりおでこを強打された。


 俺は夢から覚める。

 目を開いた。


 人の顔があった。

 いや、顔には違いないが、普通の顔ではない。

 何故か半透明に、女性らしき顔が浮かんでいた。


「ピキィ!」


 聞き慣れた声が部屋にこだました。


「お前、スィーム! ――って、ぎぃややあああああああああああああああ!!」


 絶叫した。

 こんなに叫んだのは、昔子供の時、夜1人で小便してたら、干しっぱなしのシーツが女の幽霊みたいに見えた時以来だ。


 無理もない。

 スィームが俺の身体を取り込むようにして覆っていた。


 つまり、夢の中のアーシラちゃんの感触を、スィームだったのだ。


「ちょっと! のっけから変な声を出さないでくれる」


 もう1つの声は横から聞こえた。

 部屋の椅子に腰掛けていたのはエスカだ。


「エスカ! お前まで」


 起き上がろうとしたが、すぐに気力が萎えた。

 俺はオーバーシュートすると、そのままベッドに逆戻りする。


「ピキィ!」

「スィームの言うとおりよ。大人しくしてなさい。あんた、軽く脱水症状を起こしてたんだから。いくら動けないったって、水ぐらい飲みなさいよ」

「う、うるせぇ。げほ! ごほごほ……」

「病人が強がるんじゃないわよ」

「それよりスィームを何とかしてくれ」

「気持ちいいでしょ。……まあ、おかげで私たちはあんたの気持ち悪い寝顔を見る羽目になったんだけど」


 ああ……。そりゃすまねぇ……。


 エスカの言うとおりではあった。

 スィームのゲル状がうまく俺の熱を下げている。

 おかげで、ちょっと良くなっているような気がした。


「ありがとな。スィーム」

「ピキィ!」


 どういたしまして、と言っているらしい。


 スィームはゲル状をさらに伸ばす。

 俺の頭をすっぽりと包んだ。


 ああ。気持ちいい。

 これがスライムだって知らなければ、天国だな。


「しかし、狭い部屋ね。あんた、高給取りなんだからもっといいとこ住みなさいよ」


 エスカは1DKの我が根城を値踏みする。


「うるせぇ。じろじろ見るなよ。こっちだって引っ越したいけど、やむにやまれぬ事情があるんだ」

「それって借金?」


 エスカはニヤリと笑う。


「なんでお前、それを知ってんだよ! まさかお得意の勘か?!」

「さっき聞いちゃったのよ。ギルドの職員に。アーシラって言ったけ?」

「アーシラちゃん、来てたの!?」

「さっき帰ったわよ。心的外傷後ストレス障害だとかなんとか」


 また――!


 なんなの! その心的なんたらって? 流行ってんの?


「まあ、あんな気持ち悪い寝言聞いたらそりゃあね。傷つくわよね~」


 エスカはうんうんと頷く。


 寝ていた時の俺、一体何を口走ったの?

 あ。くそ! もう夢の内容を思い出せない!!

 なんだっけ。アーシラちゃんがなんだっけ!?


