第14話 自動掃除機が仲間になりたそうに見つめている。仲間にしますか? Y/N
日間総合110位!
そしてなんと週間総合281位に入りました!!
ブクマ・評価をいただいた方ありがとうございます!
「しかし、凄いことになりました」
凄いことになっているのは、俺の眼前なんだがね。
ドランデスってば、裸身をさらしていることに全く無頓着だから、こっちが目のやり場に困る。このまま魔王城でバイトしてたら、女の裸に全く反応しなくなりそうだ。
なんか人生の半分どころか90%を損することになりそうな気がする。
生まれたままの姿の――元は龍なので生まれた時は龍の姿をしていたのだろうが――ドランデスは、廊下を見渡す。
すでにしっちゃかめっちゃかになっていた。
炎で石炭になった石畳み。
スライムに飲み込まれて、消化しきれなかった物があちこちに散乱している。
たとえば、石像や燭台なんかだ。
他にも大きすぎて、最後まで消化しなかった魔物や魔族もいた。
「あ~ら、お兄さん。こんなとこにいたのぉ」
振り返る。
ケンタウロスことオネェタウロスが蹄を鳴らして近づいてきた。
ちなみにスライムのゲル状物質をたっぷり浴びている。すげぇ卑猥。子供には絶対見せられない姿だ。
どうやら、スライムもケンタウロスの巨体を消化しきれなかったらしい。
というより、気持ち悪いから途中で放棄したのだろう。
今日の給料を賭けたっていい。
「あらあら、ドランデスさま。なかなかあられのないお姿ですこと」
「なかなか慎ましいお胸をされているのね」
「ちょっと! あんた! いつの間にノンケになったの?」
「や~だ。あれぐらいが可愛いんじゃない」
何故か、ドランデスの胸を巡って、喧嘩を始める。
「慎ましい?」
ドランデスは俺の方を見つめた。
頼む。こっちを見ないで。あと、なんか着てください。
「ともかく、出来るところから片づけをはじめましょう。ケンタウロスたち、あなたたちも手伝いなさい」
「ええ……。私ぃ、蹄鉄より重たい物もてな~い」
「そうそう。爪とか欠けちゃいそうだし」
「それにそろそろ寝ないと、お肌が――」
「なにか言いましたか?」
一瞬にして、廊下が凍り付いた。
先ほど解放された燃焼室の炎すら、たちどころに消え去っただろう。
それほどの冷気が、紺碧の瞳から放たれる。
怖ひ……。
ドランデスだけには逆らわないでおこう。
「ブリードさ――あ、いえ……。ブリードも申し訳ありませんが、終業時間までお手伝い願いますか?」
やっぱこうなるよね。
ま。これが俺の仕事だしな。
承りました。
「あらあら。さっきドランデス様、お兄さんのこと呼び捨てにしてたわよ~」
「私も聞いたわ。空耳かと思ったけど」
「言い直してたしね」
すごい良い顔でケンタウロスたちはこっちを向く。
口端を広げると、ニヤニヤと笑った。
うるせぇ、オネェタウロス!
こっち見るな、気持ち悪い。
「私は魔王様に報告してきますので」
「ああ。わかった」
上司に報告か。宮仕えも楽じゃないね。
あと服を着て来いよ、と心の中でアドバイスする。
次に会った時、さすがに裸だったら、注意しよう。
ドランデスの姿がいなくなる。
途端、ケンタウロスは愚痴を言い始めた。
魔王様に報告とか言いながら、自分は楽したいじゃないの――的なヤツだ。
それでも手を止めないのは、よっぽどドランデスが怖いのだろう。
上司も大変だが、部下も大変だよな。
しばらく作業していると、俺はおもむろに立ち上がった。
「あーた、どこ行くのよ」
オネェタウロスが目敏く俺を見つける。
肩をびくりと動かしたが、平静を装った。
「ああん! 便所だよ」
「便所? そんなのここでしなさいよ。別にあんたの粗○ンなんか見ても、私たちは興奮しないから」
粗○ンじゃねぇよ!!
割と立派なもんを両親からいただいてますが、なにか!!
