第17話 元勇者は語る。
お待たせしました。
すいません。昨日中に投稿出来ませんでした。
「ねぇねぇ、どんな気持ち? 勇者……。聞かせてよ」
エスカが悪魔のように微笑む一方で、俺は作業を続けている。
針がついた檻を持ち上げると、とりあえず隅っこの方にのけた。
これでだいぶスペースが空いてきた。
器具が雑然と置かれているせいで、足の踏み場もない状態だったが、きちんと整理すれば、お姫様1人くつろぐスペースぐらいは出来そうだ。
うむ。なかなか悪くない。
ふぅ、と汗を拭う。
次は鋼鉄のの処女だ。
あれは、さすがに重そうだな。
肉体強化スキルによって、ある程度重い物でも運べるが限度がある。
かといって、スライムに手伝ってもらうわけにはいかんしな。
こういう時、俺と同じぐらいスキルがあって、都合よく動かせる人――おほん! ――アルバイトがほしいって思うぜ。
まあ、なかなかいないだろうけど。
魔王城を就職先にしようなんて思うヤツがいないって意味でな。
しゃーない。
めんどくさいけど、スキルのレベルを上げるか。
俺は踵を返す。
「ちょっと聞いてるの、あんた!?」
いきなりエスカのどアップがあった。
近い近い。かなり近い。
ちょっとロマンチックにいうなら、鼻息がかかる程度に近い。
エスカは歯をギリギリさせて怒っていた。
「無視すんじゃないわよ」
「心配するな。ちゃんと聞こえてるよ」
鋼鉄の処女に手をかける。
器具に象られた少女の顔を見ながら、俺は隅っこの方に持っていった。
後は、小物だな。
部屋を改めて見回す。
玩具が散らかった子供部屋みたいに、あちこちに散在していた。
1つ1つ拾わなければならないと思うと、憂鬱になってくる。
梁の上にも拷問器具がぶら下がっているし、おそらくこれも整理しなければならないだろうな。
とりあえず側に落ちていた拷問道具を拾う。
変わった道具だ。
鉄で出来ていて、洋梨か茄子みたいな形をしている。植物で例えるところの茎の部分には、男の上半身が象られていた。
珍しそうに眺めていると、横から声が聞こえた。
「【苦悩の梨】っていう拷問器具よ」
「ほう。詳しいな」
「当たり前でしょ。誰だと思ってるの。エスカ・ヴァスティビオ。拷問姫なのよ」
「どうやって使うんだ?」
「それ、聞くの?」
逆に聞き返された。
質問を質問で返すなって、父ちゃんに教わらなかったか?
――って、こいつの父ちゃん、魔王だったか。
「別に答えたくないなら別にかまわんが」
「いいわよ! 教えてやるわよ」
半ば逆ギレ状態で、エスカは俺から【苦悩の梨】を奪う。
「これはね。人体の開口部に注入して……」
茎の部分を回す。すると中のネジが周り、徐々に梨の皮部分を押し開いていった。
「こうやって、開口部を破壊する道具よ。主に口や肛門なんかをね」
「へぇ……。じゃあ、女のマ●コもか?」
「ちょ! あんた! 私、女の子なんだけど!」
いやいや、お前は魔族だろ。
エスカは顔を真っ赤にしながら、つんと高い鼻を振ってそっぽ向いた。
「すまんすまん。まさか魔族がそんなことを気にするとは思わなかったから。……ほら、お前らあれじゃん。裸とは見られても全然平気じゃん」
「そんなの下級の魔族でしょ。私は違うの! 一緒にしないで!」
いやー、さっきの話……。
お前の親父の側近から聞いて、本人も全く無頓着なんだが。
エスカは何かに気付いて、再び俺に向き直った。
白い歯を見せて、笑う。
あの嫌らしい――魔族の微笑に戻っていた。
「あんたのいう通りよ。女も殺したわ。ざっと200人ってとこかしら。女の断末魔って聞いたことがある? とっても素敵な音色なの。でも、女の死体ほど無様なものはなかったわ。特に顔が……。どんな美しい女もね。断末魔を上げる瞬間、醜くなるものよ。……私は嫌いだったけど。醜くて」
鋼鉄の処女を見つめる。
「鋼鉄の処女は私のお気に入り。……そうね。ざっと5000人かしら。クライマックスはそう――。やっぱり蓋を閉める瞬間ね。鋼鉄の処女ってね。女に使われることが多かったけど、男に使った方がいいのよ。男の命乞いほど愉快な音色はないから」
恍惚とした表情を浮かべ、ケタケタと笑った。
「女は中で刺されると、失神してそのまま何も聞こえなくなるけど、男はしぶといでしょ。くぐもって聞こえる男の断末魔が、またたまらないのよ」
その後もエスカは、拷問器具の講釈を続けた。
使い方。用途。使った時の心地よさ。悲鳴。そして数……。
まるで最高級の家具でも売るかのように、説明を重ねた。