「あれって、あんたの恋人」

「そ――」

「――な訳ないわよね」


 せめて冗談でも「そうです」ぐらいは言わせろよ。


「一応、忠告しておくと、あの女はやめておいた方がいいわ。腹に一物、二物も持ってる女よ」


 カ! うるせぇよ! 魔王の娘が人間の女を語るんじゃねぇよ。


 とその時だった。

 不意に金属がカタカタと鳴る音が聞こえた。


 首を巡らす。

 台所で鍋の蓋が踊っていた。


「おっと……。ようやく出来たわね」


 エスカは立ち上がって、火属性が付加された焜炉から鍋を上げる。


「おいおい。人んの台所を勝手に使ってんじゃねぇよ」

「いいでしょ。あんたのために料理を作ってやったんだから」

「料理? お前が? 本当に食えるのか? ヤモリの尻尾とか入ってないだろうな」

「あんたさ。警戒するのは百歩譲ってわかるけど、あんたが休憩時間に食べてるものってなんだと思ってんの」


 あ。そう言えば、普通の砂糖菓子だ。


「魔族と人間の味覚ってそんなに変わらないわよ。確かにちょっと食べてる物は違うかもしれないけど」


 そのちょっとが問題じゃなかろうか。

 そもそも俺の前に、糞を主食とするお前の眷属がいらっしゃるのだが。


「はい。どうぞ」

「なんだ、これ? お粥か?」


 エスカは鍋からよそうと、木の皿に移し、俺に差し出した。


「スィームが纏わり付いて食えねぇよ」

「あらそうね」

「ピキィ!」

「まだ熱が下がってないって? 仕方ないわね。このエスカ・ヴァスティビオが食べさせてあげる。魔王の娘に食事の世話をしてもらうこと、光栄に思いなさい」

「俺は別に望んでないんだが……」

「いいの! ほら、あーんして、あーん」


 くそ! なんか寝たきりで介護されてる気分だ。


 差し出されたスプーンの先を見つめた。

 程よく柔らかくなった米が、少量盛られている。

 真っ白な米だ。見た目はごく普通のお粥である。


「人の歯とか入ってないよな」

「あんた、私を誰だと思ってんのよ!」


 魔王の娘で、拷問姫様でいらっしゃいますが、それが何か?


「ほら、食べなさい」

「ごべ!」


 エスカは無理矢理俺の口に押し込んだ。

 痛ぇ! のどちんこに当たった。熱ぃ! 熱!


 だが――。


「あれ? 普通だ」


 というか、うまい。

 お腹も減っていたのもあるだろう。

 それを差し引いても、エスカの作ったお粥はうまかった。


「どうよ」

「うん。うまいぞ」

「でしょ。……人間の味覚には自信があるのよ」

「意外な能力だな」

「意外は余計だつーの!」


 熱々のスプーンで俺のおでこを叩く。熱ぅ!!


「もうちょっと食べさせてくれよ」

「はいはい。仕方ないわねぇ、勇者様」


 エスカは文句を言いながら、俺の口にお粥を運んでくれた。

 うん。なかなかいいな。

 こいつ結構、主婦とかになったら、いい奥さんになるかもしれん。

 まあ、口が裂けても本人の前では言わないが。


「なんだか元気になった気がする」


 別にお世辞で言っているわけじゃない。

 病は気からというが、栄養を摂取して、調子が戻ってきたのかもしれない。

 思えば、最近酒とつまみしか食べてなかったような気がするしな。


「そ、良かったわね。隠し味が利いたのかしら」


 …………。


 何か恐ろしいことを聞いたような気がする。


「な、なんだ? 隠し味って」

「別に変なものは入れてないわよ。薬味よ。薬味」

「ほう。薬味……。たとえば――」

「ええっと確か、竜の骨とか」


 ぶぅぅううううううううううう!!


 俺は盛大に吹き出した。

 吹き上がったご飯粒は天井付近まで飛び、戻ってきて霰みたいに俺の顔に降り注ぐ。


「ちょっ! 汚いわね!」

「うるせぇ。何を入れてんだよ!」

「あんた、知らないの! 竜の骨って歴とした薬なのよ」


 それでも食べる前に一言を教えてほしかったわ!!


「他に変なものが入ってないだろうな」

「そうね。オーガの睾丸とか!」

「おえええええええええ!!」


 俺は必死になって吐き出そうするが、時すでに遅し。

 病人に優しいお粥は、すでに俺の胃の中で溶かされつつあった。


「他には!?」

「え? まだ聞くの」

「ちょっと待て。お前が躊躇するって、凄い嫌な予感がするんだけど」

「いいじゃない。知らない方がいいこともあるわよ」

「てめぇ、急にかまととぶってんじゃねぇよ! 吐け! じゃないと、お前にもお粥を食わせる! 全力でだ!!」

「ああ。わかったわよ。……えっと、なんていったら良いかしら。黒蟋蟀(くろこおろぎ)って言えばわかる?」


 俺の顔からみるみる血の気が引いていく。


 お前、それって――。


「そう。ゴキ――――」


 ぎやああああああああああああああああああああああああ!!!!


 俺は絶叫すると、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。



【本日の業務報告】

 元勇者はお粥を食べた。

 元勇者は気絶した。

 心にトラウマが植え付けられた。


漢方って割となんでも入ってるよね。


次は……考え中。最低1日1話は更新していきますので、平にご容赦をm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