だいたいそんなこと言う方が怪しいんだよ。
「俺は魔族じゃなくて、人間なの」
「はいはい。じゃあ、行ってらっしゃい」
バイバイ、と手を振る。
俺がいなくなったら、こいつら絶対サボるだろうな。
まあ、どうでもいいけど。
1つ角を曲がる。
気配がないことを確認すると、つなぎのポケットをまさぐる。
中にあったものを掴むと、そっと手を開いた。
ポケットから出したのは、1つ核を有した手乗りサイズのスライムだった。
プルプルと震え、手の平で右往左往している。
俺はそれを見て、ニヤリと笑った。
我ながら、実に悪い微笑みだ。
対して「ピキピキ」と小さな声を上げ、スライムはぶるぶると身体を震わせた。
どうやら思念波を出せなくなっているらしい。
ちょうどいい。俺の計画に持ってこいの逸材だ。
そう。
このスライムは、さっき俺とドランデスが焼却したスライムの一部だったものだ。
それをこっそりとポケットに入れて置いたのである。
「感謝しろよ、スライム。俺はお前が焼却されそうになったのを助けてやったんだ」
「ピキィ!」
上下に伸び縮みする。
どうやら感謝しているらしい。
「つまりは命の恩人というわけだ。お・ん・じ・ん。わかるな」
「ピキィ!」
ゲル状になっている部分を動かし、○を作る。
どうやら簡単な受け答えと、俺が言っている意味ぐらいなら理解できるらしい。
ますます好都合だ。
思わずほくそ笑んでしまう。
「だから、今日からお前は俺の言うことならなんでも聞くんだ。いいな」
「ピキィ!」
何だか不安だ。
返事はいいのだが、さっきから「ピキィ!」しか言ってない。
とりあえず、試してみる価値はありそうだ。
口角を上げる。そして――
「くくく……。ははは…………。あッ――――はははははははははは!!」
魔王みたいに哄笑を上げるのだった。
次の日。
俺はいつも通り業務に精を出していた。
昨日は、瓦礫やら炭化した壁の掃除やらは進まなかった。
仕事量が膨大であることもそうだが、オネェタウロスが全く役に立たなかったのも、理由の1つだ。
あいつら、マジで使えない。仕事をせずに、寝てる方がマシだ。
いるようなあ、そんなヤツ。組織の部署に1人や2人。
もう辞めさせて、野に放っちまえよ。
結局、今日もその続きだ。
当然のごとく、ケンタウロスの姿はない。
呼びにいって手伝わせてもいいが、そしたら俺の秘密兵器の出番がなくなる。
「おはようございます。ブリード」
俺は振り返った。
当然のごとく、ドランデスが立っていた。
相変わらず、声をかけられるまで気付かなかったが、さすがにもう慣れた。
「瓦礫の撤去をしてるところもうし――。あれ?」
ドランデスは廊下を見回した。
散在していた瓦礫はなくなり、壁もピカピカになっている。
むしろ、前よりも綺麗になっていた。
「驚きました。もうほとんど終わってるようですね」
「まあな」
「どんな魔法を?」
チッチッチッと俺は指を振った。
「ここに来て、もう4日だぜ。仕事に慣れてきただけさ」
謙遜しつつも、鼻を高々と掲げる。
「で――。俺になんか用か?」
「実は、また処理をお願いしたいのですが」
ドランデスは申し訳なさそうに俺に尋ねた。
ちょっと上目遣い。
眼鏡と眉の間から覗き込んでくる紺碧の瞳はなかなか愛らしい。
「任せろ」
「ありがとうございます」
ドランデスに案内され、やってきたのはマンティコアの部屋ならぬ檻だった。
顔は獅子。尾は蠍といういくつかの動物や昆虫の特徴を持ったモンスターは、最初は威嚇してきたが、ドランデスを見るなり猫のように甘えてきた。
主人に連れられ、別の檻へと移動していく。
その姿はさながら猛獣使いだ。
いっそ魔族だけでサーカス団とか作ったら、うけるかもしれない。
「では、あとを頼みます」
ドランデスはいなくなる。
俺はポツンと1人、檻の中に取り残された。
そこかしこには、マンティコアがひりだした糞が、そこかしこに落ちて、えも言えぬ臭気を放っていた。
「よし。出番だぞ」
俺はずっと手に持っていた大きな鞄を地面に置く。
開け放つと、1匹のスライムが飛び出てきた。
俺の前に立つ。
「やることはわかっているな」
「ピキィ!」
俺は念を押すと、いつも通りの返事がかえってきた。
「よし! 行け!」
「ピキィ!」
スライムは勢いよく飛び出す。
すると、地面に落ちていた糞を次々と食っていく。
さらにスライムが通った後は、塵や埃まで消化されるので、どんどん綺麗になっていった。
俺はその場に腰を下ろす。
ポケットから新聞を取りだし、広げた。
普段は読まないのだが、暇つぶしに買ってみた。
しかし、すぐに飽きて折り畳む。
「あとは頼んだぞ、スライム」
ひらひらと手を振った。
ピキィ! という声が檻の角から聞こえた。
こんな楽な仕事で999,999,999エン。
ボロい商売だ。
若干、においだけが気になるが、そんなものリスクのうちにも入らない。
畳んだ新聞を枕にして、俺はしばしの眠りにつくのだった。
【本日の業務日誌】
スライムが仲間になった。
自動的にお掃除することが出来るようになった。
元勇者のお掃除のスキルが100上がった。
この後、今日のスケジュール的に更新が難しいため、
この1話だけになります。
でも、可能であればもう1話頑張って更新します。