「すべて合わせて、5万人といったところかしら。5万人よ、5万人。5万人の人間が、ただの遊び道具として死んでいったのよ。ねぇ、どう……? 勇者。悔しい? 自分の同胞を殺されて。怒りなさいよ。私の胸倉でも掴んでもみなさいよ。さあ、さあ――」
ドレスを引っ張る。
大きな果実のような胸が見えてしまった。
俺は慌てて逸らす。
その行動を見て、怯んだと思ったのだろう。
エスカは勢いづき、激しくあおってくる。
その度に胸が揺れる。
直視しないようにするのだが、どうしても目が動いてしまう。
男の悲しき性ってヤツだ……。許せ。
「怒ってるでしょ。悔しいでしょ! だったら、戦いなさいよ! もう1度! 私たちと!」
…………。
エスカを見つめた。
魔王の娘は「やっと自分が望んだ展開がきた」という風に、口端を裂いて笑う。
「その気になってくれたようね。……どうぞ。私の命をあげるわ。勇者のあなたなら簡単よ。この細い首を折るだけでいい。ちょっと力を込めれば、すぐ済むわ。それとも拷問にでもかける? いずれにしろ、そんなことすれば、お父様は黙っていないわ。きっと戦争を再開される! 私は死ぬけど、今度は絶対負けない! 魔族は人間に負けたりなんかしないんだから!!」
エスカは叫ぶ。
俺は手を伸ばした。
エスカは一歩下がる。
あれだけの啖呵を切っておきながら、少女の唇は震えている。
「下がるな」
俺は一歩前に出た。
エスカは俺の忠告を聞かない。また下がる。
再び一歩。
エスカはまた……。
気が付けば、壁際に追い込まれていた。
ぬるりと男の手が伸びていく。
魔族の姫は強く目をつぶった。
ドンッ!
拷問部屋に響いた。
俺の拳は部屋の壁に打ち付けられていた。
薄く目を開けたエスカは、何が起こったか悟ると、キッと睨む。
「情けをかけるつもり?」
「……そうじゃねぇよ」
拳を引く。
そこには派手な色合いの蜘蛛がいた。
「毒蜘蛛だな」
「え?」
「お前の肩に乗ってたんだよ。良かったな。まだ刺してない」
「そんなことを……。――ちょ! 馬鹿にしてるの! 私はこれでも魔族なのよ。魔王の娘! 蜘蛛の毒なんて効くわけないじゃない!」
「そういえば、そうだな。……なんだかお前って、魔族に見えなくてさ。さっきの反応も、まるで年頃の女の子みたいだったし」
「そ、それは……」
エスカの頬が赤くなる。
細い尻尾がせわしなく左右に振れた。
「それよりも! どうするの? 戦うの? 戦うんでしょ?」
「まーだ、そんなこといってんのか? 戦わないに決まってるだろ」
さもめんどくさそうに頭を掻いた。
エスカは納得などしない。
先ほどよりも強いトーンで、迫ってきた。
「なんでよ! 友好条約があるから? 戦争しても何の利益にもならないから。虚しいだけ? 命が尊いことに気付いたからとか? 何よ! なんで戦争しないのよ!」
「まあ、ぶっちゃけ。その全部なんだが……。しいていえば」
めんどくさいし……。飽きた――。
「は? 飽きた?」
「お前だって飽きてこねぇ? 5万人も殺してさ。5万回も悲鳴を聞いたら、もう十分って思うだろ」
「え? あ。いや……。わ、私は――」
「俺はすぐ飽きた。それでも魔王を倒さなきゃ、戦争が終わらなかった。だから仕方なく魔族やら魔物を殺した。積もりに積もって、5千万だ」
「ご――5千万!!」
「大戦が終わって、いろんな騎士団から声がかかったけど、全部断った。何も殺さない仕事に就きたかったからだ」
選り好みして、ゆっくり暮らしてたら借金まみれになってたんだけどな。
「お前が望むなら戦争をしたらいい。だけど、俺を煽って無駄だ。どっかの街にいけ。戦争に賛成する人間が1人や2人いるだろう。そいつらに当たってくれ」
「あ、あんた……。本当に――」
その時だった。
俺が拳を打ち付けた壁にヒビが入る。
やっべ! さっきスキルレベルを上げたから威力が……。
ヒビはみるみる上へと昇っていく。天井にまで達した。
すると、梁にかかっていた大型の器具が、梁ごとエスカに向かって落下してきた。
「きゃあああああああああああ!!」
エスカの長い悲鳴が、魔王城にこだました。
【本日の業務日誌】
元勇者は、毒蜘蛛を倒した。
経験値0 獲得金額0
手がばっちくなった。
日間総合78位まで来ました。
ブクマ・評価いただいた方、ありがとうございます。
PVもptも毎日着実にあがっているので、本当に嬉しいです!!
ストックがすでに枯渇気味で苦しいですが、
なんとか毎日投稿続けるので、お付き合い下さい。




